9話 オッサンゲーマー 因縁のゲーム機と再会する
長いゲーム人生の中で、オレは数多くの偉人を見てきた。
いわゆるトップクリエイターと呼ばれる、ゲーム開発者。
名作ゲーム、あるいは名機と呼ばれるゲーム機を世に送り出した人たちのことだ。
しかし、その中でも『神』と呼ぶにふさわしいクリエイターの名前を問われれば、オレは二人の名を挙げるだろう。
ナージャ=シベリ、そして墨田チエ。
ゲーム業界にあってナージャの名前を知らない奴はモグリだ。そう断言する。
伝説のプログラマー。不可能を可能にする天才だ。
長編RPGのプログラムをほとんど一人で書き上げたかと思えば、そのバグの修正を電話で指示したという逸話まである。
彼女の頭の中には、自分の書いたコードが全て記録されていたのだ。
飛空艇に影を落としてくれと頼んだ翌日にはあっさりと完成させ、ついでに移動速度を4倍にするというおまけまでつけてくれたらしい。
何でも、ゲーム機本体のバグを利用して実現したらしい。彼女は、プログラムだけでなくゲーム機本体の全ての仕組みが頭に入っていたに違いない。
ここまで聞いて、ひょっとして……と思ったそこの君。
おじさん、勘の良い人は大好きだよ?
何を隠そう、今俺の目の前にあるドルクエこそ、ナージャが初めて携わったRPGだったのだ。
しかし、その前に出した『毒マリ』『星のカビ』もまったく売れずに会社が倒産。
天才の偉業が世間に認められるには、時間と金が足りなかったってことだろう。
いや、実際ドルクエは今の世の中にあっても誰も認めてはくれないと思うけどさ……。
でも、オレが初めてゲームに熱中するきっかけになったゲームなのは間違いない。
このゲームに出会わなければ、オレはきっとゲーマーの道を志さなかったと思う。
なんにせよ、倒産後に引き抜かれた次のメーカーで数々の伝説的なゲームを開発し、ナージャは業界のレジェンドとして名を残すことになったわけ。
そして、もう一人。
現代において最も有名となった天才プログラマー、墨田チエ。
彼女が生み出した二つの作品が、オレの目の前に立っていた。
「なあ、ベン。お前が持ってるそれ、なんだかわかるか?」
「……名前くらいは……」
チエの息子、墨田ベンの手にあったのは、彼女がこの世に生み出した史上最高のゲームマシーン。
名を『ユグドラシル=ドライブ』、通称『ユグドラ』。
見た目は普通のVR機と変わらない。基本的な性能も一緒だ。プレイヤーに、あたかもゲームの中に入り込んだような没入感を味あわせる。
しかし、このマシーンがこれまでのゲームと一線を画すのはそこではない。
このマシーンが最も特徴的なのは、『ユグドラ』はゲーム機ではないということにある。
本体パッケージにはこう記載されている。
『全対応型、VR体験用コントローラ』と……。
つまり、このコントローラを使えば、どんなゲームでもVR化することができるってことだ。
ゲーム本体の情報を解析し、疑似的に3D空間に変換してプレイヤーに送信する。
プレイヤーは、それがどんなに昔に作られたゲームであっても、ロトの血を引く勇者だったり、配管工の髭オヤジだったり、倒した相手の能力を剥ぎ取れる人型ロボットになったりできるのだ。
さらにこのマシーンが画期的だったのは、プレイヤーとしてだけではなく、観客としてもユーザーにVR体験を提供できる点にあった。
プレイ実況を『見る』のではなく『体験する』ことができるようになり、ゲーム配信業としての売り上げは爆発的に伸びていった。
『ユグドラ』の発売以降、ゲーム業界の市場規模はざっと10倍にまで膨れ上がり、100兆円産業にまで拡大した。
もちろん、俺も発売日に購入したし、今でもプレイしている。
しかし、こいつが普及したせいで、ゲーム業界は大きくなりすぎた。そして、俺はその流れについていくことができなくなっていった。
その後どんな顛末をたどったのかは、さっきまで見てもらったとおりだ。
言ってしまえば、オレは『ドルクエ』によってゲームという夢に魅了され、『ユグドラ』によってその夢から引きはがされたんだ。
どっちも天才的な神が生み出した傑作だが、神の偉業は凡人には手に余ることも多い。
「つまり、チエは『ユグドラ』を使って『ドルクエ』をクリアしろって、そう言ったんだな?」
「……部屋に残されたヒントは、そう言ってる……」
おもしれえじゃねえか。
二人の神が作り出した傑作を、ゲーム初心者と一緒にプレイしてクリアしろってか?
その挑戦状、受けて立つ!
ゲームをしゃぶり尽くすのは、オレの得意中の得意技だ。
「任せとけ、ベン!今からお前を立派なゲーム脳にしたててやるからな!」
「……結構……それよりも、母さんを探して……」
たどたどしい言葉に明確な拒否の意思を乗せて、ベンは自分でコントローラを頭にかぶったのだった。
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