〝軍人さん〟現る
「それに、上流階級でご子息に女性について学ばせるのにうちみたいな高級娼館を使うのはよくある話なのさ。外聞悪いからみんな内密の話にしちまうけどね」
「そうか、そう言うのもあるんですね。もしかして、あの方、ど――」
「しっ! それは言っちゃだめだよ?」
「そりゃそうだ。外にバレたら店の沽券に関わりますよね」
「パメラ、わかってるじゃないか。私が見るにあれは、まだまだ原石だけど磨けば光る玉だよ。絶対逃しちゃだめだよ? うまくいけば玉の輿さね。しっかりおやり」
「はい。次においでいただけたら、もっと優しくしようと思います」
「そうだね、そうしたほうがいいよ」
「それで、あの、女将さん」
「なんだい?」
「あの方にお礼のお手紙を書きますので届けていただけませんか?」
「あいよ。書き上がったら私のところに持ってきな」
「はい!」
「ちょいと邪魔するぜ」
「あら、軍人さん、ここは娼婦の控え室だよ? 男子禁制だよ」
「悪い悪い、パメラにすぐに会いたくってさ」
「え? 誰? キャッセン?」
「おう!」
「いつ帰ってきたの?」
「今日の昼だ。国境地帯の長期遠征任務無事完了だ! 当分の間中央勤務だ」
「嘘? 本当!?」
「おいおい、こんなことで嘘ついてどうすんだよ」
「だって、前に、中央に戻ってきても、すぐに遠征任務に飛ばされたじゃない」
「今度は大丈夫だよ。なんたって、中佐に2階級昇進したからな」
「本当? 階級章が新しくなってる」
「ああ!」
「あら、星が2つ増えてる。すごーい。ちょっとパメラ、この人誰?」
「私にも紹介してもらいたいものだね」
「ああ、すいません。女将さん。私の常連でキャッセン大尉です。今聞いた通り昇進したから中佐ですけど」
「あまり顔を見たことないけどね」
「不義理を働いて申し訳ない! この1年間ずっと、辺境の最前線の砦で大隊長を務めてたんです」
「あら、そうだったんですか。それでパメラったら、郵便配達人をいつも気にしてたんですね?」
「それは申し訳ない、場所が場所なので手紙も出せませんでした。パメラにはずっと寂しい思いをさせてました。ですが先月の作戦で大きい成果をあげましてね、2階級昇進して参謀本部の作戦部付きになったんです」
「え? それじゃあ」
「ああ、これからはよほどのことがない限り、中央勤務になる。これでやっとお前のことを〝身請け〟してやれる。ところで明日暇か?」
「え? あ? うん。予約は入っていないから大丈夫だけど?」
「それなら一緒に来い! 俺の両親に会ってもらう」