第八話「宮殿」
またもリナウス視点のパートとなります。
さて、リナウスは何をしているのでしょうか?
「なるほど、人間のための贈り物を探していらっしゃると」
「悪いね、リデクル。何を贈ればいいか悩んでね。何かいい案があるならば教えてくれたまえ」
リナウスは答えながらも考える。
かの神は宮殿の最上階にいた。
ここは展望台とでも呼ぶべき場所だろうか。
床には御影石が使われているらしく、飾られている絵画や観葉植物もまた落ち着ける空間を演出していた。
贅沢を極めたくなる性分というのは、人と異法神もそう変わらないのかもしれない。
ただ、リナウスにはそのような趣味はなかった。
共にあることが出来れば、それで十分に贅沢だと知っている。
リナウスが自身の首に巻いたスカーフを指で撫でていると、リデクルにこう尋ねられた。
「中々に難しい質問でございますな」
宮殿の主でもあるリデクルは考え込んでいる。
豪華な宮殿なのだから、主もそれに見合った格好をしているに違いない。
そんな予想を裏切ってくれるかのように、リデクルは奇抜な格好をしていた。
腰まで伸びた長髪と中性的な顔立ちをしており、赤と黄のスーツを隠すかのように丈の高いマントを身に着けていた。
そのマントにはいくつもの仮面が縫い付けられている。
儀式のために使われる仮面や、はたまた舞踏会用のものと思われる仮面。
どれもが個性的であり、さながら万国旗を身に着けているかのようなユーモアさがあった。
「そ、アビシレイアの奴は何もアドバイスをしてくれなくてね」
「アビシレイア――。もしや、あやつと戦われたのですか?」
「そうさ。前から忠告はしていたが、ちっとも反省してくれない。そのついでに色々とお話をしたくてね」
リナウスは笑う。
その手には無常無間を携えていた。
深淵も容易く切り裂き、アビシレイアの目玉をも貫いた大業物だ。
よしよしと鞘を撫でながらも、リナウスはこう続ける。
「いやあ、久々に大暴れしたもんだよ。しかし、よくわかったね」
「いえ、そのお召し物ですが……」
「ああ、これね」
リナウスは自身の服装を改めて目にする。
作務衣の所々に黒い染みが出来ており、左袖部分が綺麗に千切れ飛んでいるが、リナウス自身はまったくの無傷だ。
「早い所プレゼントを用意したくてね。ドレスコードがあったならば謝罪しよう」
「いえいえ、それにしてもあなた様が人間のために尽くされているとは……」
「私は元より弱者の味方だからね」
リナウスはちらりと窓から下を眺める。
標高の高い位置に建てられていることは知っていた。
異法神は目で物を見る必要はなく、厳密には周囲に存在するものを感覚で察知しているだけに過ぎない。
視力がないならば、目玉も必要ないかもしれない。
人間の姿に化けている異法神の中には、人間と会話する際に目玉を動かし忘れる者もいるくらいだ。
リナウスは考える。
アビシレイアのあの大きな目玉を思い出すと、目というのはチャームポイントとして有用なのだろう。
――私も化粧を習ってみるか。
だがその前に、リナウスにはやることがあった。
「この宮殿をデザインしたのは君かい?」
「おっしゃる通りです。最高の立地に、最高級の建材――。人間の誰もが羨むでしょう」
「そいつはいい趣味をしている。で、下々の人間はどんな暮らしをしているんだい?」
「今日もまた争い、そして死んでいくだけです」
リデクルはさも当然のごとく口にする。
その口元に浮かんだ笑みを、リナウスが見逃すはずもなかった。
何やら不穏な空気となってしまいました……。
面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。
それでは次回をお楽しみください。