客からの贈り物
「あんたたち、なんだか盛り上がってるみたいだね。」
「あら女将さん。お疲れ様です」
「お疲れ様です」
「ああ、お疲れさん。次の客の来る準備しときな。そろそろ10時頃になるから酒場でいっぱい引っかけた旦那がたが、ひと休憩しに来る頃だからさ」
「はい」
「ええ、準備入ります」
「そうしときな。ああ、そうだサーシャ。次の客に入る前にあんたに渡しておかなきゃならないものがあったんだ」
「え? 何ですか?」
「これだよ」
「あら、ずいぶん大きい衣装箱――とお手紙?」
「ああ、さっきあんたが相手した上級候族のご子息からだよ」
「え? あの、モントレル家のご子息ですか? なんかあんまり喋らないで帰っちゃいましたけど? あ、開けてみていいですか?」
「サーシャ、あんたに送られたものだよ? 好きにしな」
「はい――、うわぁ、すごい。ハイシルクのショール! うわ、ダイヤモンドのビジューが散りばめられてる。こっちのお手紙は――お礼の手紙?」
「サーシャ、あんた結構好き勝手言ってたみたいだけど、1つ覚えときな。あのご子息は両親を早くに亡くしたんだよ。兄弟もいなくて厳格な祖父母夫婦に育てられたのさ。未来の跡継ぎにってね」
「ご両親がいない?」
「そう。お家を存続させるためにはあのご子息に何が何でも優秀になってもらわなきゃならない。そういう状況だから、勉強漬けで遊ぶ暇すらなかったのさ。当然、恋人はおろか友達すら作らせてもらえなかった。女との喋り方なんて分かるはずがない」
「あ、終始、仏頂面だったのってそれが理由ですか?」
「そういうことさ。厳しく育てられすぎたせいで女とどう喋っていいかわかんないんだよ」
「そうか、女性に冷たいわけじゃないんだ。あ、でも、それがどうしてうちの娼館に?」
「あのご子息をがんじがらめにしてた御祖父様が亡くなったからさ。名実ともに家督を継承してやっと自由を手に入れたってわけ。それまでは屋敷の使用人以外は女性とは喋ったこともない。でも、人肌は恋しいし、将来の伴侶を考えたら女性に慣れておかないわけには行かないだろ?」
「まぁ、そうですよね。契約結婚でも多少は言葉をかわすわけでしょうし」
「そう、それでお屋敷の男性侍従の一人が、気を利かせてうちの店に予約を入れて来たってわけさ。生まれて初めての女遊びにね」
「それを私がお相手したわけですね?」
「そういうこと。ご子息言ってたよ? とても楽しかったって。何を喋っていいかわからないような無作法者で、相手するのが大変だったはずなのに嫌な顔一つしなかったって。顔には出さなかったけどよっぽど嬉しかったんだろうね。多分あの御仁、またあんたのところに来るよ?」
「はい、次はもっとしっかりお相手しようと思います」
「その方がいいよ。確かに上流階級のご子息ってろくなのがいないのは事実だけど。そうじゃないのも少なくないのさ。覚えておきなそういうのを〝玉石混交〟って言うのさ。光る玉と石ころを見分けるのも娼婦の才覚の一つだよ?」
「はい」