シモの〝毛〟の話
「この商売色々いるわよね。入ってきた理由。借金にも色々あって、大きい街で夢を叶えようとして上京して、見事に騙される人もいるし」
「家族の治療費稼ぐのに身売りするのもよくあるし」
「親が戦場で戦死して残された家族が食い縁稼ぐのに春を塞ぎに来るのもよくある話よ」
「飢饉があった年には、親から売り飛ばされた農村の子もいるわよね」
「みんなよくある話よ。人生につまずいた時には助けてくれる人は誰もいないの。泥まみれになって転げ落ちても、身ぐるみ剥ぎに襲いかかってくるだけ」
「ケツの毛までむしられるってやつだ」
「私らみたいなのは下の毛だろうけどね」
「毟れるもんならやってみろってやつよ! 毟しられないように全部剃っちゃったわよ」
「やっぱり剃った方がいい?」
「あら? サーシャは剃ってないの?」
「うん、割と伸ばしっぱなし。ちゃんと洗ってはいるけどさ」
「あー、剃った方がいいよ。野戦経験の多い軍人さんとか傭兵さんとか割と平気で毛じらみとか付いてるから」
「え? マジ?」
「当然じゃない。野戦行軍とかになったら1ヶ月も2ヶ月も風呂無しなんてのザラだから。本人は綺麗にしてるつもりでも、結構残ってんのよそういう人たちって」
「うわー、知りたくなかった」
「私今まで2回うつされたことあるの。これがすごい痒いの。医者にとってもらったんだけど、下の毛ツルツルに剃って強めの逆性石鹸で洗うの」
「それで取れるんだ」
「まぁね、万が一残ってる可能性もあるから、その日1日は仕事できないけどね」
「厄介なお土産ね」
「そんなお土産欲しくないけどね。でも上流階級の頭のめでたいお坊っちゃんに比べたら、軍人さんや傭兵さんの方が何倍もマシよ」
「あら、パメラも?」
「そういうサーシャも?」
「当然じゃない。軍人さんは女に優しい人が多いし、傭兵さんたちは話上手で気分を盛り上がるのが得意なのよ」
「お酒もたくさん取ってくれるから商売にも助かるしね」
「そうそう。たまに酔いつぶれてめんどくさいことになるけど」
「ベッドの上でお店広げたりとか」
「パメラやめて〜、先月それやられたんだから」
「あはは、あれクリーニング代、結構な額になったでしょ」
「お客さんに払わせるの大変だったんだから」
「そりゃ客が悪い」
「まあそうなんだけどさ」