ウソ発見の方法 ~焼けた金属を口にする~
ふと思い出した事を、書き綴ってみた。
ふと思いついたというか、思い出した物をつらつらと書いてみたくなった今日。
子供の頃に見た特番で、近代文明との接点が少ない民族の所にテレビクルーが行くという番組。
その民族の文化、生活スタイル、トラブルが起こった時の解決方法などを紹介しており、日本では見られない独特な風景、見た事もない植物が当たり前にテレビに映っている。
怪物や魔法こそ無いものの、自分の日常とはあまりにもかけ離れた生活に冒険心をくすぐられ、あこがれも感じていました。
番組は進み、色々なシーンが放送されていく。後半に差し掛かる頃、村の中から食べ物か置物か分からないが物が無くなるという事件が起こり、それを解決するまでを追いかける内容になっていきました。
無くなった物が置いてあった場所に出入りしたのは女性が2人、他にこっそり入った人もいるのかもしれないけれど、その建物は出入り口が1つしかなく、村の広場から良く見える場所にありました。
なので、この2人以外が犯人だったとは考えにくい状況でした。
村人たちが女性に対して、正直に言うように促したり、他の人に聞こえない所に連れて行って、本当はどうだったのかを尋ねたり。
色々とやってみていたが、女性2人の何もしていない、知らないという主張は変わりませんでした。
皆困り始めた頃に、村の長老が村人を全員広場に集まるように声をかけて、中心に薪を集めて火をつけました。
テレビクルーは何が始まるのかと戸惑っているが、村人たち全員が緊張した顔のまま、女性2人を長老の前に座らせて、数メートル離れた所をグルリと取り囲んでいました。
燃え盛る火の中に、長老は鉄のスプーンの先端を差し込みました。
女性2人の顔に緊張が走り、みるみる表情が硬くなっていきました。
鉄のスプーンと言いますが、日本にしてみたら大きなお玉、イベントや町内会の集まりなどの大人数が集まるときにだけ使うような巨大なお玉です。
これは村に伝わる、ウソを見抜くために行う儀式に使うアイテムです。
熱く焼けた鉄のスプーンを三度舐めて、舌に火傷があれば嘘つき、舌が火傷していなければ真実を語っていたと判断できると言い伝えられ、それが実践されているからです。
パッと考えると、そんなバカな事があるかとも言いたくなります。実際私も当時見ていた頃は、こんなおかしな話は無いと思っていました。
ですが、最近ふと思い出した時、あながち間違っていないのではないかと考えるようになった自分がいます。
確かに、熱した鉄を舐める事で真偽が分かるなんて、おかしい話だと感じます。
冷静になって、考えてみると、そうでもないという気になってきました。
嘘を付いたとき、人間には必ず変化があります。
思わず、小さく頷いてしまう。
肩がピョンと一瞬あがってしまう。
口が乾く。
汗をかく。
視線の動かし方が変わる。
などなど、数え上げればキリがありません。
先ほどの話に戻すと、ウソを見つけるために熱した鉄を舐める事になるわけです。
この場に来るまでに、何人もの人に声をかけられて本当はどうなのと言われ続け、他の村人も誰か見た人はいないかとお互いに確認するという村を上げての犯人探しが続いています。
犯人の立場からしたら、とてつもなく落ち着かない環境です。
少しでも自分に不利な証言が出てくれば、そこから辿って自分がやった事が分かってしまうかもしれません。
これまでに話しかけて来た人の中に鋭い人がいれば嘘を見抜かれるかもしれません。
心拍数は上がり、冷や汗は出ます。
口の中は渇き、呼吸は浅く早くなっていきます。
逆に自分が犯人ではないと確信をもっていれば堂々としていられます。
確かに人前に出たり、疑われているというストレスになるので、普段よりは緊張して心拍数の上昇や口の渇きにもつながりますが、犯人ほどではありません。
つまり、犯人は口の中がカッサカサに乾ききっている。疑われている人も口は乾いているだろうけど、犯人ほどではありません。
この状態で、長老からよく焼かれた鉄を舐めろと指示が来ます。
当然、犯人の方が口が乾いているので、火傷をする可能性が高いのですが、ここでさらに犯人の口を乾かせる要因があります。
それは人間の信心です。
村に昔から伝わってきてる嘘を見抜く儀式、これを犯人は見ています。
純粋に、儀式が真実を見抜くと信じていれば、犯人は「これでばれてしまう」と強く思っている事でしょう。
バレた後はどうなるか、これまでに嘘を付いて、その罰を受けて来た人を見てきたのであれば、今後の身の振り方を嫌でも考えてしまう事でしょう。
こうした儀式でバレると心から思っていると、人間はそのように体が勝手に動いてしまう事があります。
つまり、口を乾かせてしまったり、緊張のあまり口と舌を上手く動かせず、必要以上の時間をかけて鉄を舐めてしまったりと、火傷をする可能性を上げる事に繋がってしまいます。
長老から差し出された焼けた鉄を疑われている2人は躊躇いなく舐めていきます。
本当の事を言っていた女性は、自分が潔白であるという自信を持って、嘘をついていた犯人はばれてしまうと確信して、今後の身の振り方を考えながら。
結果、2人の女性の一方は舌に火傷も傷も負わず、もう一方は焼けて舌の一部が出血してしまいました。
その次の瞬間、舌が焼けた女性は「自分がやりました」とハッキリと口に出して証言をしたのです。
まだまだ、嘘で塗り固める事もできたはずなのに、儀式という過程を経たことで、自分が罪を犯していると確信をもって証言してしまったのです。
もしかしたら、自分が犯人でなかったとしても、儀式をみんなが見ているので嘘でも認めた方が楽だったのかもしれませんが……
嘘を付いていた人の方が火傷する確率が高く、真実を語っていた人の方が火傷する確率が低かった事は確かでしょう。
今更ながら、嘘ってバレる物なんだなぁと思う今日の事でした。
久々に短編かいてみました。
いつもの連載の方もよろしくです。