ソフィが来た
5話 ソフィが来た
「タクシー乗り場なのにタクシー来ないね」
確かに、さっきから来たのは老人を乗せて来て、運良くギャルが乗った、あの一台だけだ。
タクシーの方も無人のこの駅に降りて利用する客など期待してないのだろう。
ボクはタクシーを待ってるわけじゃないからいい。
なんでも、ソフィの新車が届くそうで、届きしだいこちらに向うということだ。
しかし、遅い。待ちあわせ時間はとっくに過ぎている。道が混んでいるのか?
ボクと幹尾友紀は自販機の飲料水を買い横のベンチに座り、ボクはソフィを彼女はタクシーを待った。
知らない人が見たらカップルだと思うんじゃないか。カップルならいいが、親子とかにはみられたくない。
まあボクには十三の子どもはおおきすぎる。
「おにいさんは何処に?」
「まあちょっとね。ボクはタクシーじゃなく、クルマを待ってるんだ」
「迎えが来るのか。イイなぁ」
「君は、何処へ? 友だちの家とか?」
「いや、ちょっとしたバイト」
「バイトかぁ。似たようなもんだな。ボクも。でも、キミ中学生だろバイトしてるのか……あ」
駅のロータリーに水色のクルマが入って来た。
あの一見軽自動車の外車は。
アニメ好きなら知ってるだろうフィアット。その最新型だ。
クルマはボクらのベンチの前まで来て停まった。運転席のウィンドウが下がると。
「ゴローコーお待たせ!」
顔を出した茶髪のロングヘアーで薄い茶色のサングラスをかけた女性は、ボクの学生の頃のあだ名を言った。
「おにいさん、ゴローコーっていうの?」
「あだ名だよ」
ソフィは時々、このあだ名で呼ぶが面白いのは意味をわからずに言ってる。以前「水戸黄門」を知ってるかと聞いたら知らないと。
「遅れてゴメンね。仕事は午前で済ましたけど、クルマが、遅れて来たうえに渋滞にハマって」
「待ちあわせは来ればいいんだ」
ボクが助手席に乗ろうとしたら。
「お願い! 乗せて!」
「おや、さっそくナンパ?」
ええ、後部座席から声が。先輩じゃないすか。
先輩はクルマから降りると幹尾友紀をしげしげと見て。
「可愛い子じゃないの。載せてあげたら」
幹尾友紀は、このスキンヘッドで黒いサングラス、ダークスーツの男に引いている。
先輩は、しゃべりだすとイメージがガラッと変わる。
「先輩が、なんで?」
「ここまでソフィちゃんとドライブをしてきたんだ。このクルマは僕があげたボーナス」
そういえば、雑誌の記事のおかげで客がどっと増えたんでボーナスあげるとか言ってた。
ソフィはお金じゃなくクルマを。
「まぁね、ソフィちゃんがクルマの運転なれてないと言うから、ナビしながら来たんだ」
クルマにナビはちゃんとついている。それに先輩後部座席に乗ってた。
う〜ん先輩。ホントにこの人は最大のライバルだ。勝てる気はしないが。決めるのはソフィだ。
早く告らないと。ってーのにボクは勇気がないというか。だから何年も片思いのままなんだが。
「お嬢ちゃん、おじさんに変なコトされなかった?」
「うん、チョコバー食べさせられた」
「チョコバー? よくわかんないけど、水戸くん、この子は?」
「たまたま駅で。タクシーを待ってるけど来ないから一緒に居たんだ」
「あのね、タクシーならスマホで。持ってなかった?」
先輩はスマホを背広の内ポケットから出して。
「あ、そうか。なんで思いつかなかったんだろ」
と、幹尾もポケットから出した。
「ゴローコーと居ると楽しかったからかなぁ」
「幹尾、おまえが言うな。その、あだ名」
「だいぶ仲良くなったのね。で、何処へ行くの?」
ソフィ、仲良くなってない。こいつが一方的に。
「ココへ行きたいんだけど」
「アレ、この住所は」
ソフィが見せられたスマホの画面を先輩が覗き込み。
「いいじゃないの~。乗せてあげたら。じゃ僕はここらで」
先輩は駅のホームに向かった。
そしてすぐに近くの踏切りが鳴った。上りの電車だ。なんというタイミングの良さ。
でも、これ偶然?
「おじゃましま~す」
と、幹尾友紀は後部座席に乗った。
ボクも助手席へ。やはり、ソフィの隣に座りたい。
「彼女は何処へ?」
「それが、私たちと同じなの……」
つづく