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第三話「包み」

誕生日プレゼントのためにわざわざ工房まで建てたリナウス。

果たしてフレアに渡したプレゼントの中身とは?

 フレアは目の前の包みを注視する。

 赤い布でくるまれており、長細い形の物が中に入っているようだ。

 縛られていた紐を恐る恐る解くと――。


「これは、刀?」


 中から鞘に納められた一振りの刀が顔を出す。

 鞘は漆塗りだろうか。

 フレアが指先で撫でると、滑らかで心地よい感触が伝わってくる。


「そうさ」

「えっと、どうして刀を?」

「かっこいいじゃないか」


 リナウスは当然だろ、といった表情で答える。

 男の子はかっこいいものに憧れるから誕生日プレゼントにピッタリだ! という単調な考えこのためにわざわざ工房を建てたということか。

 フレアは乾いた笑みで困惑を誤魔化す他なかった。

 

「護身刀として使ってくれたまえ」

「あ、ありがとう。どんな刀か見てもいい?」

「ふふ、勿論さ」


 フレアは早速刀を引き抜こうとする。

 だが――。


「どうして動きが止まるんだい?」

「いや、その、何だろう……」


 嫌な予感がした。

 フレアがメルタガルドに転生してから、彼は何度も危険な目に遭った。

 危機に対して彼は自身の直感を頼りにこれまでも何度か乗り越えて来た。

 そして今、彼の直感が目の前にある危機を切に訴えている。


「どうしたんだい? 感激で腕が震えたのかい? まあ、それもそうだろうさ」


 断ったらリナウスは悲しむだろう。

 現にリナウスは期待している。

 そのソワソワとした様子は、用意されたバースデーケーキのロウソクを吹き消してくれるのを待っているかのようだ。


「ちょっと待ってね」


 フレアは鞘からゆっくりと刀を抜くと、漆黒の刃が顔を出す。

 刀身の一部には竜を象った彫刻が施されていた。

 これはロバート君をモチーフにしているのだろう。

 リナウスが名付けた竜で、フレア財団にとって大切な仲間の一員を思い出す。

 それはそれで大変嬉しいのだが――。


「えっと、これは、何?」

「無常無間さ」

「え?」

「刀の名前」


 ユキセグが蚊の鳴くような声はフレアの耳にもしっかりと届いていた。


「そうじゃなくて、ええっと護身刀だよね?」

「そうっす。自分としては、刃長をもう少し短くしてもいいと提言はしたんですけども……」


 セキショウの目が泳いでいる。

 懐に収められるサイズではなく、刃渡りはフレアの腕よりもやや長いくらいだ。


「いや、大は小を兼ねる、というから?」

「でも、材質も、かなり――」

 

 ユキセグは何かを言おうとしたが、怪しげな笑みを浮かべて黙ってしまう。

 相当危険な材質なのだろう。

 少なくとも、人間の手に余るくらいには。


――フレアは察する。


 恐らく、刀鍛冶の指導を行ったのはセキショウなのだろう。

 材質と言っている所から、もしかするとユキセグが刀の材料を調達したのかもしれない。


「いやあ、確かにちょいと私の力を込めすぎたさ」

「込めすぎっす……。護身刀っすよ?」


 セキショウの囁きがフレアの耳にも届いた。

 彼もリナウスに悪気のないことは分かっていた。


「悪いけれども、これは携帯出来ないよ」

「え、そ、そうかい?」

「だって、これを間違って全力で振るったら――」

 

 フレアはその光景を想像するだけでもぞっとするような恐怖が背筋を撫で回す。

 恐らく、人間の文明の一つや二つは簡単に消し飛んでしまうだろう。

 そう、この刀はそれほどまでに禍々しい代物だった。

 刀身をもう一度見てみると、何かの影が映り込む。

 何だろうと思い、彼が覗き込んだその瞬間だった。


 ――彼は全力で叫んだ。


 自分でも何を言っているか分からない言葉が喉の奥から飛び出し、そして手にしていた刀を強引に頭上へと放り投げてしまう。

 その瞬間、天井の一部が吹っ飛んだ。

 

「フレア!」


 名前を呼ばれ、彼は正気に戻った。

 天井を見上げると、そこには青空が見える。

 そして重力に従って戻ってきた刀をリナウスがすかさずキャッチした。


「だ、だ、大丈夫っすか?」

「あ、うん」


 リナウスが刃を人差し指と中指で器用に掴んでいるのを見ながらもフレアは小さく頷く。

 何で叫んでしまったのだろうか。

 刀身に何か見えてはいけないものが映っていたのは覚えている。

 だが、何を見たのかがどうしても思い出せない。

 まるで白昼夢の悪夢から無理矢理抜け出したような感覚だった。

 

「フレア、すまない……」

「大丈夫だって」

「しかし、折角の君の誕生日だというのに」

「こうやってちょっとしたトラブルを楽しむのも誕生日の一つだよ」


 フレアがそう言って励ますも、リナウスの様子がおかしい。

 思いつめたような、どこか浮かない顔をしている。

 すると、リナウスが刀を鞘に納めてからぽつりと呟く。


「……少し出かけてくる」


 リナウスは自身の作った刀を手に持ち、工房から出ていってしまう。

 あまりにも素早い動作であったため、フレアは引き留めることも出来なかった――

どうやらとんでもなく危険な刀だったようです。

リナウスはどこへ行ってしまったのでしょうか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。

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