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第四話「異法神」

突如去ってしまったリナウス。

残されたフレア達の会話から物語は再開します。

 工房から出て行ったリナウスを見送りながらも、フレアは小さく呟く。


「リナウス……」


 そんなにショックだったのか。

 罪悪感を抱きつつもどこに出かけたのだろうかと、フレアは何となくセキショウとユキセグに目線を向ける。


「自分も分からないっす。そもそも、自分はリナウス様とは付き合いが短いっす」

「私は長いけど、分からないこと、ばかり」

「ユキセグ様とも会って間もない関係っす」

「うん」


 二柱の神は単なる仕事仲間という間柄だったのか。

 折角リナウスに協力してくれたというのに。

フレアは再度罪悪感に駆られ、深く頭を下げる。


「その、取り乱してしまって申し訳ございません」

「いえ、自分がきちんとアドバイスをすればよかったっす」

「そもそも、いきなり刀を作りたい、とか言われて、とても困った」

「自分はビックリしたっす。まさかあのリナウス様から頼まれるとは……」

「刀の材料で相談された」


 セキショウ達はテンポ良く頷き合っている。

 仕事仲間というのは例え短い付き合いだろうが、かけがえのない友情を生み出すようだ。


「あの、リナウスについてどこまで知っているんですか?」

「知っての通り、リナウス様はとんでもないお力を持っている方っす。自分も噂には聞いていたっすが……」


 フレアもその意味をよくよく理解している。

 何せ生きとし生ける者の全てを散歩がてらに滅ぼせる存在なのだ。

 そんな存在がDIYで人のために刀を作るとは。

 異法神達からすればさぞ珍妙な話に違いない。


「怖すぎて、領域と調和の神にも、煙たがられている」

「領域と調和の神?」


 フレアが首を傾げていると、セキショウがすかさず返答する。


「ええっと、ハルモリア様のことっすね。簡単に言うと異法神が人間の世界を一方的に蹂躙しないよう見守って下さる方っす」

「人間に味方してくれる異法神様がいるんですね」


 フレアは自分で口にしながらも、改めて異法神の恐ろしさを思い知る。

 異法神達は特段人間のために存在している訳ではない。

 中には人間という存在そのものを不快に思う異法神もいる。

 もし、ハルモリアがいなければ、人間は一方的に駆逐されてしまうのではないだろうか。

 祈りや信仰が無くとも、人は何か大きな存在に守られている。

 そう考えるだけでも、フレアは胸の奥底から湧き上がる奇妙な気持ちを抑えられそうになかった。


「そうっす。噂に聞いた話だと、ハルモリア様はリナウス様の行動を制限していたそうっすが、最近リナウス様が邪悪な異法神を処罰されたのを評価して制限を緩和されたとか」

「邪悪な異法神?」


 フレアは先日の戦いを思い出す。

 直接リナウスが罰を下したわけではないのだが、結果としてリナウスがいなければメルタガルドの平和を取り戻すことは出来なかっただろう。


「制限が緩和されたから、自分のような異法神へ会いに神界を堂々と巡れるようになったみたいっす」

「そうなんだ……」

「久々に、リナウスと会ったけど、かなり感じが違った」

「違ったとは、良い意味ですか?」


 ユキセグが小さく頷く。


「とても、丸くなった」

「そ、そうでしたか……」

「前は脚が八本ほど、あった」

「え」


 異法神はある程度自在に姿を変えられる。

 しかし、フレアがリナウスから聞いた話によると、気軽に変身は出来ないようだ。


『人間に姿を変えるのは正直大変でね。骨格や皮膚の質感をどうするか、長年の研究が必要なのだよ。粘土と針金だけで人間そっくりの模型を作るだけでも大変だろ? それと同じものさ』


 リナウスの言葉を思い出していると、セキショウが話し始める。

 

「自分も最初会った時は驚いたっす。噂だと、あのギゲツ様と大喧嘩をしたとか」

「ギゲツ?」

「とっても強い異法神。光を支配できる」

「ふ、ふうん……」


 スケールの大きすぎる話に、フレアは言葉を失う。

 今日は知らない異法神の話が多すぎる。

 本来ならば、普通の人間は耳にする必要もない話だ。

 例えるならば、ミジンコに巨人の恐ろしさを伝えるようなものだ。

 ミジンコが巨人の存在を知ったところで何も出来ない。

 そして殆どの巨人がミジンコの存在を気にする必要もない。

 人間と異法神の関係もそれに酷似している。

 

「リナウスは他の異法神の元に相談しにいったのかな?」

「ありそうっす。フレアさんのために別のプレゼントを用意するかもしれないっす」

「あれ以上に、素晴らしい贈り物、あるの?」

「自分もあんな業物を見るのは二カイぶりっすよ」

「僕も、リナウスにはとても感謝しているんです。誕生日プレゼントなんてなくても、気持ちだけで十分なんです」


 フレアはリナウスと会って以降、誕生日プレゼントを貰うようになった。

 異法神からプレゼントを貰えるだけでも万人が羨むだろう。

 例えそれが丈の合っていない手編みのセーターや、貴金属を使って作られたシャンプーハットではあったが。

 地球にいた時は、誕生日どころかプレゼントすら貰ったことが無かったのに。

 あの刀も文句を言わずに受け取ればよかったかなと、彼は深く反省する。


「なるほどっす。では、自分は用事があるのでそろそろ帰らせて貰うっす」

「私も、帰る」

「セキショウ。ユキセグ。その、ありがとうございます」

「いえいえ。気にしないで下さいっす」


 丁寧に頭を下げセキショウは工房の外へと出ていく。

 同じようにユキセグが出ていこうとするがその前にフレアへと語りかける。


「ありがとう」

「え?」

「リナウス、あんなに楽しそうなの、初めて見たから」

「あ、いえ……」

「じゃあね」


 去っていくユキセグに対し、フレアは小さく手を振る。

 派手な見送りは必要ない。

 そんな気がしたからだ。

 やがて、工房に一人取り残された彼はその場にへたりと座り込む。


「つ、疲れた……」


 人間と話をするよりも、何十倍も神経を使う。

 セキショウとユキセグがかなり友好的な異法神でよかったとフレアは改めて思い直す。

 もしも些細なことで激昂するような性格だったら――。

 彼はそう思うだけでも生きた心地がしなかった。

 異法神も性格自体は人間とさほど大きな変わりはない。

 だからこそ、ついカッとなってしまうという事態が起こっても何ら不思議ではない。

 異法神を本気で怒らせたらどんな目に遭うのか……。

 彼は身震いしてから、工房を出るために恐る恐る扉を開ける。

 もしかすると、リナウスが戻ってきているかもしれない。

 しかし、扉を開けた先には誰もおらず、神々のいない平穏な日常がその先で待っていた。


「さてと……」


 現実に戻らなければ。

 ともかくお腹も減ったことだし、朝食を食べに行こう。

 フレアは何度か空を見上げる。

 もしかすると、リナウスが空から突然降ってくるかもしれない。

 そして何食わぬ顔で挨拶をしてくるのだ。

 だが、平穏な青空は素知らぬ顔で彼を見下ろしている。


 ――僕の人生がここまで様変わりするとは。


 彼は小さく笑ってから屋敷へと戻った。


多くの異法神が話に出てきました。

今後の展開に繋がる伏線になると思います。


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。

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