表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

奮闘

ただひたすらに走っていた。

まるで己の不甲斐なさを踏み潰すかのように、地面を踏み砕き、土を跳ね上げた。

上層の頃とは比べ物にならない程広いはずの深層を、我武者羅に駆け回り、魔物も無視して怒涛の勢いで進んだ。

息を切らし、喉が干上がっても走るのを辞めなかった。


そして息も絶え絶えになったその時、通路を抜けると今までの大部屋など比較にならない程の空間に入った。

この時ばかりは足が止まり、少しの間放心した後周囲を見渡した。


長方形の広大な空間で、天井はゆうに百メートルを超えていた。遠くに小さく見えるのは、次の階層に続く下り坂だろう。

俺は気を取り直すと、休憩を兼ねて徒歩で出口を目指した。

縦の長さも相当なもので、数分歩いてやっと半分の地点まで来た。


その時、地鳴りがした。いや、正確には空間全体が揺れていた。

「──!?」

あまりの揺れに地面に膝を付くと、真横の壁がポロポロと崩れているのが見えた。

「──嘘だろ!?」


「シャァァァアアアアアアアアア!!!!」


壁を崩落させながら現れたのは、巨大な蛇だった。アナコンダなど可愛いもので、頭だけで自動車ほどの大きさはあった。

しかしそれだけではなく、頭が九つもある。それぞれの頭が意志を持っているようで、まだ完全に抜けきれぬ壁に頭を打ち付けて破壊していた。

「なんだよあれ!?」

俺は痛む脚を必死に動かして、何とか出口へと走った。

まだ部屋の中心を歩いていたおかげで、大蛇の出現した壁からはかなり距離があったのがせめてもの救いか。

しかし大きさもさる事ながら、その移動スピードは凄まじい速さだった。

みるみる内に距離は縮まっていき、九つの巨大な蛇頭が迫ってくる。

「シャァァァア!!」

すると一つの蛇頭が、何か緑濃色の液体を吐き出した。

俺の真横を掠め、少し前方に落下すると、そこで泡を出して地面を溶かしていた。

「毒かよ!!」

攻めて荷物が無ければ蛇と同等のスピードで走れるんだがな。

しかし荷物を捨てるという選択枝は無い。

「【下位魔法(ローマジック)閃光(フラッシュ・ショット)】!」

呪文を唱えると、魔法で手の中に光る球を作り出した。背後数メートルに迫ったところで、その球を迫り来る蛇の頭に投げつけ、途端に閃光が爆ぜた。

「ァァァァアアアアア!!」

蛇はバランスを崩し、地面を削りながら倒れ込む。

「よし!!」

その隙に俺は一直線に出口を目指した。

アドレナリンが出過ぎているのか、この頃には疲れは吹っ飛んでいた。

走りながら通った道に、罠の魔法を無数に仕掛けた。ここまで来て詰めが甘くて死にましたなんて洒落にならない。

まだ安心出来る距離ではなかったので、十分に保険はかけた。


後ろを振り向くと、やっと大蛇は身体を起こしているところだった。

巨体なだけに、動作がノロマで助かった。

その機に乗じて俺は一目散に出口を目指した。そんな最中、更なる自体が襲いかかる。


「シャアアアアアアア!!!」


先程以上に、再び大部屋が揺れる。


嫌な予感しかしなかった。


至る所から大蛇の鳴き声が聞こえる。

天井の岩が崩れ落ち、崩れ落ちた場所からは黒く少し艶のある鱗が見えた。

それも無数に。

あっけに取られていると、唐突に地面が盛り上がった。

咄嗟に盛り上がった岩盤を踏み付け飛び越えると、その数瞬後、踏み付けた岩盤を大蛇が食らっていた。

酷い悪寒がした。


後ちょっと遅かったら·····


今頃大蛇の腹の中である。

気を抜いたらそこで死ぬ。何度目とも分からぬ死の予兆に、かつてないほどの危機を憶えた。


「シャァアアアア!!」

「──ッ!?」

間一髪死を免れた直後、今度は天井から大蛇が降ってきてた。大口を開けた九つの首が俺を目掛けて、身体をうねらせ落下してきている。

「【中位魔法(アヴェレイジマジック)魔法の(マジック・)円盾(サークルシールド)!!】

咄嗟に魔法を唱え、傘のようにして盾の魔法を発動すると、スライディングしながら何とか大蛇に押し潰されずに抜け切った。

魔法の盾の上端は押し潰されて欠けていた。

ゾッとする思いで魔法を解くと、すぐさま体勢を建て直し、死ぬ気で走った。


あと数十メートルだ。

何とか、出口の傍に降ってこない限りいける。


大蛇の吐いた毒が飛び交う中、俺は出口に向かって走り続けた。横から噛み付いてくる大蛇を躱し、やっと出口まで数メートルの地点まで辿り着いた。

自分でも表情が緩むのが分かった。

その瞬間、地面が盛り上がるのが視界に入った。地面から巨大な眼がギロついている。それは俺の姿を見つけるなり、地面ごと俺を喰らおうと襲いかかってきた。

「──クソまたかよ!!!」

何とかジャンプして飛び越すと、そのまま出口の通路へと飛び込んだ。振り向くと、地面から大蛇の頭が一つだけ出ている。他の頭で穴を広げ、何とか一つだけ顔を出したのだろう。

大口を開くと、俺が通路に飛び込むより遥かに速いスピードで噛み付いてくる。まるでスローモーション再生でもしているみたいに、ゆっくりに見えた。

「──【下位魔法(ローマジック)魔法の盾(マジックシールド)】!!」

与えられた時間も少なく、最短で発動できる防御魔法の呪文を叫ぶと、大蛇の牙が触れる直前で魔法の盾が出現し、なんとか防げそうだった。

しかし下位魔法など深層の魔物に通用するはずもなく、呆気なく破壊され、俺は通路の奥に吹き飛ばされた。


俺は荷物を抱え、地面を転がった。

一体何メートル落下したんだろうか。腕には大蛇の歯型、といってもほぼ穴が開いて血が吹き出していた。

さっき飛び越えた大部屋の出口を見ると、大蛇が通路をこじ開けようと頭を打ち付けたり毒を吐いたりしているのが遠くに見えた。

多分ここまで来るのは不可能だろう。

「助かった·····のか·····」

過去一番死ぬかと思った。

なかなか俺ってしぶといのかもしれない。このしぶとさを死ぬ前に発揮したいものであったが。

暫く生還した余韻に浸った。


俺は身体を起こすと、腕の傷にポーションをかけて包帯で巻いた。牙にも毒があるのか完全には治りきらなかったので、荷台からくすねた布をちぎって巻いておいた。

再び荷物を背負うと、俺はラストスパートとばかりに先に進んだ。

勘だったが、なぜか最下層が近い気がして引き寄せられるように坂を下っていった。


──


暫く迷宮を進むと、階段の先に巨大な扉が現れた。

一歩一歩登る度に、先程の緊張は吹き飛んで不思議と高揚感が増した。

「はぁ·····はぁ·····、やったぞ·····」

俺は巨大な扉の前に立った。

彫刻の施された石造り扉は、高さが十数メートルはあった。一体誰向けなんだろうか。

何とか片手で扉を押すと、地面と扉が削れる音を立ててゆっくりと開いた。


そこはまるで教会を彷彿とさせた。二列の石柱が天井を支え、少し崩れた屋根からはどこから差し込んでいるのか分からない月光が差し込んでいた。


「遅い」

嗄れた唸る様な声と共に、木の杖が石畳を割った。

「····師匠·····」

祭壇の最奥、崩れた石柱に古臭いローブを纏った老人が座っていた。

その声色からは不機嫌そうな様子が伺えるが、返って安心できた。

着いたのだ。最下層に。

一体何日かかって、最下層は何回層なのかも分からないが、とにかく最下層に辿り着いたのだ。

俺は達成感と強い脱力感に襲われ、その場にへたりこんだ。

しかし、己の役目を思い出し、師匠の下へ駆け寄った。

「また要らぬものを拾ってきおって」

「そこをお願いします·····どうにか·····」

師匠が返事をする事は無かった。しかし俺は師匠の前で背負っていた荷物こと、魔法で眠っているシルヴィアを下ろした。そう、あの時使った魔法はただの睡眠魔法だったのだ。

そして師匠は、まじまじと彼女を見る。

「まるで絡まった糸くずの様な祝福、いや、これは最早呪いか。核となる祝福は腕利きの術だが、長年の補強の術は見るに耐えぬ。そしてこれを解くには片割れの核も無ければ解呪は困難を極める」

「つまり出来るには出来ると·····?」

反応こそしないが、無言という事は多分そういう事なのだろう。

「どうにかお願いします·····」

「知らぬ。もとより貴様の拾ってきたものであろう。貴様で解決せよ」

ぐうの音も出ないが、どうにか頼み込むしかない。俺に出来ることはそれだけだ。師匠にばかり頼るのは確かに良くないし、金輪際辞めようと思っていたが、この際そんな事は言っていられない。

すると師匠は溜息をついて、背後を指さした。

「後ろの封印されておる竜にでも聞けばよい、儂にばかり頼るな」

そう言って師匠の指さす先には、まるで恐竜の化石の様に丸く散らばった、巨大な骨がいくつも壁面に埋まっていた。

「これは·····一体?」

「この迷宮に封印されている竜だ。そこの小娘の目当てじゃろう」

確かによく見ると、ゲームで出てくるドラゴンの様な骨格だった。頭部の骨など決定的で、翼の骨は見ていて興味をそそられた。

「その小娘の血か、まぁ貴様の血でも良いだろう、壁面にでも塗り付ければ会話程度は出来る」

もしかしてそれが解放する儀式なのだろうか?言い方からそて、少量の血であれば復活に至らなくとも、会話は出来るという事なのだろうか。

しかし血なら誰のでも良いのだろうか。であれば巫女であるシルヴィアがわざわざ出向く必要も無いように思うが·····やはり不明なことばかりだ。

多少疑問はあったが、言われた通り先程大蛇に噛まれた傷口の血を壁面に塗りたくった。

すると次の瞬間、竜の頭骨だけが壁面から外れた。骨なのに、まるで生きているかのように動いている様は異様でしかなかった。


「久しぶりの血かと思えば、何だこの不味い血は。貴様か?我に対する無礼、万死に値する!」

「うぉ·····骨が喋ってる·····」

あまりリアクション出来なかったが、かなり衝撃的な光景だ。首の骨の先で竜の頭骨が空中に浮いている。壮年の男性の声に感じるが、かなりドスの効いている声だ。

「血が足りぬな、血が」

「いやさすがにこれ以上は出血多量で死ぬので·····」

「知ったことではない!ん!?この匂いはまさか、巫女がいるのか?貴様の血はまるでハイドラの毒でも舐めているかのようだ、巫女がいるならさっさと寄越せ」

なんとこの骨、骨のくせに喋れるだけでなく匂いも分かるのか。嗅覚細胞なんてあるはずもないのに、仕組みが気になるところだ。そしてハイドラの毒云々はあながち間違っていないと思う。味覚もなかなか鋭い。

「その巫女なんですけど、巫女の資格を無くす方法とかは無いですかね」

「は?飯をゴミに変える方法を教えるとでも?馬鹿か貴様?おい!そこの小娘、起きろ!」

器用に地面の石片を咥えると、幼女に向かってぶつけた。見事に頭に命中し、シルヴィアが変な声を上げる。

「んん·····うぅ·····」

そろそろ効果が切れるころなので、簡単に目を覚ましてしまった。目を擦って欠伸をしている。

なんだかこのドラゴンこと骨には、どこか師匠に近いものを感じるが、ある程度強くなったらこの世界ではみんなこんな口調になってしまうのだろうか。

俺が感慨深く竜を眺めていると、以外にも師匠が口を開いた。

「久しいな三下の賊竜め、名も覚えておらぬが前王が死した今、契約も残っておらぬ。今度こそ完封してくれようか」

「む?」

すると師匠の声を聞いた途端、竜の動きが止まった。暫く師匠を見詰めると、何かを思い出したのか、「あっ」という声と共に、骨ながら青ざめた様な気がした。

「な、なぜ貴様がここに·····」

「どうでも良いじゃろう、黙ってそこの未熟者の言うことに従っておれ」

暫く沈黙が流れると、頭骨が俺に向き直った。

「して、ご要件は?」

「いや態度の変わりようが凄いな」

師匠とこのドラゴンは何かの知り合いなんだろうか。口振りからして師匠に負けたから強く出れない、というところだろうか。それにしても変わり身の速さといい、シルヴィアの話も含めて考えるともっとドラゴンはプライドが高かったりするのかと思っていた。

「彼女の巫女の資格を消したいんです、できませんか?」

「うーむ、出来ない事はないが、その·····」

そこで竜は師匠の方をちらりと見た。様な気がした。目がないから分からないが、明らかに師匠の様子は伺っている。そしてかなり悩む素振りを見せた後、答えはまとまったようだった。

「あぁよい!もうよい!要するに巫女の資格は儀式を終えると無くなる、貴様が儀式を終わらせてしまえば望みは叶う!」

なにか吹っ切れた様子で、骨の竜はそう言い放った。多分復活のために必要な、巫女の血が惜しかったのだろう。師匠がいなければどうなっていたか分からない。しかし、儀式というと、聞いた話では死んでしまうのではないのか?

「儀式って、生贄の儀式をしたら死ぬから意味無いだろう、あくまで生きた状態でだよ」

「バカめ、儀式は生贄の他に霊峰での儀式も含まれておる、そちらであれば命を失うことはない」


ん?霊峰での儀式?って·····確か一人で山に篭って三日三晩のやつか?

冗談キツくない·····?

もしかするとダンジョンに入ってから一番の危機的状況かもしれない。いや確実に危機的状況だ。


「流石にそれは·····祈りを捧げて三日三晩過ごすとか無r」

「あん?あぁ、まだあのような馬鹿みたいな条件をつけて儀式を行っているのか。あれは能無しの竜共か人間共が勝手に作った条件だ。年齢も関係ない。儀式の真の条件は、血に触れ、互いに愛を示し契約とする、これのみだ」

「あ、愛を示す·····?」

「つまりあの娘が愛であると認めさえすれば良い。愛の表面化といえば、一番手っ取り早いのはやはり口付けだろう、なぁ?」

考えたやつ出てこいよ本当に。俺が文句を言ってやる。

俺は辟易した様子でどうしたものかと考えた。

うんまぁ、おでことかにすればいいよね、アメリカじゃ普通だ、深く考える必要は無い。ちょっと歳の離れた妹とでも思えばさして問題ではないだろう。

しかしそれとこれとは別で、文句は言いたくなるものである

「いやでもなぜ愛·····」

「下劣な人間と契約を結ぶには、最も本能的な欲を利用する方が容易く強固だからだ」

「·····そういうもんなのか」

まぁ筋は通っているが·····

というか相手が認知する必要があるって事は、起こさないといけないって事だよな?寝ている隙に解決してしまおうと思っていただけに、変な汗が出てきてしまう。

いや何がどうしたというのだ、ただの11歳そこらの幼女に愛を伝えるだけである。こちとら成人しているし、お父さんキャラ、ないしはお兄ちゃんキャラで行けば大して恥ずかしくもない。


幼女の方を見ると、寝起きながらも話は聞いていたようで、状況は何となく理解している様子だった。

「ほら、折角教えたんだ。さっさとやってしまえ」

「そう急かすなよ·····」

一応心の準備というものがあってだな。

「本当なんだろうな?嘘ついてない?」

「この期に及んでまだそんな事を言うか、竜種の誇りに誓って、断じて無い!」

·····ここまで言うからには、あんな馬鹿みたいな儀式内容も本当らしい。付け足された嘘の条件も馬鹿らしいが、こちらも大概だ。

俺は腹を括って幼女の方を向いた。いつも表情を変えない印象だったが、この時ばかりはシルヴィアも冷や汗をかいていた。

「·····む、無理にして頂く必要はありません·····嫌でしたら本当にお気になさらず·····」

「いやいや、そんな事、寧ろ俺でいいのか·····」

俺を助けてくれてくれたんだ、それなりの恩は返さなければ。それを抜きにしても、こんな子供に一国の責任を負わせる真似をするとは、不条理であり許容できない。

これは俺なりのケジメなのだ。

「その·····ごめんなさい·····このご恩は一生忘れません」

「いや、いいよいいよ·····」

ははは、と乾いた笑いしか出てこなかった。何緊張してるんだよ俺。いくら女性と接点が無かったからって、流石にこれで緊張するのはアウトだろう。

俺はシルヴィアと同じ目線までしゃがみ込んだ。近くで見ると、よりその美貌が目に入る。正しく桁外れの顔立ちだ。

いや何を動揺いしているんだ俺は。

ほら見てみろ、彼女なんて直ぐにいつも通り、顔色一つ変えてないじゃないか。そうたかがキスして好きですとか言えば良いだけだ、それも子供に。まぁ中身は二十歳の大学生だが、この世界での外観は俺も子供だ。同年代なら問題無しじゃないか?

小っ恥ずかしさを何とか感じないよう、邪念を消して俺は若干悟り気味になっていた。

「likeもまた友人や家族における愛なのだよ、別に伝わればloveという言葉は必要は無いんだ·····そう·····」

「·····?」

おっと口に出ていたようだ、俺とした事が、はっはっは。決して愛してるって言うのが恥ずかしいからじゃないぞ、好きって言ってダメなら言えばいいだけだ。

俺は深呼吸すると、こういう時は勢いが重要と、勢いに任せて言ってしまった。

「あの時は助けてくれてありがとうな、好きだぞ、シルヴィア」

そして俺はシルヴィアのおでこに視線を移した瞬間、異変は起きた。

彼女は少し恥じらう様子を見せて、頬を赤く染めている。色白なおかげでより一層分かりやすかった。

完成されたと言っても過言ではない造形、幼いながら息を呑んでしまう程の美貌、そう、俺に罪は無いと確信した。

「私を巫女という責務から解放してくれたこと、そして命がけで守ってくれたこと、感謝してもしきれません」

「お、おう·····?」

最早俺の動揺など気付かれなかった。ちょっと待ってほしい、なんだか思ってたのと違う。

「そういえば名前、お聞きしてなかったですね、後で教えてくださいね」

そう言ってはにかむ表情は、俗に言う天使というやつだろう。整った顔立ちもさる事ながら、近くで見ると、より一層その破壊力は凄まじい。

上目遣いなんて、王女なのに一体どこで覚えたのだろうか。天性のものなら末恐ろしい。

そして彼女は決心した様子で、言い放った。

「愛してます」

脳を揺らすような響き、なぜか目眩に襲われる感覚がした。

俺よりよっぽどこの子の方が男気があるんじゃなかろうか。こんな小さい子に、俺は色々完全敗北を喫したのだ。

そして気付けば俺の唇は奪われていた。

無論幼女に、だ。

俺のこの世界でのファーストキスは幼女に奪われてしまったということか·····

いや二十歳でファーストキスとか正直気にするのもおかしいが、実際のところ大学受験で恋愛にかまけている時間など無かったので、事実上本当のファーストキスである。


なんて情けないんだ俺·····


俺は何とも言えない面持ちだったが、この際だから言おう。悪くなかった。この時ばかりは許して欲しい。儀式とは言え、彼女からの気持ちは本物のようにすら感じられた。

こうして建前なのか本音なのか、判別のつかない儀式という名の告白を終えるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ