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1 Who killed Cock Robin?

「Life of this sky」シリーズ11作目。

今回のサブタイトルはMother Gooseでw


Who killed Cock Robin?

I, said the Sparrow,

with my bow and arrow,

I killed Cock Robin.

「慰安旅行に行きましょう!」

 長かったドローン事件がようやく解決し、後始末もひと段落したところで、博が言い出した。


 以前から、昔は盛んだったと言う職場の慰安旅行を支局でもやりたいとかねがね言っていた博は、この機会に全員で温泉にでも行きましょうと声を上げる。

「そりゃ、イイけど・・・大丈夫なのか?」

 FOI日本支局は、365日24時間営業のコンビニのように年中無休ではなかったのだろうか。真はその辺りは大丈夫なのか、と思う。

「本部の許可を貰いました。ドローン事件では、捜査官の殆どが負傷しましたしね。それに日本の犯罪集団を1つ潰した功績もありますので、3日間だけですが特例で一斉休業します。ふみ先生と花さんも一緒ですから、総勢10人ですね。あ、ビートも連れていきたいので、10人と1羽ですか」

 こういう機会がこれからもあるとは限らない。折角なので、本部の気が変わらないうちにと、急いで行き先を探して慰安旅行に出発した支局だった。


 2泊3日と言う事でなるべく近くの温泉を探した結果、隣県のO市にあるO屋温泉ホテルの離れ1棟を丸ごと予約した。車を飛ばせば支局から2時間と掛からない。現地集合と言う形で、FOI日本支局の慰安旅行が始まった。


 温泉街から徒歩20分位の場所にある温泉ホテルは、山を背景にした川沿いの老舗で、閑静でありながら交通の便も良く、温泉施設も素晴らしい宿だった。

 離れは平屋で和風の趣もありながら、中は幾つもの個室に分かれていて、露天風呂だけでも3つある。

 チェックインを済ませ離れに集まった10人は、それぞれ好きなように部屋を決めた。博は当然、空と一緒だが、夫婦の真と小夜子も2人で1室、ジーナは慣れていないし賑やかな方が良いから、と大部屋で春・ふみ先生・花さんと同室になる。春は、修学旅行みたいだと喜ぶが、先ずはジーナに『修学旅行とは何か』を説明しなければならなくなった。残る男性2人、豪とエディが同室になった。

 とはいえそれ以外にも部屋はあるので、酒盛りでもしたくなれば空いているところでいくらでも出来る。2泊しか出来ないのが、惜しいところだ。


 部屋割りが済むと夕食までは自由行動なので、全員先ずは温泉に入って疲れを癒す。最初くらいは、みんな一緒に入りましょうよ、という花さんの提案で男性陣と女性陣に分かれてそれぞれが露天風呂に向かった。

「日本の温泉って初めてよ! Hot Springsには行ったことがあるけど水着着用だったから、実はこういう裸の付き合いって初体験」

 ジーナが言うと、別の意味に聞こえてくる。全員彼女がバイだと言う事は知っているが、だからどうだという気分だ。家族のような感じなのかもしれない。だが一応念のため、ジーナの想い人である空には目を配っておこうとは思っていた。

 ジーナは花さんから入浴のマナーを教えてもらいながら、それでも気づかれないようにこっそりチラチラ空の姿を眺めていた。

(・・・こう言うの、何て言うんだっけ・・・あ、そう眼福!眼福・・・で、目の保養!)

 空の方は、温泉や露天風呂は今まで何度も来ているので、慣れた様子でリラックスしている。未だに自分の身体に関心が無いので、裸だろうが何だろうが、見られてどうと言うものでは無い。それはジーナに対しても同じなのだ。

(また思い出が増えるわね・・・慰安旅行ってイイわぁ~~)

 しっかり記憶に留めておこう、と思いながら湯に浸るジーナだった。


 夕食は全員で、広い座敷に座って摂った。座布団も猫足のお膳も初めてのジーナとエディは大喜びだ。料理も山の幸をふんだんに使った豪華なもので、地酒や地ビールもなかなかのものだった。全員が良い気分で食事を終えると、酔い覚ましに散歩にでも行こうと小夜子が言い出した。

「まだ温泉街は、お店も開いている時間だそうよ。お土産物屋とか、覗きながらぶらぶらしない?」

「わ!良いですね!」

「え?ナニ・・・夜遊び?」

 春とジーナは早速賛同し、黙ってニコニコしている空を引っ張って、浴衣に茶羽織と言う姿で出かけてゆく。花さんとふみ先生は、食休みと言って不参加だ。

 男性陣は、ボディーガードに付いて行った方が良いかと思ったが、女ばかりとは言え4人とも捜査官である。しかも空とジーナは実戦タイプだから、何かあっても大丈夫だろうと思い直した。

 おそらく彼女たちは、あちこちの店を覗き名物を食べ歩いたりするのだろう。それに付き合う事を想像すると、流石に二の足を踏んだのだ。

 けれど博は、小夜子と春に「空とジーナを2人だけにしないように」と念を押すのを忘れなかった。


 そして男性陣が想像した通り、4人は夕食後にも拘わらず、あちこちの名物を買い食いしたり並んでいる店を全て見て回って、温泉街を堪能していた。

「これ、美味しい!・・・温泉饅頭?あったかくてイイわぁ~」

「こっちのぬれ煎餅も、イケるわよ~」

「名物の揚げ蒲鉾、ビールが欲しくなりませんか?」

 ジーナが買って半分に割った温泉饅頭を頬張りながら、ぬれ煎餅の欠片や差し出された揚げ蒲鉾を味見する空は、忙しくて言葉も出ない。それでも、美味しそうにモグモグ食べている姿は、食べさせる方が嬉しくなる何かがある。餌やり体験に通じるものがあるのかもしれない。


 そんな4人は、いつの間にか駅前の広場までやって来ていた。

「・・・?」

 空はふと足を止めて、広場の片隅を見る。

「ん?・・・何、あれ・・・ここもガラが悪くなったもんだわ」

 以前来た時は、のどかで和やかな雰囲気が漂う温泉街だったのに、と小夜子が渋面を作る。

 やや薄暗い広場の隅で、塾帰りらしい大人しそうな女学生が2人、20代くらいの男5人に取り囲まれている。女の子たちはかなり嫌がっている様子が見てとれた。小夜子は足早に近寄ると、いかにもガラが悪そうな男たちに声を掛ける。

「ちょっと!何してんのよ」

「ああ?オバサンは引っ込んでナ」

「はぁ?」

 確かに彼らから見ればオバサンかもしれないが、それでもやはりムカッとした小夜子は、手提げの中から警察手帳を取り出そうかと思う。そんな小夜子に、男の1人が突き飛ばすように手を伸ばしてきた。

「イッテッ!」

 いつの間にか傍に来ていた空がその手を掴み、手首辺りに走る神経を上から指でグリっと押したのだ。瞬間的に走った痛みに、男は声を上げて手を引く。

「ナ、ナニしやがんだ!」

 痛みを与えてきた相手は、軽く眉を顰めてこっそりと手を擦っている。触りたくはなかったというような仕草に、男は頭に血が上ったようだ。

「アンだよ、テメェはよ!」

 空に掴みかかろうとする手を、ピシッと止めたのはジーナの手だった。

「・・・うふん、ワルイ子ねぇ」

 そうなると、後は乱闘である。


 小夜子と春は、被害に遭っていた女学生たちを保護するように、少し離れた場所に連れてくる。そして背後を振り返り、空とジーナの姿を見た。

 ジーナは、慣れない浴衣が邪魔だとばかりに、裾をからげて帯に挟んでいるから、太腿辺りから下が全て露わになっている。空の方は、裾をからげるまではしていないが、片手で裾を摘まんで動いているから、開いた浴衣の裾から片方の足がその付け根から爪先まで見え放題だ。

 それまで見てみぬふりをして通り過ぎていた通行人たちが、思わず足を止めて見惚れている。

(・・・これも、空とジーナを2人きりにしている状況かしら?)

 小夜子は出がけに博に言われたことを思い出しながら、手提げから警察手帳を取り出した。

(でも、これ以上観客サービスする必要は無いわね)

 小夜子は徐に近づいていくと、転がされている男たちに良く見えるように警察手帳を掲げて言った。

「逮捕されたいボクは誰かなぁ~~」

 男たちは、あたふたと逃げて行った。


 ホテルに戻って、一応あらましを報告した4人だったが、やはり男性陣にはいい顔をされなかった。そう言う職種なのだから仕方がないとは思うが、何で彼女たちはもっと穏便に片付けられないのかと、つい溜息が零れてしまう。けれど、誰も怪我などもせず無事に帰って来たから良しとするしかない。

 結局、その後は部屋に引き取って、それぞれが楽しく過ごしたのだった。


 翌朝、博と空はビートを連れて朝食前の散歩に出ていた。

 空はまだ少し眠そうで、肩の上ではしゃいでいるビートとは対照的だ。それは要するに、昨晩楽しく過ごした結果なのだが、結局すっかり寝不足になっている。腰が痛くないのは助かるが、それはきっと温泉の効果なのだろう。

「・・・これは、少し目立ちますかね」

 川にかかる橋の上を歩きながら、博はふと呟いて指先を彼女の首に伸ばした。白く細いうなじから肩にかけて、赤い花弁を散らしたような跡がある。言わずと知れたキスマークなのだが、そう言えば散歩に出る前に一緒に入った部屋付き露天風呂でも、胸や背中にその花びらは散っていたと思いだす。

「・・・え?」

 しかし空は、そんな自分の状態に全く気付いておらず、怪訝そうに手を首に当てた。そんな彼女に、博はすまなそうに説明する。

「キスマーク・・・気を付けたつもりだったんですが・・・」

 これでは、朝食の席で皆に気づかれてしまう事は間違いない。まぁ、真には小言か嫌味くらいは言われそうだが、他のメンバーは苦笑くらいで済ませてくれるだろう。そんな事を考えながら、橋の中ほどまで来ると、ビートが彼女の肩から飛び立った。

 《 オサキニ~~ 》

 そう言い残して離れの方に飛んでいこうとする灰色のヨウムは、いいムードになりそうな2人に遠慮したのだろうか。

 けれどその瞬間、空気を切る鋭い音が響く。

 ビートの羽が数枚、千切れるように宙を舞い、翼を広げたままその身体は川の中に落ちた。


「ビートっ!」

 空は叫ぶと当時に、橋の欄干を飛び越えた。水面まで6mはあるとアイカメラからの言葉を聞いた博は、自分が飛び降りるのは難しいと判断し、急いで橋を渡って河川敷に降りる。

 空はビートを抱いたまま、浅い川の中に座り込んでいた。


(あの音は、ボウガンですね・・・)

 博は岩を避けて川に入り、ザブザブと音を立てて空に駆け寄った。

「空、大丈夫ですか?ビートは・・・」

 その声が聞こえたのか、空に抱きしめられたままのビートが、藻掻きながら声を上げる。

 《・・・ソラァ・・・クルシイヨォ~~ 》

 自由になっている方の翼をバタバタさせるが、空の手は緩む気配も無い。

「空?・・・ビートが苦しがっていますから、手を・・・」

 何だか彼女の様子がおかしい。博は引きはがすように力を入れて、空の手をビートから離させる。

 やっと自由になったビートは、博の肩に飛び乗るとブルっと身体を震わせた。

 《 ビックリシタノ~~ オチタ~~ 》

 どうやら怪我は無いようで、ビートは確認するように翼を広げた。

 《 ヌレチャッタ ハネ トレチャッタ 》

 そんな声は聞こえないようで、空は焦点の合わない眼で身体を硬直させている。

「空!ビートは無事ですよ!・・・空?」

 彼女の両肩を掴んで声を掛けるが、反応が無い。ビートは博の腕に飛び移って、そんな空の顔に頭を擦り付けた。

 《 ソラ~ ビートダイジョウブヨ~ ソラ~ 》

 博とビートの声に、彼女の視線が漸く定まる。

「・・・・ぁ・・・」

 自分の顔を覗き込む灰色の鳥を見て、微かに声を上げると、空は糸が切れたように博の腕の中に倒れ込んだ。


 橋から飛び降りた時に、どこか打ったのかもしれない。彼女の運動能力ならそんな事も無いとは思うが、この様子はとにかくおかしい。

 博は空を抱き上げると、ビートを肩に乗せてホテルの離れに急いだ。


 朝食に向かおうとしていたふみ先生は、博に抱かれて意識が無く、びしょ濡れの空を見て驚くが、直ぐにテキパキと診察をした。

「・・・特に外傷も無いし・・・今は寝てるだけみたいよ」

 そして、彼女はビートの方も診察をする。獣医ではないが、患畜の方が人並みに賢いので意思の疎通が出来る。

「どこか痛いところはある?」

 《 ナイ~ 》

「翼を広げてみて」

 《 ハ~イ 》

「・・・ああ、風切り羽が折れてるわね。しばらくは、ちゃんと飛べないわね」

 羽根が生え替わるまでは、このまま様子見で大丈夫だろう。ふみ先生はそう判断し、博に伝えた。

「話を聞くと、空は確かにおかしかったと思うけど、取り敢えず今は寝かせておけば良いと思うわ。目が覚めて、まだ変だったら呼んでちょうだい」

 博はお礼を言って、彼女を抱いて部屋に戻った。


 こんな風に、気を失うように彼女が眠ったのは、以前にも一度あった。

 A国での真の研修中、自然博物館での事件の時だ。自分がブービートラップの毒にやられて、彼女が車で病院まで運んでくれた。その後彼女は博物館に引き返し、犯人を自白させた。

 その時の様子もおかしかったし、終わった後、空はこんな風に眠りこんでしまったのだ。


 濡れた服を新しい浴衣に着替えさせ、布団の中に寝かせてから、博は彼女の寝顔を見守っていた。

 Skyと呼ばれてA国で暮らしていた頃、彼女の心は強固な鎧か殻のようなもので守られているように感じられた。それは感情に蓋をして感じないようにして生きてきた彼女の心が、自分を守るために作り上げたものだったのだろう。

 けれど今は、その頃に比べたら、空は自分の心や感情を随分出せるようになってきている。それは良いことで、嬉しい事でもあるが・・・

 ビートの存在が、彼女にとって何なのか。確かに1番長い時間を一緒に過ごしてきたビートが、ただのペットでは無いとう事は解っている。けれど、他にもっと何かがあるのではないか。


 博がそんな事を考えながら、空の枕元に付き添っていると、ふいにパチッと目が開き空は辺りを見回すとガバッと跳ね起きた。

「そ、空?・・・眼が覚め・・」

「ビートはっ!」

 目が覚めた途端、頭の中に蘇った記憶は、川に落ちたビートを抱きしめている自分の姿だった。

 《 ソラ~ ココヨ ビート ココヨ~ 》

 博と同じように、、ずっと彼女の枕元にいたビートが明るい声で答える。

 空はおずおずと手を伸ばして、灰色のヨウムの頭に触れた。

「ビートは大丈夫ですよ。風切り羽が数枚、ボウガンで吹き飛ばされましたが怪我はありません。ビックリして落ちたけど、川だったからどこも傷めないですんだようです」

 博の説明に、空は彼の瞳を真っすぐに見つめてから、ホッとしたように肩の力を抜いた。

「・・・すみません、お手数をお掛けしました」

 博相手でも、律儀に頭を下げる空に、博は優しく微笑んで答えた。

「話は後にして、朝食を食べに行きましょう。皆、心配していると思いますよ」


 部屋の外に出ると、待っていたらしいジーナが駆け寄ってくる。

「大丈夫、空?・・・まだ顔色があまり良くないわ」

 心配そうにのぞき込むジーナの眼が、空の首筋のキスマークを見つけた。

「・・・まさか、これが原因の1つ・・・じゃないでしょうね?」

 こっちを睨みつける視線が痛い、と博は思う。

「いや、違います・・・多分・・・」

 博は歯切れの悪い返事をして、本館のレストランに空を伴って行った。


 結局、空はその日1日、ホテルで大人しくしているように言われ、博と一緒に部屋にいることになった。他のメンバーは、温泉を利用した熱帯植物園や山の上にある湖に観光に行くことにする。ジーナは博に、禁欲しなさいよ、と釘を刺すことを忘れなかった。


 部屋に戻ってもうひと眠りし、昼過ぎにはすっかり体調も良くなった空に、博はこれなら大丈夫だろうと、今朝の事を聞いてみることにした。

 空は少し考えて、思い出しながらゆっくりと答える。

「・・・何だか、プツンとシャットダウンしたような感じでした。覚えているのは、橋から飛び降りて川に流されてゆくビートを抱えたところまでで・・・」

 今までこんな事は1度も無かったと思う。そもそも、ビートが危険な目に遭うことが無かったのだ。

「ビートが死んでしまった、と思ったら・・・急に。自分でも、何故か解らないのですが」

 彼女の心にとって、ビートの存在が大きく関わっていることは解る。けれど、その役割は何なのか、博にはまだ見当もつかなかった。

「・・・ビートを自由に飛ばせることが、これほど危ないとは思ってもいませんでした。これからは、充分注意しないといけません」

 空はそう言って、締めくくった。自分でも解らない反応だったのだから、原因を遠ざけるより他はない。博は、そうですねと答えてこの件は終わりにしたが、機会があったら彼女とビートの事をもう少し調べておこうと思っていた。


 そして翌朝、朝食を済ませた一行は、離れの一室に集まって今日の予定をどうするか話し合っていた。花さんとふみ先生は、2人で立ちより湯に行ってから帰ると言うので、そこから別行動になった。

 そんな時、何となくつけていたテレビから、A国で起きた猟奇殺人のニュースが流れてくる。捜査官たちは、思わずその映像に見入ってしまった。


 1週間の間をおいて2人の犠牲者が出たその事件は、現在に蘇った『Jack the ripper』だと世間では騒ぎになっているようだ。

 犠牲者はどちらも30代くらいの女性で、スラムで売春婦をしていたらしい。日本に比べて治安が良くないA国のスラムでは、殺人事件は日常茶飯事と言っても過言ではない。

 けれどこの2つの殺人事件は、被害者の遺体があまりにも陰惨であった。

 19世紀後半にイギリスで起きたとされる『Jack the ripper』事件は、犯罪史上とても有名なものだ。それと類似した部分が多いことから、まだ犠牲者が2名なのにも拘わらず、マスコミが騒ぎ立てたのだろうと思われた。類似点とは、先ず犠牲者たちが売春婦で会った事、そして遺体に対して惨たらしい行為がなされていたことである。

 遺体の乳房は両方とも切り取られ、下腹部が切り裂かれて子宮が取り出されていた。そして、切り取られたそれらの部分は、犠牲者の頭付近に綺麗に並べられていたのだ。しかも、膣口には奥までナイフが突き立てられていた。


「う~~、朝から気分の悪いニュースを見ちゃったわ」

 小夜子が思い切り顔を顰めて言うが、見かけに反して剛毅な刑事でもある彼女なので、神経的に大きなダメージを受けているわけでは無い。

「不謹慎だけど、こっちに来てて良かったわ~。そんな遺体は、やっぱりあまり見たくないものねぇ」

 ジーナも、悲惨な遺体には耐性があるのだろう。言葉の割には平然とした態度である。

「・・・今のところ、こっちには関係ないだろ。んじゃ、今日の午前中は近くのH寺近辺を歩く、ってことでイイんだな」

 最後は真の言葉で終わって、一行は旅行を楽しむために立ち上がった。


「何だろナ、寺や神社に来ると何となく敬虔な気持ちっぽくなるワ」

「確かに、清々しい空間って感じますよね」

 温泉地の古刹を巡ってブラブラと歩きながら、真と春が話していると、ふと空が問いかけてきた。

「日本の国教は、神道と言う事で良いのですか?」

「あ~~、何かそうだったな。難しいことは解んないけど、確かそうだと思うぜ。とか言っても、日本人って宗教的には結構アバウトだしなぁ」

「そうよね、結婚式はキリスト教式で、子供が生まれたら七五三とかは神社に行って、葬儀は仏式なんて結構多いわよ」

 真の返事に小夜子まで加わってくる。

「うちの実家もそんな感じだったし、真の方もそうでしょ。そう言えば、博はどうなの?」

 いつの間にか、道端の茶店で休憩しながら話が続く。


「そうですね、母と伯母のお墓には十字架がたってますけど、僕自身は洗礼も受けていないしミサにさえ行ったことはありませんでしたから、信者ではありませんね。1番馴染みがあるのがキリスト教だと言えるのかもしれませんが」

 宗教系の話と言うものは、時としてタブーになる場合もあるが、彼らの場合は大丈夫なのだろう。豪とエディ、そしてジーナも成程と軽く流していた。

「・・・例えば、魂があると仮定した場合、死んだらその人の魂は信じていた宗教の死後の世界にいくのでしょうか?」

 真面目な顔で、空がふいにそんな事を呟いた。

「へ?空がそんな事を言うなんて珍しいな。もっと現実的で、魂なんて信じ無さそうだけど」

 真の言葉に、空は熱いお茶をふぅふぅと息を吹きかけて冷ましながら、やはり真面目な顔で答える。

「科学で解明できない事は、全て存在しないという考えは、現代人の傲慢だと思っています。ですから、魂は無いとは言い切れないので・・・あると仮定して聞いてみました」


「そうだとすると、例えば愛した人が自分と違う宗教の信者だったら、死後あの世で会うのは難しそうですね」

 エディも口を挟んでくる。

「行先が選べるんじゃないの?どのあの世にしますか?みたいに」

 小夜子が言い出すと、何やら話が面白くなってくる。このメンバーだと、最終的にはどんな話も笑って終わりそうなのが不思議だ。

「宗教を信じていない魂は、行き先が無いんですか?」

 迷子みたいに彷徨っているそれは、救われない魂になるのだろうか。空は、独り言のように呟いた。今日の彼女は、どこかいつもと違うような気がする。博がそんな事を思った時、春が声を上げた。

「そろそろ駅の方に戻りませんか?お昼ご飯、どうします?」

 一行は、それもそうだと腰を上げて駅前に向かって歩き出した。


 昼食を名物だという蕎麦屋でとった一行だが、音を立てて啜る蕎麦の食べ方にジーナが驚いて必死にトライする姿や、皆が蕎麦を啜る中で1人だけ蕎麦ぜんざいを嬉しそうに食べる空の姿が、慰安旅行の最後に良い思い出になった。

 そして駅前で解散し、FOI日本支局の初めての慰安旅行は終わった。


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