19 再び出会いの場所で・・・
今回で最終回です。運命の場所に戻ってきます。
汐音です。
私は、今、恋人の廉さんと、一緒に宮城県の南三陸に来ています。
そう、私と廉さんが最初に出会った場所。高台の展望台にいるんです。
久々の再訪問。
仙台まで新幹線で来て、そこから石巻まで電車に乗ったあと、レンタカーでたどり着きました。
奇跡的に今日は、出会った時と同じでいい天気。
他に人はいません。景色を二人で貸切です。
あの時と同様、平日に来たのは正解でした。
私は3カ月前、いきなり廉さんに実家に連れて行かれて、あれよあれよという感じで、結婚を前提として付き合うことを決めました。決めさせられたという感じだったかもしれません。
廉さんの方はいろいろ計画してたようですが、私は驚きの連続の中で交際を受け入れました。
私が心の奥で望んでいたことでしたから、強引に仕組まれたことであっても感激しました。まさかまさかの出来事でした。
こんな形で、普通に結婚をめざすことができるようになるなんて。
敵わぬ恋と半分あきらめてたんですから。
子供をつくれない性転換女子が結婚を志すというのはハードルが高いのです。
そのあと、サプライズを仕掛けた廉さんに文句をいいつつ、感謝もします。そして夢見心地になっていったのは言うまでもありません。
元男性の私が結婚できるなんて、信じられない。
お嫁さんになれるの?
ウエディングドレスが着れるんだ!
結婚式に両家の家族が揃うかも!
反対されてないもの。
男性側に反対がなければ、私の家族が反対するわけがない。
絶対無理だと思ってたことが実現しちゃう。
冷静に考えれば、信じられない話だよ。
そして、私たちは順調に交際を続けました。
もう、33才の二人です。
仕事でも、それなりの立場だし、分別もあります。大人の付き合いで、多少の喧嘩はありましたが、大きな問題はなく時間は過ぎました。
そして、私が実家に交際状況について報告すると、宝くじが当たったかのように喜んでくれて、大騒ぎになりました。
一生独身で過ごすだろうとあきらめていたみたいですから。
私は、まだ、プロポーズされたわけではないから、しばらくは見守ってと家族を落ち着かせるのに大変でした。
そして…
サプライズから3カ月後。
今日、廉さんに誘われて、思い出の場所に帰ってきたのです。
泊りでの東北旅行です。
廉さんが、どうしても行きたいって言うし、私も原点を再確認したくなって承諾した次第です。
「遠くまで付き合ってくれてありがとう。
今日、ここに来たのは、やっぱり大事な場所で言いたかったからだ。
ここ、大げさな言い方かもしれないけど・・・運命の場所って気がして・・・
だから、ここで言わせてくれ。」
「うん、そうだよね。
ここで会わなければ、私たちの今はないものね。
本当に凄い偶然。
廉さんって、けっこうロマンチストだし・・・わかる。
私もロマンチストだよ・・・」
「じゃ、言う・・・
汐音さん・・・俺と結婚してください。
初めて会ってから、8年経ったけど、君が運命の人だって信じてる。
君と再会したとき、気持ちを抑えられなかったし、そして、その気持ちはどんどん大きくなっていったんだ。
性別の件は関係ない。
君が好きなんだ。
だから、結婚を申し込む。」
「私を、見つけてくれて・・・ありがとう。
そして、性別の問題を超越してくれて、嬉しい。
…うん、お嫁さんにしてください。
至らぬところがいっぱいあると思うけど、そして・・・
生まれつきの女性ではないけれど・・・
精一杯いい奥さんになるよう努力する。
でも、そっちもいい夫になるように努力してね。」
「うん、わかった。
俺たちは新しいタイプの夫婦だと思う。
この時代だからこそ、生まれた新しいカタチの夫婦。
生まれた時の性別なんて関係ない。
君は、俺にとっては最高に素敵な女の子なんだ。
お互いを支え合う気持ちをもって、どの夫婦にも負けないように仲よくしよう。」
予定調和のプロポーズです。
全然サプライズではありません。
サプライズは初めて廉さんの実家を訪問した時で終わっちゃいました。
あの時が、事実上のプロポーズだったと思います。
廉さんの家族そろってたし。
でも、ちゃんとプロポーズされるのは嬉しい。
だって、一生の記念ですもの。
女と生まれたからには(?)、やっぱりプロポーズは大事。
ふと、私は、聴きたくなります。
「でもさ、あの時、何で声をかけてきたの?
三脚立てて自分の事を一生懸命撮っている変な女って思わなかった?
そもそも、男性って気づかなかった?」
「実は変だなって思ったよ。
男性とは思わなかったけどね。
小柄だったし。
なぜ、声をかけたのか俺もわからない。
なんか、声をかけずにはいられなかったとしか言いようがない。」
「ふーん、そう?
私の方は、男だってバレてるかもしれないと思って、すごくビビっていた。
逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
でも、写真を撮ってもらっているうちに、気持ちが和らいできたのは、廉さんの人柄だったかもね。」
「逃げ出されなくてよかったよ。
俺も、慣れないことをして、けっこう焦っていたから。
逃げられたら、追いかけられなかった。」
そうか・・・
廉さんも緊張してたんだよな。
二人して、緊張してたけど・・・どういうわけか、一緒の時間を過ごして・・・
そんなことを思っていると、廉さんはゆっくり近づいてきた。
そして、優しく私を抱き寄せる。
(えっ?)
実は、廉さんの実家に行ったあと、寄り添って歩くようにはなったけど、恋人っぽいことは全然してなかった。セックスはおろか、キスもしてない。
私は、廉さんの家族の対応に安心してしまい、恋人らしい行為について、全く焦らなくなっていた。
だから、不意に抱き寄せられて驚く。
戸惑う・・・
「俺、決めてたんだ。プロポーズが終わるまでは、こういう事は我慢しようって。
きちんと結果をだしたかった。
本当は、ずっと、抱きしめたかったんだけど。」
「もう・・・我慢なんてしないでいいのに・・・
私の気持ちわかってたはずでしょ?
変に真面目なんだから・・・
青森旅行した時は、すぐにキスしたくせに・・・」
「それを言われると面目ない。矛盾することを言ってるな。
あの時は、酔っぱらった勢いかもしれない。
ごめん。」
「ふふふ、もう、時効だからいいよ。
それより・・・早くして!」
私は拗ねるように言って、
そして・・・、目をつぶって、上を向く。
そして、数秒後、暖かい感触があった・・・
うん、この感触最高!私たちの相性って、やっぱりいい。
気持ちいいキスだもん。
ゆっくりキスをした後、私たちは、三脚を立てて二人で記念写真を撮る。
8年前と違って、寄り添った写真は自然な笑顔で満たされていた。
「また、ここには来ようよ。そして一緒に写真を撮ろう!」
「もちろん。・・・死ぬまでに何度もね。」
「ああ・・・」
私たちは、見つめ合って、最高の笑顔を相手に向ける。
8年の時間に感謝しながら・・・
完
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
こういうカップルがいたら素敵だなと思いながら書きました。
ちょっとしたおとぎ話かもしれませんが、私の好きな展開なのです。
では、また、違うお話で、お会いしましょう。書けたらですけどね(笑)。
私の素人小説もだいぶ煮詰まってきました(笑)。