第六話「厄介者」
リナウスが何やら戦闘を繰り広げている最中、場面はフレア視点へと移り変わります。
さて、リナウスが不在の中、フレアは大丈夫でしょうか?
リナウスが去ってから三日が経過した。
未だに戻ってこないリナウスを心配しながらも、フレアは懸命に仕事へ取り組んでいた。
フレア財団の主な業務は人間達から迫害されている亜人達の保護や、亜人達の生活面での問題の解消や食料供給等の多方面に渡る。
事務は勿論のこと、ランメイア王国の商人ギルドとの交渉、亜人達の祭事の手伝いもあったりする。
肉体と精神を酷使する業務には未だに慣れず、いざという時はリナウスが率先して片付けてくれるのだが――。
「リナウス殿が三日も不在とは」
「う、うん」
フレアの隣にいる金髪の女性はため息交じりに呟く。
「全くもって多忙であるな」
「エシュリー、ごめん」
エシュリーと呼ばれた女性はこれ見よがしに不機嫌そうな青い目をフレアへと向ける。
「気にしないで貰いたい。ただ、我々が普段からリナウス殿に頼り切っているのが問題であろうか」
やれやれといった表情でエシュリーは語る。
ザウナ公国の第二公女でもある彼女は気品溢れる仕草がとても優雅だ。
きっと血のにじむような礼儀作法の特訓をしたに違いないとフレアは確信している。
「う、うん」
「いついかなる時も、不測の事態に備えねばな」
「そうだね……」
フレアは頷きながらも、エシュリーの格好を注視する。
彼女は円筒衣の下には胸当てを身に着け、腰にはサーベルを下げていた。
僕もプロテクター代わりになる物を身に着けておくべきか。
彼はそう考えながらも、藪の中を突っ切る形で進んでいく。
「フレア殿。今回の仕事の内容をもう一度確認しておきたいのであるが」
「いいよ。今回はサジルタ族から頼まれたんだけれども、最近森に異変が起きているんだって」
「異変であるか?」
「うん。この森には鹿が多く生息しているんだけれども、野犬が現れるようになったんだって」
「野犬であるか」
「そうなんだ。普段、犬はこの森にはいないんだけれども、最近犬が群れを成して居つくようになったとか。恐らく、人間が飼っていた犬が野生化したかもしれないって」
「大した問題ではない気がするぞ。しかし、あのサジルタ族も対処に困るとは意外であるな」
「う、うん……」
フレアはサジルタ族の姿を思い出す。
人の上半身と馬の下半身を持つ亜人でありメルタガルド大陸でも名の知れた存在だ。
勇猛果敢で知られているが、そんな彼らにも悩みはある。
小さな悩みが大きなものとなる前に、耳を傾けて解決するのがフレア財団の業務の一つでもあった。
「書類仕事よりは気が楽であるな」
書類仕事という単語を聞き、フレアはポンと手を叩く。
忘れていたことを思い出したのだ。
フレアのその反応を目にして、エシュリーはしまった、と小さく呻いた。
「そう言えば、『凶作等緊急時における長期間食料保存計画』の作成に必要な、財団が保有している食料の貯蔵量の確認をお願いした件は……」
エシュリーは目を大きく瞬かせてから、小さく鼻で笑った。
「フレア殿、愚問であるぞ。きちんと進行中である」
「そ、そ、そうか……。ならいいんだけれども」
フレアは笑うも、その顔はやや引きつっていた。
エシュリーがほんのわずかだけ見せた子どものように純粋で、あどけない顔。
――そんな仕事があったかな?
ゾクリとする寒気を引き起こすその表情を、フレアは間違いなく目にしてしまったのだ。
「こ、この辺りのはずなんだけれども……」
フレアは周囲を確認すると、ある物を発見した。
それは輪を描くように置かれた石で、サジルタ族の間での危険を知らせる目印とのことだった。
「そろそろかな」
「気を付けねばな」
背後をエシュリーがカバーする形で、フレアは身構えながらも前進していく――。
リナウスが不在の中でも、フレアは逞しく頑張っているようです。
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