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第一話「目覚め」

 皆様、お久しぶりです。

 初めましての方はどうぞよろしくお願いいたします。

 こちらの作品は「~異法神録~誰からも愛されていなかったと思い込んでいた気弱な僕と凶悪だけども少し残念な神と過ごす異世界生活」の続編となりますが、前作の重要なネタバレに配慮しておりますので、今作を初めて読んでいただいても問題ないような内容になっております。

 それでは最後までお付き合いいただければ幸いです。


 人間と亜人達の住む世界、メルタガルド。

 

 メルタガルドの中でも最大の面積を有するクロミア大陸には争いがなく人々は平和に過ごしていた――というのは全て都合の良い虚栄に過ぎなかった。

 つい先日、ある少年がクロミア大陸の歴史を大きく変える出来事を起こしたばかりだったが、クロミア大陸の民達はそんなことが起きたことを知るよしもなく、慌ただしい日々の生活に明け暮れている。

 そして、メルタガルドを救った彼――フレアもまた忙しい日々に生きていた。

 黒髪黒目の一見どこにでもいる普通の青年だが、数年前に地球からメルタガルドに転生してきた経緯がある。

 フレアは心身の疲れを取るべく惰眠を貪っていた。

 限界まで働き、疲れたら時間を忘れて眠りに就く。

 この状態というのは実に危険なものだ。

 自分の存在そのものが希薄となり、希薄となった自我はまともな思考もままならない。

 今の彼もまたとりとめのないことを考えていた。

 彼は窓の外から聞こえる音を耳にしながらも、ぼんやりとその音の正体を推測する。


 ――嗚呼、あのやかましい声はムクドリに違いない。


 早く鳴き止んでくれと願うも、鳴き声は小さくなるばかりかますます大きくなる。

 彼は幼い頃より、ムクドリの鳴き声が苦手だった。

 かつての彼の家庭環境のせいもあり、ムクドリが夕方にやかましく鳴く度に彼の両親は機嫌を悪くし、その矛先は必然的に彼へと向けられた。


 あの泣き声は不幸をもたらすんだ……。


 普段の彼ならばこの世界にムクドリがいないことに気が付くのだが、意識が朦朧としているせいで、トラウマという沼にずぶずぶと引きずりこまれていた。

 彼は自身の耳を塞ごうとするも、寝ぼけているせいか身体が上手く動かない。


「やめてくれ……」


 彼は何度もそう口にしてから、まるでひっくり返った甲虫のごとく手足をばたつかせると――。


「いっ!?」


 弾みで壁に足をぶつけてしまい、その痛みで彼は弾かれたバネのような勢いで飛び起きる。


「あ、夢か……」


 フレアは痛み足を撫でながらも、窓の外を眺める。

 鳴き声の正体はクロミアホウロウバト達の鳴き声だった。

 声量から察するに鳥のさえずり、というよりも鳥達のだべり合いと言った方が適しているだろう。

 所謂伝書鳩として各地の亜人達からの要望等の書かれた手紙を運んできてくれるため、クロミア大陸の亜人の保護のため奮戦するフレア財団にとって欠かせない存在だ。

 もう少し爽やかに鳴いてくれたら、早朝の時間も穏やかになるのだろうか。

 彼が苦笑していると、自室の扉の下の隙間に手紙が挟まっていることに気が付いた。

 目を擦りながらも手紙を手に取ってみると、そこには短い一文が書かれている。


 ――フレアへ。工房へ来てもらいたい。


 フレアはそれを目にした瞬間、今日が何の日であるかを思い出してしまった。


「まいったな」


 手紙の主はわかっているし、何を考えているかも手に取るようにわかる。

 役職で言うと彼の秘書に該当するのだが、実質フレア財団の業務の半分以上を取り仕切っている。

 『フレア』財団という名称ではあるものの、影の支配者と呼んで差し支えないだろう。

 だが、今の所誰もそれに文句を言えないし、今度も現れることはないと断言できる。

 身支度を整えながらもフレアは今住んでいる屋敷を入手した過去を振り返る。


 ――大きな屋敷がいいだろう。


 まずそんな一言があった。

 彼が立ち上げたフレア財団の本拠地をどうしようか迷っていた時に、彼の秘書はそんな提案をした。

 元々、彼が今住んでいる屋敷はある貴族の所有物とのことだった。

 酒と賭博を好み、文字の読み書きすらロクに出来なかった人物らしく、折角の物件を二束三文で売り払うことになったのはある意味運命だったのかもしれない。

 彼が屋敷の外へと向かおうとすると誰かとすれ違った。


「フレア様。おはようございます」

「セイン、おはよう」


 そこにはカプリアノ族と呼ばれる亜人で、褐色の肌に亜麻色の髪、そしてヤギの角と魚類のような尾びれが特徴だ。

 今日もまた白を基調としたメイド服を着ており、いつ見ても魅力的な姿だなと、フレアは自然に緩くなる頬を抑える。


「朝食はもう少々お時間が掛かりますが――」

「大丈夫だよ。その、リナウスに呼ばれちゃってさ」


 ――リナウス。

 フレアの秘書という肩書はあるものの、そもそも本来ならば人間の手となり足となって働くような存在ではない。

 思えば、リナウスとの出会いが彼の人生を全て変えてしまった。

 それも、とても良い方向に。


「リナウス様が、ですか?」

「うん。すぐ戻るから」

「はい。お気をつけて」


 丁寧に頭を下げるセインを見て、フレアは苦笑する。

 お気をつけて、という言葉があまりにも適切だったからだ。


「気を付けなければ、な」

 

 フレアは苦笑を堪えながらも屋敷の外へと向かった。

如何でしたか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは次回をお楽しみにしていただければ幸いです。

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