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月夜のセレナーデ  作者: ほしまいこ
第三章 札幌出張編
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第四節 大人の男

改めて大人について考える気づき編です。

第一話 2人の力

<久我の作戦: ユウリのサポート>


飛行機は1時間半ほどで新千歳空港に到着した。


俺は北海道の地に降り立った。

ユウリを追ってではない。

半分ホントで、半分ウソだ。


・・・・・


札幌の新店舗立上げの課題報告が本社にあった。


ひと月弱の業務量ではなく、でも新規オープンを後ろ倒しにはできないため、課題の整理が早急に必要となったからだ。

そもそもプロジェクト事態が短期間だったこともあり、遅延の連絡は本社にあったとは言え、手を打つタイミングが遅すぎたこともある。


経験者のユウリが入ることで、この一週間でオープンの道筋は立ったとはいえ、本社からの支援は必須の状況だ。


今回はユウリのお手柄だ。現状を済々と整理し3日で報告書をまとめた事、札幌支社への要員アサインを即座に行ったことで、腰の重い本社が動いたと言える。


さすが、俺のユウリだ。


札幌の新店舗ビルの競合他社との差別化については、営業部で巻き取ることとなった。

なぜなら、俺はユウリの札幌出張が決まったタイミングで、裏で現地調査を進めていたからだ。


頃合いを見てユウリに情報連携しようと思っていたが、今回はタイトな期間と言うこともあり俺が動いた方が早い、と上を説得した。


上司の豊永さんは俺の気持ちが分かるのか、笑っていた。


「おまえ、確信犯だな。まぁ、確かに営業部の売上に貢献する内容だし、今後の社の事業領域の展開も見込める。やってみろ」と言ってくれた。


出張が決まったのは、ユウリが旅だって10日後の月曜日だった。


ただ、携帯に連絡するか迷った。

きっと怒られる。


「お前、なんで来るんだよ」


って、ぜったい怒られる。


そんな簡単に反抗期が収まるのであれば、世のお母さん達は苦労しない。


でも、大切な仕事のことだから伝えないと。

俺は月曜日の夜、ユウリの携帯に電話した。


「ん、久我?どうした?今、お前に連絡入れるところだったんだ。電話くれるなんて、テレパシー通じたみたいだな、はは」


あれ?機嫌がいい、よかった!


「ユウリ、まだ仕事か?ご飯は食べている?そっちの仕事、忙しんだろ?体調は大丈夫か?」


結局、俺はオカンモードの性格から抜け出れないらしい。ユウリはそれを感じたのか、電話越しに笑っている。


「まだ仕事。幸い、システムの改修は目処がたったよ。

俺は社宅でも一番札幌駅に近い所にしてもらってるみたいだから、皆はさっき帰宅させて、俺だけ仕事残ってるんだ。久我は家か?」


俺はユウリに、札幌出張に合流の経緯を話した。

ユウリはやっぱりなと言って、怒らなかった。


「今回は最終フェーズと言っても、潰してない課題が多すぎるから、人をアサインする時に競合他社の件は営業部の範疇で動いたほうが良いと進言したんだよ。


やっぱりお前が担当か、適任だな。


でも嬉しいな、久我、待ってるよ!同じ社宅かな?期間はどのくらい? 」


「ユウリ、怒らないの?一人になって考えたいとか言ってたし、俺がいると邪魔かと思って言うの怖かった。

今週の水曜日、明後日にはそっちに行くよ。期間は2週間。ユウリより少し早めの帰任かな 」


ユウリはありがとうな、と呟いた。


「俺、もう大丈夫。経験値の件は片付いたよ。

だからもう反抗期過ぎて大人になったから、久我とまた仲良くしたい。心配かけてごめんな」


「ええ、ユウリ、経験値が片付いた??よく分かんないけど大人の階段みたいなものを登ったのか?誰と?いつ?」


俺の作戦は間に合わなかったのかと、倒れそうになる自分を叱咤し、焦って詰め寄った。


ふはは!っと、ユウリは電話越しに大笑いして、俺、仕事中だからそろそろ切るよ、と言って話をぼやかそうとする。


俺が息を呑む音が聞こえたのか、ユウリは笑いながら言った。


「俺、お前の作戦どおりに一人前の男になったよ。だからもう、経験値で悩まないから。心配することは何もないよ、安心して。

久我、ありがとうな。詳しいことは、来たら話す。あ、本当に浮気とかはしてないから。合法的だよ。


じゃ、あと少し仕事したら俺も帰るよ。札幌で、また2人の思い出作ろうな。じゃ 」


あ…俺は切れた電話を見つめ、ユウリの真意を推し量った。浮気なしに男になるって?合法的?何したんだろう。まさか風俗とかか?イヤ、それはない。


俺は水曜日が待ちきれず、札幌で時間を作るために東京で出張準備を頑張った。


ロバートにも電話報告した。ロバートは、よかったと何度も言ってくれた。


「やっぱりユウリは少し離れて、久我のありがたみを実感したんだな。良かった!

札幌の仕事は大変だろうが、2人で仕事もプライベートも楽しんで来いよ。


それと、ユウリの合法的に大人の男になった方法、聞いてきてくれないか?興味深いからな。


あと、これは久我へのアドバイスで、ユウリに会ったら ×××× 」


俺はロバートからのアドバイスをありがたく受け取り、札幌にいるユウリへのお土産にしようと心に決めた。



第二話 大切なもの

<ユウリの目覚め: 男になること>


「雨夜さん、こっち!」


花井さんが手を振る。いつ見ても肌ツヤがよく、笑顔の可愛らしい人だ。


「はじめまして、星野です。花井ヒロがいつもお世話になっております。今日はご一緒させて頂きます」


花井さんの隣には、穏やかな笑顔が似合う紳士でダンディな佇まいの、目が細いハンサムな男性がいた。この方が花井さんの彼氏か、ステキな2人だな、と思った。


俺は2人に挨拶をして、ススキノの狸小路にある美味しいと有名な炉端焼きの店に移動した。


花井さんはこの日のおすすめの、刺身4種、ほっけ、かれい、ヤリイカ、と次々に頼んだ。

星野さんは微笑んで花井さんの好きに選ばせている。


「雨夜さんはビール?日本酒は確か一合くらいしか飲めないのよね?無理しないでね、酔わせると、貴方の怖い彼氏さんに怒られちゃう。うふふ」


あれ?花井さん、久我と仕事で接点あったっけ?花井さんとのプロジェクトは久我は接点がなく、てっきり知り合いではないと思っていた。


「あら、知らないの?あなたの彼氏、フランス土産をご丁寧にオフィスまで持ってきてくれたのよ。海外出張の間は雨夜がお世話になりましたって。

穏やかに仕事の話しをしてたけど、あれはどう見ても俺の恋人に手を出すな、って感じだったわ。怖い怖い。

でもあなた、随分と愛されてるのね。ほんと、イイ男で見惚れちゃったわ。あなたとお似合いね」


す、すみません、、俺は思わず頭を下げた。久我め、あれだけ花井さんは彼氏がいて、俺とはなんでもないって念を押したのに。


花井さんと星野さんは札幌には今週末までいて、来週から帯広・美瑛に行くそうだ。


「雨夜さんは結婚式挙げたんでしょ?私達もそろそろ挙げようと思うの。今回、彼の札幌の実家で挨拶してきたの。3年くらい認めてもらえなかったけど、ようやくOK出たわ。ほんと嬉しくて」


星野さんは花井さんの肩をポンポンと叩き、ニッコリした。その後2人の馴れ初めなどお酒をチビチビしながら話を聞いた。魚はどれも新鮮で美味しく、同じ境遇の話で盛り上がり、俺たちはとても穏やかな時間を過ごした。



少し酒が進んだ頃、花井さんは俺に聞いてきた。


「雨夜さんは彼氏さんと順調?今、遠距離で大丈夫?結婚して数年だと色々あるでしょ?」


俺はつい、女性や恋愛の経験値の低さのコンプレックスについて、本音をもらした。


予想に反して、花井さんも星野さんも、うんうんと頷き、気持ちが分かると共感してくれた。


「やっぱり、同性を好きになるって、自分達の生き方があるって思っていても、知らずに世間的な一般論に自分が縛られちゃうのよね。わかるわ、私達もそう。

私たちは物心ついた時から同性が好きだったから、女性経験値はあまり気にしていなかったけど、あなたは元々ノンケで女性と付き合う機会が少なかったのよね?それで、久我さんのこと好きになって、性別に関係なく恋に落ちたんでしょ?すごいロマンチックね〜。


身体を許す関係なんて、本当に好きな人でないと気持ち良くないし、幸せにはなれないわよ。

女性の身体に興味があるとか、自分に自信をつけたい理由で彼女をつくるなんて、相手に失礼でしょ。


それに、男性は経験値の大小で、なにか身体が変わるわけじゃないの。だからあまり一般論に振り回されないことね!」


俺は目から鱗が落ちる気がして、ハッとした。

花井さんは微笑んで、トイレに席を立った。


「雨夜さん、ヒロの言う通りですよ。

むしろあなたは本当に好きな恋人との身体関係に満足しているんですよね?しかも身体だけでなく、心も深くつながっている。

それって、本当に奇跡なんですよ。僕の周りにも恋愛の妥協が多いから。


私は医者なので、医者の観点から言わせてもらうと、同性同士の結婚で唯一医学的に不可能なのは、2人の子供を持てないこと、それだけです。

子供を持つ価値基準や巡り合わせは、人それぞれ。あなた達は自分達の幸せの形を見つければ良いんですよ。


あと、医学的な余談ですが、同性との身体関係の方が気持ち良いっていうデータがあるんです。個人差があるでしょうけど。ご参考までに。


それと、こう言った問題は医師として良く患者さんに聞かれるんですけど、僕はこう答えてます。

後に心から大切だと思える相手に出会った時に激しく後悔するから、本当に好きな人と付き合ったほうが良いと思いますって。


あと、気をつけないといけないこととして、世間的に性的な経験と能力を結び付ける思考は二重の悲劇につながります。

まず、女性を人ではなくモノとして見るようになる。そして女性との交際経験が少ない男性を使い物にならないと揶揄するようになる。これは、完全な社会の歪みです。こんなことはなくなるべきだと僕は思っていますよ。


真の男というか、真の大人は、こう言ったことをきちんと理解している人です。

雨夜さん、この話が理解できたら、あなたは十分立派な一人前の男ですよ 」


星野さんは、にっこり笑って、俺の頭をポンポンしてくれた。

その優しさに、俺は知らずと涙がこぼれた。


そして、自分自身の思慮の浅さに反省してしまった。経験値とか、自信をつけるとか、何を根拠に自分は考えていたのか。

浅い一般論に振り回されていたことが恥ずかしくなった。



「あら、星野さん、雨夜さんを泣かせちゃダメでしょ。久我さんに怒られるわよ〜。この子一人の身体でないんだから。


ねぇ、雨夜さん、キンキの塩焼き、アスパラ、ししゃもだと何食べたい?わたし、最後にキンキのお吸い物は飲みたいわ! 」


花井さんはよく食べる。3人で笑って、結局全部頼んだ。


俺は会計後にトイレで席を外した。今日は本当に楽しい1日だったな。とっても幸せな気分だ。


・・・・・


「ねぇ、星野さん、雨夜さんに私たちの思いがきちんと伝わったようね、よかったわ!

今日は一緒にきてくれて本当にありがとう。


しかし久我さん、私に電話してきて、相談したいって言うから何かと思ったけど、本当に雨夜さんのこと愛しているのね。ちょうど札幌にいる期間でよかったわ。


この件は、札幌を発つ頃に久我さんに報告入れておくわ。久我さんも雨夜さんの口から聞いた方が良いと思うし。でも良いわね、他のカップルを幸せにするのって」


星野さんは嬉しそうに花井さんを抱き寄せた。

俺はこの現場を見ていないが、後日、久我から打ち明けられて知った話。


久我、お前は俺がどんなに拒んでも、俺を手放さないためにしっかり作戦を立てるんだな。

本当に、ありがとう。


そんなところ、大好きだよ。

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