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月夜のセレナーデ  作者: ほしまいこ
第二章 北陸の旅編
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第四節 明日への種蒔

こちらで北陸の旅編は完了となります。

癒しの旅で、ふたりはお互いの大切さに改めて気づきます。

*R15の表現があります。


第一話 俺だけの秘密

<久我の秘密: 快楽の中で>


ユウリが嫌がることはしない。

それが俺の原則だ。


でも今日はユウリが悪い。あんなに俺を煽って。


失いたくないだと?当たり前だ。離してやらないって何度も言っているのに、俺が別れるわけないだろ。


仕事が忙しくてユウリを抱けない日々が続き、俺が溜めていたストレスは、取引先にセクシャリティを揶揄されるより辛かった。


そんな俺のドス黒い気持ちを知らずに、仕事で疲れているとか、失ったらどうしようとか、ピュアなフィルターで俺を神聖化して、俺を甘やかして。

こんなことしたら、俺がどう出るかをユウリはまだ理解していない。


ユウリを手に入れてから、俺は彼の純粋さを失わないよう、細心の注意を払って接してきた。

俺だけを見つめて、俺だけ愛してくれるように。


なのに俺の努力をよそに、ユウリは他のやつにも優しく隙を見せてしまう。そしてつけ入られてもそいつらの思いも受け止めてしまう。優しすぎるんだ。


だから気づいて欲しい。その優しさは俺にだけ向けるものだと。


こうして激しく乱暴に抱くのは無言の警告なのに、当の本人は嫌がっても結局は俺の汚い思いを受け入れ、俺を更に気持ちよくさせてしまう。


嫌がって抵抗する声も、涙を溜めて俺を見つめる瞳も、結局は俺の怒りを鎮まらせ、逆に俺の欲望を増長する。意図しないユウリの反撃に、いつも負けてしまう。

だけど、そんなところが可愛くて愛おしくて仕方がない。


俺は男が好きなわけではない。強かな女性も同じだ。ユウリは俺が誰の悪口も言わない、なんて言うけど、本当は興味があまりないだけだ。


普通の男は自分のことばかり考えて、虚栄心が強く、こだわりが強い。しかも俺と同じく嫉妬深い。男を好きになるなんて考えてもいなかった。

多くの女性は、俺の中に自分の欲しい未来しか見ようとしなかった。だからいつも孤独だった。


でもユウリは、違った。

男なのに優しくて、他人のことばかり考えて、損得勘定しない。


加えて付き合ってからも、俺の外見ではなく中身を愛してくれて、心から尽くして受けとめてくれる。

性別なんて関係ない。俺にはユウリしかいないんだ。



冷静になり、我に返った。


「ごめん、身体大丈夫か?身体に負担をかけてしまってごめん、辛かったよな」


心配になり顔を覗き込むと、ユウリはふわっと笑い顔を拭う。


俺は申し訳なさで、知らず涙を落とした。ユウリは目を見開き、大丈夫?無理させたか?と逆に俺を労わる。


「本当にごめん、お前なしじゃ、生きていけない。こんなに酷い抱き方してごめん。俺、お前に甘えてばかりだ」


俺は更に涙をハラハラ流してユウリを困らせた。

ユウリは俺の気持ちを察してか、頬に手を添えた。


「泣くなよ、お前が何を考えてても怒っていても構わない。俺、エイジのこと愛してるんだ」


そう言ってキスしてくれた。


俺はユウリの腕の中でベソベソしながら、快楽の余韻に包まれながら眠りに落ちた。



・・・・・


「おはよう、お寝坊助さん、朝ごはんだぞ。早く起きないとお前の分、俺が食べるぞ」


ん、、、なんかかわいい声がする。

快楽の残った身体をなんとか動かすと、ユウリが俺の頭をワシワシ撫でている。


「ユウリ、身体辛くない?いま何時?」


「8時だぞ。お腹空いたろ。朝ご飯行こうよ!」


昨夜の妖艶さは跡形もなく、いつものかわいいユウリが笑っている。俺はモタモタと服を着て、手を引かれて朝ごはん会場に向かった。


食事は海が一望できるテラス席だった。


ユウリの黒髪を朝日が照らし、風に髪がなびく。

白い肌がほのかに蒸気し、瞳に俺を映して微笑む。


その瞬間を俺は目に焼き付けて、また恋に落ちている自分を感じていた。




第ニ話 明日への種まき

<久我の幸せ: 海辺と人生の途中で>


石川県の千里浜なぎさドライブウェイは青空が澄み渡っていた。

海岸線沿いに砂浜を8キロに渡って走ることができる珍しい国道の海岸線だ。


今日は俺が運転した。車の帆をオープンにして、隣りにユウリを乗せて、朝の海岸線を走った。


「ねぇ、この辺はUFOが出るらしいぞ!遭遇してみたいな。日本海って、太平洋とは違って海と空が青グレーで、確かに出そうな神秘的な雰囲気だもんな」


ユウリは本気で宇宙人との遭遇を考えているようだ。まぁ、それもあながち悪くないかもしれない。2人で宇宙の旅に出て、永遠の命なんかを得たら、ずっと一緒にいられる。


俺たちは走行車の邪魔にならない所に車を停めて、海の方に歩いた。ユウリがうーん、と伸びをして、潮風に髪を揺らしている。


ザザーンと波が海岸に寄せる。海は規則正しいかと思えば、急に大きな波になって足元近くまで寄せてくる。


「見て、蟹がいるよ。かわいいな、小さい。ん、エイジ?何見てるんだ?」


俺は海岸線に溶け込むユウリをずっと見ていた。

白い首すじに、俺の付けた赤い跡が目立つ。


ユウリは気づいているはずだ、俺の強い所有欲を。でも気にしないのだろう。

黒い髪を潮風になびかせ、俺に手を振る。


「何でもないよ。ユウリ、ありがとうな。この砂浜、車で走ってみたかったんだ。本当の海岸線ドライブだな。この後、どこに行きたい?」


ユウリは波際まで近づき、ヒョイと白い石を拾い上げ、その石をポケットにしまうと、俺の方に駆け寄ってきた。


「この海岸、あと数年で車が走れなくなるらしいよ。温暖化で侵食が進んでいるんだって。

今日の久我との思い出に、石を一つだけ持って帰るよ。もう来れなくても、一緒に来た証になるもんな。


今日はこの後、金沢城の兼六園に行きたいかな。お昼は近江町市場で軽く海鮮はどう?

時間があったら、ひがし茶屋街も良いけど、優先したいのは気多神社かな。

万葉集の中にも出てくる歴史深い神社で、縁結びの良縁のパワースポットなんだって。”入らずの森”は国の天然記念物みたい」


「縁結び?ユウリと俺の?結婚したのにか?」


ユウリはふははっと笑って、頷いた。


「そう、俺たちの。エイジとの良縁、ありがとうって神様にお礼を言いたいんだ。

あと、出来れば2人がいつか離れ離れになっても、また出会えるように。まだまだ先の話しだけど、神様には未来なんて一瞬の時間だろ?だったら先に予約しておきたいんだ」


ユウリ、、可愛すぎる。ずっと未来に渡って俺と一緒にいたいと願ってくれるなんて。


思わずひざまづき、顔を覆った。

ユウリは慌てて俺に駆け寄った。



・・・・・


今日の観光を終え、俺たちは旅館に戻ってきた。まだ3時だったが、早くユウリと2人きりになりたくてドライブのスピードを早めてしまった。


ユウリはそんな俺の想いに気づかず、運転上手いな!と喜んでくれたので良かった。

実際、北陸のドライブは快適で走りやすく、久々の運転を心から楽しむことができた。


「今日は運転ありがとう。久我、サングラス似合うから、車すれ違う度に女子グループが大騒ぎしてたぞ。何だか妬けた。

それに気多神社、行けてよかった!神様が本当に居そうな雰囲気で荘厳だったよ。北陸、満喫できたな。

この後、温泉入らないか?潮風で少しベタつくし、少し汗ばんだから」


ユウリはニコニコして、お土産をまとめてパッキングし、温泉に行く準備を始めた。


3時台の温泉はほぼ貸切状態で、昨夜の情事の跡も気にせず2人でゆっくりお湯に浸かった。


何度もユウリの濡れた髪は見ているが、おでこを出した今日はいつもに増して妖艶に見える。


人がいない事を良いことに、俺は後ろから抱きつき、うなじに何度もキスを浴びせた。

ユウリは黙って俺のキスを受けていたが、突然振り返り、俺の口に舌を差し込んできた。


「ん、ふぅ、、エイジ、、はやく上がろう」


ユウリも同じ気持ちだったんだな。

俺たちは急いで温泉を出て、部屋に戻った。扉を閉めたとたん、俺は我慢出来ず、濡れた髪のままのユウリをベットに押し倒した。


浴衣からはみ出た白い足と胸元が、陰り始めた日差しで一層白く輝いてみえる。

温泉で湿った肌は吸い付くようで、俺はユウリを堪能した。


目尻に涙を溜めたユウリは、俺を見上げて赤く色づいた唇を差し出し、キスをねだってきた。

そして汗まみれの身体で、潤んだ目で俺を見上げている。口を開け、物欲しそうに貪欲に俺から全て貪るように。


程なくして俺は意識を手放した。



「…久我、起きて!夕飯行こう」


ユウリは俺のおでこにキスをして起こした。


ぼんやり目を開けると、暗くなった空が窓の外に広がっている。俺はもう一度ユウリを手繰り寄せた。


「お前はご飯の時間は忘れないよな」


そう呟いて、ありがとうとキスをした。



・・・・・


次の日、東京に戻るのはあっという間だった。


1時間の飛行機で、気づけば見慣れた東京の喧騒に戻る。俺たちは明日からの仕事に備えることにした。


「久我は夜ご飯の準備をお願い。買ってきた鱒寿司で今日は簡単にしよう。俺は荷物整理と洗濯物しちゃうよ」


いつものユウリだ。家のことをテキパキ終わらせ、海岸で拾った小石をさりげなく居間の置物の横に飾った。



すっかりリフレッシュした俺は、空っぽの心身がフル充電され、またいつも通り仕事をこなす日々に戻った。

取引先の揶揄は、正論で打ち負かすか流す術を心得た。ユウリが心配しすぎないよう、仕事もセーブしている。




「ユウリ、なんか富山から届いたぞ。これ何だ?」


数日後、富山からダンボールが届いた。

ユウリは待ってましたとかけ寄り、中からチューリップの球根を取り出した。


「予約販売してたんだ。自分でも咲かせてみたくて。チューリップは比較的簡単らしいぞ、育てるの頑張ってみる。お前の好きな品種の”春天使”と”ニューサンタ”も買ったぞ。来年の春、咲くの楽しみだな!」



翌年から、ウチでは春に白や赤のチューリップがベランダに咲き誇るようになった。

春天使はユウリらしい白の花弁、ニューサンタは俺っぽいとらしく、赤に白のフリルの縁取りがある品種だ。


俺はそれを見る度に、ユウリとの癒やし旅の時間を幸せに思い出す。


「あっ、春風だ。ベランダ気持ちいいな」

ユウリがふわりと笑った。


今日もふたりの部屋に、爽やかな風が吹き込んでカーテンを揺らした。


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