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第七話「群れ」

突如野犬が現れて困っているサジルタ族の悩みを解決すべく、フレアとエシュリーは森の奥まで進んでいく。

果たして、どんな展開が待っているのでしょうか?

 獣の住む場所というのは人間にとって非常に厄介だ。

 鬱蒼とした木の葉は視界を防ぎ、丈の高い草に隠れた蛇に襲われそうなこともある。

 彼らは聴覚と嗅覚を頼りに危機から逃れているのだろう。

 そう考えると、人間が安易に立ち寄れる場所ではない。

 最も、為さなければならないことがあるならば、それこそ覚悟の上で踏み入る必要がある。

 フレアが緊張感で身体を強張らせている中、どこからか低い唸り声が聞こえて来た。


「来るか……」


 フレアが目を凝らすと、草むらをかき分けていくつもの影が見える。

 それらはフレアに気が付いたのか、唸り声はますます大きくなっていく。

 

「む、確かに野犬であるな」


 現れた犬達はフレア達をジロリと睨みつけてきた。

 見た所、毛並みも皮膚にも異常はなく、健康そうに見える。

 フレア達を敵として認識しているのか、それとも獲物としてだろうか。

 いずれにせよ、低く唸っている所からも話の通じる相手ではないことは確かだ。


「サジルタ族が野犬達を何度か追い払ったけれども、何回やっても戻ってきてしまうんだって」

「なるほど、ここは私の出番であろうな」


 エシュリーが口早に唱えようとした所、フレアはそれを制止する。


「神魂術で追い払うのはまだ早いよ」


 エシュリーも灯火と導きの神のカミツキとして、フレアと同様に人の身でありながらも神魂術が使える。

 灯りを呼び出して犬達を力づくで追い出そうとしたのだろう。


「どうしてであろうか?」

「まずは野犬達の奇妙な行動の理由を調べないと」

「りょ、了解した」


 フレアは野犬達の様子を伺う。

 興奮して今すぐ襲い掛かりそうな様子だが、後ろ脚を引きずっていたり、その場から逃げ出そうとしていたりもする。


 この行動の真意は何だろうか……。


 都市部で飼われていた犬が森に逃げ込んだのはわかる。

 しかし、何度追い払われても戻ってくる理由とは一体何なのか。

 サジルタ族に懐いてしまったとでも言うのだろうか。


「フレア殿!」

 

 エシュリーの声に驚き、フレアは顔を上げる。

 野犬の一頭が彼へと飛びかかって来たのだ。


「くっ!」


 フレアは半歩程飛び退いてから、素早く唱える。

 まるで歌うように唱え終えると、銀色に輝く蟲が彼を守る形で現れた。


『私の力は――そうだね。使いこなせると強いと思うさ。ただ、アクション映画の主人公みたいなスタイリッシュな戦闘は期待しないでくれたまえ』


 リナウスの言葉がフレアの脳裏に思い浮かぶ。

 確かにカッコいい戦い方は難しいかもしれない。

 現れた蟲はムカデに酷似しており、地上で目にする蟲とはまるで異なっていた。

 

 ――どちらかというと、僕はスプラッター映画の登場人物かもしれないな。


 既に絶滅した太古の存在を目にしてフレアがそんな感想を抱いていると、犬達は甲高い叫び声を発した。

 生命の本能を刺激するのだろうか。

 フレア自身も『僕とエシュリーを守って』という気持ちで蟲を呼び出しただけなのだが、エシュリーも身体を強張らせ震えている。

 もっと手加減して貰った方がよかったかな、とフレアが反省していると――。


「ん?」


 野犬の様子がおかしい。

 特段、呼び出した蟲は威嚇のような行動はしていない。

 ただ単に野犬の前に立ちはだかっただけだ。

 だというのに、野犬は怯んで動けないのかと思いきや、尻尾を巻いて逃げ出してしまった。

 呆気ないなとフレアが思っていると、エシュリーが肘で彼を小突いてきた。


「フレア殿の神魂術(しんごんじゅつ)は恐ろしいものであるな。ところで、何故に蟲なのであろうか?」

「ええと、蟲は古くから虐げられて来た存在だからかな?」

「虐げられて来たのであるか……。ともかく、効果てき面であるな。他の犬達も全て逃げ出してしまったぞ」

「あ……」

「調査どころではなくなってしまったのではなかろうか」


 あれほどいた野犬達が一匹もいなくなってしまった。

 後を追いかけようにも、散っていった蜘蛛の子を探すのは困難を極める。

 後悔と共に項垂(うなだ)れていると、エシュリーがこんなことを言う。


「フレア殿、前にもやっていた糸を出して敵を捕らえる神魂術を使えばよいのではないか?」

「あ、それがあったね。でも、目標がどこにいるか分からないと使えなくて…」

「む、そうであったか」

「でも、気が付いたこともあったんだ」


 フレアが真顔で言うと、エシュリーもまた真剣な目つきで耳を傾ける。


「何に気づかれたのであろうか?」

「まだ断言はできないけれども、これは思った以上にマズいかもしれない」


 フレアは流れ落ちる汗を拭きながらも呟く。

 その胸中、彼の心の中では様々な思いが渦巻いていた。

 リナウスがいつ戻ってくるか分からない中、早々に問題を何とかしなければ。

 そして――。


「フレア殿。その真剣な表情から察するに――」

「うん。『凶作等緊急時における長期間食料保存計画』も急いでとりかからないと」

「そっちもであるか!?」


 エシュリーは叫びながらもひた隠しにしていた罪悪感を誤魔化すように、フレアから静かに目を背けるのだった――。

思った以上に逞しくなったフレアですが、失敗もしてしまうようです。

さて、次回はリナウスの登場シーンとなりますのでお楽しみに。


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