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第十一話「隠居」

今回はリナウスのパートから始まります。

さて、今度は誰に会いに行くのでしょうか?

 強い生命体とは何なのだろうか。

 どんな災害や病にも負けない知恵を持つことだろうか。

 それとも、どんな過酷な環境であろうが生き残れる生命力か。

 リナウスはそんなことを考えながらも、それを見上げる。


 ――それは悠々と森の中を闊歩していた。

 誰にも邪魔されず、悠々と歩く様は生態系の頂点であることを誇示していた。


 ――それは巨木のごとき太い足を何本も持っていた。

 小さき者を踏み砕くその足は、弱者が群がることすらも許さなかった。

 

「興味深いものだよ」


 リナウスは頷きながらも、再度それを見上げる。

 一見すれば異形な生物だが、大きな目玉と十本の足から察するに、頭足類のイカが陸上での生活に適応したのだと推測した。

 その体表に深く刻まれた皺から察するに、長い年月を過ごしているのだろう。

 天敵もおらず、食料は豊富で、何よりここは静かすぎる。

 ここはまさに彼らの楽園だ。

 本来ならば異法神が関わるような場所ではないだろう。

 だが、リナウスの探している存在が確かにここにいるのだ。

 

「ここかい」


 山の中腹にそれはあった。

 粗末なあばら家が木々の合間に隠れるようにして建てられていた。

 雨風を凌ぐ場所にしては何とも心もとない。

 そして、ノックをしようにも扉がなかった。

 果たして、これを家と呼んでいいものか。

 リナウスはやむなく声を掛けた。


「ちょいとお邪魔するよ」


 室内にはガラクタが多数置かれ、節操なく散らばっているためにそれらにどんな価値があるのかがさっぱりわからない。

 リナウスの声に反応して、薄暗い部屋の中央で何かが動く。

 それはゆったりとした動作でリナウスの方を向く。

 見た目は老婆で、今にも崩れそうなボロ着を身に纏っていた。

 今にも崩れ落ちそうで、まるで立ち枯れた老木のように弱々しい。

 老婆はしわがれた声でこう尋ねて来る。


「どちらさんかの……」

「やあ、初めまして。リナウスという名前に聞き覚えがあれば話は早いんだがね」


 その瞬間、老婆はか細い声を上げる。

 それは老木に亀裂が入ったような音にも酷似していた。


「あなた様が……。お噂はかねがね聞いとります」

 

 怯える老婆に対し、リナウスは困った顔で告げる。


「アポイジアという名前だったか。そんなに怯えないでくれたまえ。実はお願いがあってね」

「願いとおっしゃいますと? この抗毒と分岐の神であるワシにどんな用事が?」

「護符を作って貰いたくてね。勿論、無理にとは言わないさ」


 すると、アポイジアは安堵した表情をリナウスへと見せる。


「そうでしたか……。それならば喜んで協力させていただきますの」

「助かるよ」

「ところで……」


 アポイジアはチラチラとリナウスに視線を向ける。

 その戸惑っている様子に、リナウスは訝し気な目線を返す。


「どうしたんだい?」

「その、その服装には一体どのような意味が……?」

「ああっと、ちょいと急いでいてね。着替えてくるべきだったよ」

「お急ぎならば仕方ありませぬの……。では、準備をさせていただきますので」


 アポイジアは部屋の隅に転がっていた木片や鎖らしきものを集め、護符の材料を集めているようだ。


「しかし、どうしてこんな辺境に隠れているんだい?」

「ワシが弱い存在ですが故に……」

「そうか、抗毒……。異法神には、そもそも毒は無意味だったね」


 毒はあくまでも生命に対して害を為すもの総称だ。

 生命とは別種の存在である異法神には毒が通用するはずもない。

 力無き神は必然的に逃げざるを得ない。

 異法神の中には目障りという実に分かりやすい理由で同族をも消し去るものがいるのだから。


「リナウス様はさぞお強いのでしょうに」

「どうだかね。ところで隠れる場所が欲しければハルモリアに君を紹介してもいいんだがね」


 領域と調和の神の名前を出した瞬間、アポイジアは顔を硬直させる。


「え、お、お願いしてもよいですかの?」

「任せてくれたまえ。ここも悪い場所じゃないと思うんだがね」


 ふと、リナウスはこの世界の大きな支配者を思い出す。

 あれだけの進化にはどの程度の年月が必要だったのか。

 そもそも、あそこまで巨大化するには何か意味があったのか。

 例えば、天敵が他に存在し、それに対抗すべく大きな個体が増えていったのだろうか。


「抗毒と分岐――。生きとし生けるものはまず毒に抗うことから全てが始まるということかね」

「ええ……。あの子たちも、あんなに強固にはなりましたがの、それでも無敵という訳ではないのです」


 アポイジアに考えを読まれていたことに、リナウスは苦笑する。

 生命の頂点というのは、中々に困難な道のようだ。

 あの巨体でもあっても、やはりどんな毒にも勝てる訳ではないということだ。


「では、これより護符の方をお作りいたします」

「助かるよ。そうそう、もし可能ならば――」


 リナウスは笑う。

 その花のような笑みは大抵の無茶ぶりを許してくれる。

 そんな魔性の笑みと共に、かの神はこう告げる。


「ラッピングを頼むよ。デザインは任せるさ」

どうやらフレアへのプレゼントが決まりそうです。

さて、次はフレア視点へと物語が戻ります。


ちなみに、抗毒という単語は造語になります。

抗毒素という単語はあるのですが……。


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。

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