4 誘われてしまった
本物の女性と勘違いされた女装した男性。どうなるやら・・・
中山廉です。
平日に休みをとって、ドライブに行ったら、出会いがあった。
自宅に帰ってきて、俺は、ドライブ先での出来事をじっくり振り返る。
森川汐音さん、可愛い子だったなー。
容姿も、性格も、話し方や仕草もすべて好みだった。
あれで、華奢だったらベストだけど、ややがっちりしてたかな?
まあ、許容範囲だ。
身長は160センチに満たないくらいでベストだ。
ファッション・センスや付けているコロンも俺好み!
しかも、年齢は嘘じゃなければ、俺とほぼ同じ。
彼氏がいないという情報も本人に確認した。
好きな男性はいるかもしれないけど、それはごく普通のことだ。
俺には十分チャンスがある。
さて、ぜひアプローチしたい!
連絡先を教わったけど、早速メッセージ送ってみるか?
がっついていると思われるかもしれないけど・・・
そうだ、三脚で一緒に撮った電子データをもらっていない。
もらう権利が俺にはある。
よし、言い訳はできるから、そっそく連絡してみよう!
「今日は、お疲れ様でした。
図々しく声をかけたのに、応じてくれてありがとうございました。
とても、可愛くて、素敵な女性に会えて、幸運だったと思います。
一緒に撮った写真のデータが欲しいんですけど、送ってもらえないでしょうか?」
よし、こんなころか?
送信しよう。
明日までは返事が来るだろう。
さて、楽しみに待とう!
ちょっとドキドキするな。
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山川雅樹です。
女性になりたい男性で、家にいる時と、休みの日は女装して過ごしている。
女性の時の名前は森川汐音。
女装のレベルはかなり高いと思う。
街を歩いていて、僕のことを男性と気づく人はいないようだ。
まあ、身長が158センチしかないし、ごく普通の女性のカッコで外出するので、埋没してしまうんだ。
ところで、今日は平日だったけど、休暇を取って、一人でドライブに出かけた。
何と、目的地で、ほぼ同い年と思われる男性に声をかけられ、一緒に写真を撮ったあと連絡先まで聴かれちゃった!
信じられない!
僕は、プライベートでの女装生活を2年くらいしているけど、普通の男性との接触は全くなかった。
だから焦った。
ニューハーフ、GID向けのSNSでは、そういう人間を好む男性からのアプローチはあったけど、それは全部お断りしていた。
僕はホモ、ゲイではない。
僕を男と認識したうえでの、性的対象というのは抵抗があった。僕を本物の女の子として認識してくれるなら話は違うけど・・・。
そもそも、SNSだと身元が不確かだ。
それから、SNSで知り合う女装する男性やニューハーフにも会ってはいない。
会って、いかにも女装している男性ですというような人だったら、ガッカリしてしまう。その時を想像すると会えない。
その上・・・
僕は外出している時は、なるべく他人との会話を避けてきた。
他人と接触して、女装した男性であるとバレるのが怖かった。
黙っていれば、わからないという自信はあったが、会話をすれば、声やトーン、内容で男性の癖が出る可能性は十分考えられた。
それなのに、今日はちゃんと話しかけられてしまい、会話を避けることができなかった。
若くて年齢は近そうだし、感じ良さそうな人だったし・・・ついつい・・・
結果的には・・・どうだろう?
バレなかったかな?
そう思いたい。
問題は連絡が来そうなことだ。
もし、また会おうっていわれたらどうしよう?
もし会っちゃったら、デートになっちゃう。
どんな服着て行こうかな?
ダメダメ、今バレてなくても、そのうち必ずバレる!
僕は嘘がうまくないんだ。
もし、相手が僕と仲良くしたいという気持ちがあるなら、もし、僕のことを女性と信じて好きになってしまったら、相手を傷つける!
ちゃんと、自分の正体を明かさないと。
ホントは、男性とデートしてみたいけど・・・・
でも、がまん!
そんなことを考えていたら、夜になって、やっぱり来てしまった。
スマホにメッセージが入っていたんだ。
「今日は、お疲れ様でした。
図々しく声をかけたのに、応じてくれてありがとうございました。
とても、可愛くて、素敵な女性に会えて、幸運だったと思います。
一緒に撮った写真のデータが欲しいんですけど、送ってもらえないでしょうか?」
うわっ、こんなこと言われたら、好きになっちゃいそう。
困ったな。
そうだ、写真のデータは送るしかないよね。
僕から、撮ってくれって言ったんだもん。
よし、写真のデータをスマホで送れる画像に加工して、
「今日はありがとうございました。おかげさまでいい写真がいっぱい撮れました。」
というメッセージにメールに添付してと…
うん、送信。
この写真、けっこういいな。
お似合いのカップルだ。
付き合い始めたばかりの男女って感じの初々しさがある!
・・・なんて、ダメダメ!
送信したら、数分で返信があった。
「写真ありがとう!
海岸と海がキレイに写っているし、
森川さん、すごく可愛い!
もし、ご迷惑でなければ、
仕事帰りに食事を一緒にしませんか?」
うわー、やっぱりお誘いが来たよ。
嬉しいけど困る。
仕事帰りは男性姿だし!
断らないと!
でも、中山さんを嫌な気持ちにさせたくはないし。
とりあえず、今夜は返事はやめておこう!
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中山廉です。
思わず、勢いで食事に誘うメッセージを送ってしまったけど、二日たっても返信がない。
警戒されてる?図々しいと思われたかな?
うう、やっぱり無謀だったか?
でも、勢いで誘わないと、誘いにくいし…
やはり待つしかないか?
こりゃ、辛い・・・・・・・・・・・・・・・・・
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山川雅樹です。
誘いがあった日から5日目。
ついに、中山さんに返事をすることにした。
やはり、黙り込むなんて失礼だ。
「お誘いいただき、ありがとうございます。
嬉しいんですが、応じることはできないんです。
私には、お誘いに応じる資格がないんです。
理由は言いにくいので言いません。
ごめんなさい。
では。」
よし、送信。
これで、諦めてくれるなら、男であることを
カミングアウトしないで済む。
でも、諦めて欲しくないような気持ちもあるような…
もし、僕のことを本気で好きになったのなら…
こういうの、乙女心っていうのかな?
複雑!
次回は次の土日の間にアップします。