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6 人事の制度を見つけた!

大企業に就職したら、やはり勤務を続けたいものです。性別が変わったっていいじゃない。そういう考え方が今後当たり前になるかも・・・

私は、森川汐音もりかわしおね


今回からモノローグでの一人称は女子にします。

話し方も「ですます調」にします。

だって、ここのところ、心が女性化してきてしまって、仕事している時以外では女性としての気持ちが強いのだから・・・


もちろん本名は山川雅樹のままです。男として仕事をしています。


ただ、ジェンダークリニックで、性別違和の診断を得て、9月からホルモン治療を開始しました。注射を打ってもらっています。

現在12月ですが、身体の変化を実感するようになってきました。

肌が白くなり、きめ細かくなってきて、お尻に脂肪がついてきた感じです。胸も少し膨らんできました。

顔も丸くなってきて、たぶん、他人がみたら、少し太ったように見えるかもしれません。


たぶん、身体や顔の女性化はどんどん進んでいきます。

髪の毛も男性としては、長めになってきています。女性のショートカットよりちょっと長くしてしまいました。ボブくらいです。うまく整髪料を使って、長めの髪をごまかしています。


こうなると、もう現状のまま仕事を続けるわけにはいきません。

男として、仕事をするには、あと数か月が限界です。


そして、私は、実は性転換手術も来年やりたいなと考えて予約もしてしまいました。性転換手術、すなわち性別適合手術をするならば、長期の休暇を必要とします。そして、一刻も早く戸籍上の性別を変更したいと思っている私は、その点についても悩んでしまいます。

はたして、今の会社にいられるのか?会社の理解が得られるのか?実に不安です。


私は、会社に居続けたいと思い、会社の福利厚生や人事の相談について制度を調べてみました。社内ネットワークの中の制度を説明するコーナーをじっくり見てみます。


あったー!

人事上の希望を上司を通さず、直接相談する方法が!


人事部では、直接電話やメールで社員が人事上の処遇について相談できる制度が20年ほど前から設定されてました。

当初はパワハラ、セクハラに対応したものだったようですが、最近では、トランスジェンダーの相談にも秘密厳守で相談に乗ると制度の説明文に記載されてました。

さすが、大企業。世の中の流れをつかんでいる!


私は、まず社内メールで簡単に相談に乗ってほしいと送ってみます。

「自分はトランスジェンダー、GIDです。男性ですが心は女性なのです。仕事のことで希望があります。相談に乗ってください。」

とだけ入力して送信。


すると、その日の内に具体的な内容を教えてください、また女性としての名前があるなら教えてくださいと人事部の柴田野々花という女子社員から社内メールが来ました。


私は、8月に性別違和の診断を取得し、9月からホルモン投与の治療を開始したこと、身体や顔について女性化が始まり数か月の内に男性として勤務するのは難しくなりそうということ、できれば、女性として来春から働きたいということ、性転換手術を来年受けるので2カ月ほど休暇が欲しい事を簡潔にまとめ、柴田さんに送ります。もちろん、女性名の「汐音」も記載しました(戸籍の変更予定も書きました。)。


図々しい希望かなと思いながらも、やはりきちんと伝えないとわからないだろうと考えたのです。


翌日には、柴田さんから、返事が来ました。

「山川さんの希望については、上にも報告しました。

あとは、面接が必要です。

メールや電話だけでは、細かい点が伝わらないし、山川さんの容姿もわからないので、人事の判断がしにくいのです。

申し訳ありませんが、東京本社人事部までご足労願います。

現在の職場の上司、同僚に秘密にするために、差し支えなければ、有給休暇を取って、来てください。

休暇については、後で特別休暇を付与するので帳尻は合います。安心してください。

なお、本社にいらっしゃったら、受付で、山川さんの苗字のみを名乗っていただき、人事部の私あてに取り次ぎを頼んでください。社員であることを話す必要はありません。外部の人間のふりをしてください。あ、女性の姿で来てくださいね。秘密は厳守しますから。」

そのあと、本店での面接の日時が書かれていました。2週間後です。

都合悪ければ、相談してくださいと追記されてましたが、問題なかったので、その日時に伺いますと返信して、一息つきます。


私は、社内の人事制度に改めて驚きました。

仙台の同僚や上司にカミングアウトせず、東京本社の人事部に直接相談できるなんて、すごい!

しかも、トランスジェンダー対応が出来ている。それも、秘密厳守で。

ちゃんと調べてよかった!

こんな制度あるなんて知らなかった。

セクハラ、パワハラの窓口や悩み相談の窓口があることは知っていたけど、こんな制度まであるとは。

みんな知らないと思う・・・

まあ、トランスジェンダーいらっしゃい!なんて大々的に周知するわけにもいかないでしょうけど。


こういう制度があるってことは、わが社の中にも性別移行を考えている人、移行済の人がある程度いるのかもしれない。


それにしても、女性の姿で来てくださいとは、考えもしなかった。

自分の勤務先の本社に女装して行くなんて、超恥ずかしい。

覚悟を試されているみたい。

頑張らないと。


面接で、何を聴かれるのかな?

診断書とか必要なのかな?

人事部の方の対応はまだ不透明だよ。

女性社員になることは認めても、条件が付くかもしれない。職種とか、勤務地とか、部署とか。

どこまで秘密にしてくれるかもわからない。

給与が下がるかもしれない。大企業だから、退職勧告はないとは思うけど・・・。


いろいろな不安を抱えながら、私は、面接の日を迎えます。やっぱり診断書を持参するようにと連絡があり、準備しました。

私は、この日のために、用意した女性用のスーツの上下を着て、東京に向かいます。

もう、就活の年齢ではないので、ちょっとベテランの女性風のスーツを張り切って購入してたんです。

ちょっと高い価格でしたが、私にとって、門出の日だと思ったから奮発しました。

カバンや靴も、就活用ではないものを選びます。仕事のできる20代後半のイメージにしました。


髪の毛はいつも被っているフロングヘアのフルウイッグはやめました。

ウイッグはやはり不自然な感じがします。

もう地毛が女性のボブくらいまで伸びたので、そのままで行くことも考えたのですが、男性の時と変化が少なくて、気分が上がりません。

よく考えて、襟足ウイッグ(簡易式エクステ)を購入。セミロングにしてみます。フルウイッグより自然な感じです。

それを後ろで束ねて、清潔なイメージにしました。


新幹線の中では、何度もトイレの鏡で、髪型、服装、メイクをチェック。


「うーん、ほぼ完ぺきだとは思うけど・・・」

私は、女装を始めて以来、最も力を入れてメイクをしました。派手ではなく、さりげない美しさを出せる自然なメイクです。女装している男性ではなく、普通の20代の女性に見えるよう、頑張りました。

この2年以上のプライベートでの女装生活の総仕上げです。自然な女性に見えれば、人事部もなるほどと思ってくれるでしょう。

私が普通の女の子に見えるかどうかというのは、はっきり確認したことはないのです。

敢えて、自信を持てる出来事と言えば、中山さんと出会ったときのことかな・・・


ああ、だめっ、あの時のことを考えると、気が滅入っちゃう。

集中、集中。


そして、ついに、本社に到着。

本社には研修で来たことあるけど、今までは全部男性姿。まさか、女性の姿で訪問する日が来るとは。


「あの、山川と申しますが、人事部の柴田さんに取り次いでいただけるでしょうか?」


私は、本社ビル1階の受付にいる女性にお願いします。


「山川さんですね。柴田から聴いております。人事部は7階です。そちらのエレベーターで7階まで上がってください。エレベーター出口で、柴田がお待ちしております。」


「あ、ありがとうございます。」


うわっ、時間ピッタリに来てよかった。待たせちゃいけない。


私は、エレベーターに乗り、ドキドキしながら、7階に上ります。

そして、エレベーターから出ると、


背の高いモデルのようなロングヘアの30代前半くらいの女性がそこには立っていました。

彼女は、ニッコリ笑いながら、

「山川さんですね?」と尋ねてきます。


「はい、山川です。この度はお世話になります。」

私は、できるだけ女性の声になるように、練習した可愛い声で挨拶しました。

ここ2年間、練習してきた成果を出しました。


「柴田です。遠いところお疲れ様でした。

では、参りましょう。」


さすが本店女子。美人で、仕事が出来そうなオーラが漂っている。

でも、親切かどうかはわからない。


私は不安でいっぱいでした。

まあ、性別の変更を認めるって言ったって、やはり、実物を見てみないと人事責任者は不安でしょうね。面接は必要です。

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