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第27話 制裁、卑怯な者たちの末路


 空気が、変わった。


『聞かせてもらったよ。ひととおり、ね。不本意ながら、録音もしてある』


 西園寺さんの予備スマートフォンから聞こえてくる声に、四故槍少年も、スマホ越しの義母も、気圧されている。

 俺も正直、同様の気持ちだった。西園寺さんのお父上、こんなにおっかない声で喋るのか。

 気がつけば、怪現象もぴたりと止まっている。


『やれやれ。まったく言うに事欠いて、娘とハサミは使いよう、かね』

『あなた。これは違う。違うの』

『私は身内を売る人間を家族とは呼ばない。呼ばせない』


 ぴしゃりと、お父さんは相手を黙らせた。


『君の今回の独断専行。ことりに対する暴言、暴挙。これは我ら西園寺家に対する明確な敵対行為である。私の名において、然るべき処理をさせてもらう』

『あなた、聞いて』

『もはや君は私の妻ではない。ことりの母でもなくなるだろう。西園寺家に君の席はないと知れ』


 ガタガタ、と近くの花瓶が揺れた。まるでお父さんの剣幕に怯えているように。

 そして花瓶以上に、義母は怯えていた。

 スマホからでも声にならない呻き、動揺の息づかいが聞こえてきた。

 それからしばらく、義母は弁明の言葉をまくし立てていたが、西園寺さんのお父さんが一切取り合わないので、ついには自ら電話を切ってしまった。


「え、おい。ちょっと待てよ、俺はどうなるんだよ、おいババア!」


 何度もリダイヤルを試みながら四故槍少年が顔を青くする。


 その姿を余所に、西園寺のお父さんは俺へ声をかけてきた。


『礼哉君。君には一度ならず二度までも娘を救ってもらった。感謝の言葉もない』

「いえ、そんな」

『ことり、大丈夫かい?』

「はい。お父様。礼哉さんがいれば、ことりは大丈夫です」

『そうか。大変結構。間もなく私の手配した者たちがそこに到着するだろう。それまで――』

「いえ」


 お父さんの言葉を俺は遮った。西園寺親娘が怪訝そうな様子を見せる。

 俺は笑った。それは安堵の笑みというより、苦笑に近い。


「そのご心配は不要です。むしろ俺としてはですね」

『……?』

「できれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」


 どういうことかね、とお父さんがたずねた直後だった。


 ログハウスの四方から、まばゆい光が差し込んできた。

 無数のライトがこちらに向けられている。


 さらに動揺し、怯える四故槍少年一派。西園寺さんも身を固くするが、俺は彼女の頭を撫でて落ち着かせた。


「大丈夫」

「礼哉さん?」

「ただ、ちょっと目と耳を閉じてた方がいいかもね」


 複数の足音。

 ログハウスの玄関が、「オラァァッ!!」という威勢の良い声とともに蹴破られた。

 なだれ込んでくる大勢の男たち。外からのライトに照らされ、全員が全員、超が付く強面ばかりだ。うわーお、すげえ気合い入ってる。


 男たちの間から、これまた気合いの入った()()姿の女性が、肩で風を切りながら歩いてくる。


「邪魔するぜ」

「き、岸島先生!?」

「おう西園寺。元気にしてっか?」


 朝の挨拶運動と同じ気軽さで、特服女性――岸島桐花が片手を挙げた。


「ああ、西園寺よ。今はな、先生呼びは止してくれ。()()()()()で頼むわ」

「え? え?」


 混乱する西園寺さん。

 俺は岸島と視線を合わせた後、完璧令嬢に耳打ちした。


「実は岸島の実家は、有名な極道一家なんだ」

「……はい?」

「――組って知ってる?」

「あー、あの映画にもなった……西園寺の家でも時々話題に上るんですよ。こんな有名な方々がご近所にお住まいなんですよね――って、えええええっ!?」


 まあ驚くよね。

 結婚して名字が変わってるし、雰囲気も学生時代よりだいぶ――いや、それなりに?――丸くなったから、気づかないのも無理はない。


「おいコラ中里」


 いつもの口調で岸島が凄む。


「てめぇ、またなんか失礼なこと考えてねえか? ああ?」

「別に。そっちは旦那さん、大丈夫だった?」

「当然よ。ま、このあたしが見込んだ男、この程度でへこたれるワケないがな!」


 ちょっと得意げに胸を張る岸島。隣で西園寺さんが「いいなあ」とつぶやいていた。


「さて、そろそろ本題に入ろうか」


 ふと――。

 岸島の口調がガラリと変わった。

 指を鳴らしながら一歩ずつ進む。その迫力たるや、怪異現象すら静まりかえるほどである。


 俺は心の片隅で願った。もし()()のなら、ログハウスの皆、今のこのときは大人しくしてあげてください。彼女、そういうのが苦手なので。


「四故槍よぉ。貴様、ウチのシマにちょっかい出しただけじゃ飽き足らず、あたしの大事な家族にも手ぇ出しやがったよなあ。このオトシマエ、どう付けてくれようか。ああ?」

「ひ、ひぃぃ……!」

「あたしは旦那と違ってせっかちだからよお。てめぇを裏で操ってたバアさんみたいにウダウダやんのは性に合わねえんだ」

「……ひ、……ひ……!」

「四故槍ぃ。諦めて、往生しろや。な?」


 イイ笑顔だった。すごく怖い。


 四故槍少年は――往生際が悪かった。

 悲鳴を上げながら、寝室方向に逃げ出そうとする。


 岸島が大きく息を吸い込んだ。


「――やっちまえ、てめえらぁああああっ!!」

「ぎゃあああああああぁぁぁっ!!」


 護衛の男もろとも、四故槍少年に殺到していく強面連中。


 俺はそっと西園寺さんの目を塞いだ。彼女は自分で両耳を塞いだ。


「まるで映画ですね、礼哉さん!」

「できれば忘れようね」


 西園寺さんの肩を支え、ログハウスの玄関へ向かう。


 すると、騒動に参加しなかった岸島が俺たちを呼び止めた。手にはヒビの入ったスマートフォンがある。西園寺さんの予備スマホだ。

 まだ通話状態は維持されていた。西園寺さんのお父さんの声がする。


『なるほど。礼哉君が言っていたのは、こういうことだったのだね。わかりました。岸島先生、後処理については我々もご協力いたします。元は西園寺家が撒いた種。私からもお詫びしたい』

「あー、まあ気にしなくていいっスよ。あたしが個人的にムカついたんで」

『いえいえ。岸島先生には、ぜひ引き続き娘のご指導をお願いしたいので。手を尽くさせてください』


 すると岸島は照れくさそうに頭をかいた。


「じゃあ、世話になります。あたしの旦那、あたしが失職しても心配するなってうるさくて。い、一生支えるなんて歯が浮くような話を……あ、いや」

『ははは。愛されておいでだ。実に結構。羨ましいことです』


 真っ赤になって、岸島がスマホを西園寺さんに返す。受け取った彼女は「いいなあ」とまたつぶやいた。


 ――その後、帰宅のためのやり取りを行っていたときに、ふと西園寺さんのお父さんが言った。


『それにしても、まさかこの年になって超常現象に出くわすとは。まだまだ世の中には不思議が溢れている』


 あ……と思ったときには遅かった。

 錆びた鉄のようにギリギリと岸島がこちらを見る。


「超常、現象……?」

「はい! そうなんですよ、岸島先生。携帯電話がこの状態で、しかもすごいタイミングで繋がったのが奇跡ですし。それに聞いてくださいな、他にも――」


 嬉々としてまくしたてる西園寺さん。俺はそっと彼女の肩に手を置いた。ふるふると顔を横に振る。


「行こう、西園寺さん」

「礼哉さん?」

「それ以上はいけない」


 現場から立ち去る俺たち。


 その後ろで「あ、あねさーん!」という声が聞こえた。

 



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