二人の娼婦、ぼやく
「あら、サーシャ、お疲れ」
「お疲れ、パメラ、やっと帰ったわ」
「割と早い時間に来たお客だったから、遅くまでのんびりするかと思ったら、随分早く帰ったのね」
「うん、やるだけやったらさっさと帰っちゃった。ムードもへったくれもありゃしない」
「さっきの上級候族の長男坊?」
「そうそう」
「随分羽振り良さそうだったけど」
「うん。金払いはいいけどね、常連客にするのはちょっとね」
「え、どうして? お金払いいいんでしょ?」
「お金はね。でもなんか仏頂面で、話しかけても生返事ばっかり。ベッドの上で相手しても、お世辞もありがとうもないの。張り合いがないったらありやしない」
「何それ、こっちが裸になって足だけ開いてれば満足ってやつ?」
「みたいよどうも。教育係から身分の違いとか、候族様がいかに偉いかとか、そういうのをがっちり刷り込まれて育ってきてるタイプね。女にお世辞を使ったりとか考えもつかないんでしょうね」
「あー、時々いるねそういうの」
「時代遅れだけどね」
「そうよね100年前だったら通用するけど」
「そうそう。そういうタイプの上流階級のおぼっちゃんって、自分より下の身分の人たちを割とぞんざいに扱うから、いつかどこかで足元救われるのよ」
「昔のあんたの実家みたいに?」
「そういやそんなこともあったわね」
「親父さんだっけ、投資相場に突っ込みまくったあげく、昔の使用人に騙されて大はずれを引いて一発でパー」
「そうそう。それで私が尻拭いで、娼婦の商売のこの世界に入ったのよ」
「結局みんな似たようなもんなのよね。この世界に入るきっかけって」
「そういうこと。投資の失敗とか、貸したお金が焦げ付いたとか、親族が何かとんでもなくやばい犯罪を犯したとか、何かきっかけがあればそれまで揉み手で下手に出ていた連中はあっさり態度を変えるわ」
「あるあるそういうの。私も親が商売で失敗して借金背負わされてこの世界に入ってきたからね」
「借金かぁ、もうちょっとなんだけどな」
「あら? サーシャ、どれだけ残ってんの?」
「1割ちょっとってとこかな? パメラは?」
「借金は残ってないけど、弟が結核治療でサナトリウム入ってんのよ。親も結構トシだから、借金返し終えたのを期に私が払うって言ったの」
「それ、これからもずっとよね?」
「大丈夫よ。借金抱えてる時と比べたら安いもんよ」
「図太くなったわね」
「お互いにね」