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68話 パンイチ勇者との邂逅(すれ違い通信)

 教会で復活したボクは、再び町の中を歩いていた。


「……そういえば、元々は装備を買いそろえる途中だったっけ」


 武器屋に向かおうと思って、すぐにやめた。

 改めてステータス画面を確認する。


「……はあ」


 画面に並んでいる数字を見て、改めて憂鬱なため息が漏れ出る。

 ステータス画面には、ボクとリカちゃんの現在のレベルとHP、MPが表示されている。


 勇者:ベン

 レベル:59

 HP:156

 MP:46


 農家:リカ

 レベル:34

 HP:1

 MP:0


「……この様子だと、リカちゃんはいくらレベルアップしてもHPは上がらなさそうだね」

「後で知ったんだが、兄のコーサクさんは敵の正面から向き合い内部を破壊する柔の拳を学び、妹のリカちゃんは敵の背後から叩き込む一撃必殺の剛の拳を学んだらしい。そのせいか、彼女には持久戦と言う概念がないんだよ。一発で倒すか、倒されるか、シンプルな戦い方だろ?」


「……職業が格闘家じゃなくて、農家になってるのは?」

「そりゃあ、本業と副業、どっちを名乗るかって言われたら、答えは決まってるよな?」


 オジサンの解説、というかこのゲームの設定って、理解はできても納得できないものが多いんだよなあ。

 例えば──


「……そもそも、どうして全滅すると所持金が半分になるのさ」

「お前、それはゲームの常識だろ?おいそれと全滅できないように、緊張感を持たせてるんだよ」


「……ええ、そうなんだ」


 これもドルクエ特有の仕様だと思ってたけど、違ったんだ……。

 てっきり、教会の神父がこっそり着服してるものだと思ってたよ。普通に生き返らせるときはそんなに請求しない癖に、結構足元見てくるんだなって勝手にがっかりしちゃったよ。


「……とにかく、この所持金じゃまともに装備を買い揃えることもできないや」


 冷静に考えれば、武器は素手、HPは常に1のリカちゃんに、必要な装備なんてひとつもない気がしてきた。

 どんなに防御力を上げたって、一発喰らったらおしまいなんだもんな。

 アクセサリを装備して素早さを上げようにも、彼女の素早さを上回る敵なんてこのあたりにいるわけがないんだし……。



「……仕方ない。情報収集も兼ねて、このあたりのマップを散策してみるか」


 ひとり呟く。

 いつもなら、「よっしゃ!今度もマップの端っこまで徹底的にしゃぶり尽くすぜ!」と、喜び勇んだオジサンの声がそれに続くところだけど、今回は何故か違っていた。

 

「ゲッ!?」


 代わりに、何かに驚いたような声を上げて急にすべての操作権がボクに委ね……というよりも、押し付けられた。


「……オジサン、どうかしたの?」


 空を見上げてひとり呟いてみるけど、オジサンの返事は一切ない。

 変だな……今までこんなこと一度もなかったのに。


 なにか、会いたくない人でもいるんだろうか? 

 でも、ゲームキャラの中にそんな人がいるとは思えないし、他のプレイヤーもまだそれほどこのエリアに到達してない。


 たとえば、画面の向こう側か歩いてくるあの人なんか……!?


 そこでようやく、ボクはオジサンが誰に驚いたのか思い至った。


 迷いの森を抜けるために、装備枠を全て戦闘用アイテムに持ち替える、いわゆる"装備縛りプレイ"が存在してるのは知っていた。

 ちなみに、人前で裸になるのを恥ずかしがっていた郷田君には最短ルートとマップが切り替わるタイミングを秒単位で教えておいたから大丈夫だろうけど……。


 とにかく、迷いの森を抜けてしまえばその縛りプレイを続ける必要もないわけで、最近増えてきた他のプレイヤーはきちんと鎧を装備していた。

 でも、目の前から歩いてくる人は依然変わらずパンツ一枚のままで堂々とした様子だ。


「……ひょっとして、あの人が噂に出ていた"パンイチ勇者"?」


 聞いたところによると、相当変わった人だっていうけど……。

 そんな人だから、オジサンも関わり合いになりたくないのかな?


 別に、ボクだって関わりたいとは思えないけど。


 次第に近づいてくるパンイチ勇者(仮)。やがてその全貌が……って、ええっ!?

 オジサンじゃないけど、ボクも思わず声を漏らしてしまった。本当なら知らん顔して通り過ぎるはずだったのに、こんな声を上げたら絡んでくださいって言ってるようなもんだよね。

 相手も、嬉しそうにこちらに声をかけてくる。


「おや?随分と小さい子がプレイしてるんだね~。そんなに僕の格好が珍しいかな~?」

「……迷いの森を抜けてもそんな恰好をしてるって意味では、お兄さんはかなり珍しいかと……」


 加えて、噂に聞いた格好に加えてパンイチ勇者(仮)にはさらなる変化点が加わっていた。

 ボクがそのことを指摘ようとすると……


「ウフフフ~」


 背後から、リカちゃんの()()()()()声が漏れてくる。


「おおっと~」


 それはあちらも同じようで、慌てて歩を進める。必然的に、ボク等はすれ違うように別方向に歩き出す羽目になった。

 急いでUターンして、お兄さんに向き直る。別に会話したいわけじゃないけど、流石に話の途中でお別れするのはバツが悪い。


「ひょっとして、お兄さんが"パンイチ勇者"さん?」

「そんなふうに呼ばれるのは、ちょっと恥ずかしいけどね~。他のゲームじゃ"ファミリア"で通ってるんだ。よろしくね~」

 

「それじゃあ、ファミリアさん。改めて聞きたいんだけど、どうして()()()()()()()()の?」


 遠くから歩いてきたファミリアさん。何故かカニみたいに真正面を向いたまま横方向に歩いてきたんだ。

 ボクと会話している今も、常に横向き。パンイチの上にこんなことをされたんじゃ、この人の変差値もなかなかのものだ。


「ああ、それか~。これが原因なんだよね~」


 そう言って腰に下げた(この人の場合、パンツの紐にぶら下げてることになるけど、そこはあまりに気にしないことにした)剣を見せようとしてくれた。

 すると──


「ウフフフ~」


 またも背後からリカちゃんの声。

 仕方なく、再びすれ違うボク達。


 ああ、もう!こんなんじゃボクじゃなくてもみんなコミュ障になっちゃよ!


 


 3回目になって、ようやく同じ方向に歩いてればいいってことに気づいた。

 でも、ファミリアさんの場合はカニ歩きをしてるわけで、常に僕の方を向いていて……正直チョットキモイ。


 ファミリアさんが装備している剣を見せてくれた。

 なんというか、見た感じどうにもおどろおどろしい不気味なオーラを放っている。っていうか、実際に紫色の瘴気が剣先から立ち上っているようだ。


「この剣の銘は"地獄の剣"。この先のダンジョン、岬の塔にある宝箱にあったんだ~。装備すると、進もうとする方向と90度別の方向に足が進んじゃうって言う、厄介な呪いがかかった武器なんだ」

「……そんな不気味な名前の武器、どうして装備したのさ?」


「そういう"縛り"でプレイしてるからね~。防具は全て装備せず、手に入れた武器は必ず装備する。銅の剣を装備してても、うっかり敵が落したヒノキの棒を拾おうもんなら、そっちに変えなくちゃいけないんだ」


 「おまけに、呪われた装備は簡単に外せないから困っちゃってね~。ハハハ」なんて、あっけらかんとした声で言うもんだから、ボクもどう返答すればいいか分からなくなってしまう。

 思いついた言葉と言えば──


「……なんで、そんな面倒な条件でゲームしてるの?」

「普通にやるより、その方が楽しいでしょ?」


 あまりにも自然に出てきた答えだったから、ボクはそれ以上反論、と言うか質問する気にもなれなかった。

 たった数言で、この人の全てを理解できた気がしてしまったんだ。


「……なんていうか、シンプルなのか複雑なのかわかんないプレイスタイルだね」

「あはは~。よく言われるよ~。でも、意外と気に入ってるんだ」


 でしょうね。と言う言葉はぐっと飲みこんだ。

 そんなボクの様子をまじまじと眺めて、ファミリアさんは続けてこんなことを言ってきた。

 

「小柄で、整った容姿、どこかぶっきらぼうな言葉遣い……。そうか、君が噂の"8逃げ勇者"だね?盗賊親分、迷いの森を最速でクリアしたって言う、謎の凄腕プレイヤー。一か月前に失踪したって聞いたけど、こんなところで会えるとは思わなかったよ」

「……」


 「大丈夫。他の人にバラしたりしないよ」と言って、優しく肩を叩いてくれる。


「うわさに聞いた限り、君のプレイスタイルも中々のキワモノだってね。今度、一緒にプレイしてるところを見せておくれよ」

「……時間が合えばね」


 ファミリアさんは、本当にそれ以上に突っ込んだ質問をしてくることもなかった。

 連絡先を交換もしないし、次の予定の確認も無し。(この人の場合、そういう"縛り"をしてるだけなのかもだけど……)


 最後に、お近づきのしるしと言って、コーサクさんの前掛けを盗んだ盗賊の根城の場所を教えて去っていった。

 もちろん、パンイチのカニ歩きで……。


「……この世界、変わった人がいるもんだね。意外といい人なのかも……」

「いいやつなのは間違いないが、あまり拘わらない方が良いぞ。絶対に後悔するから……」


「……あ、オジサン。ようやく出てきた。どうしたのさ、急にいなくなって」

「分かってるだろ!?あいつとは昔、少し絡んだことがあって、それ以来苦手なんだよ!」


 そうは言うけど、基本的にはボクの身体なんだし、少し喋ったくらいじゃバレないと思うんだけど……。

 そう思っていたボクが、ファミリアさんの真の恐ろしさを体感するのは、もう少し先になるのであった。

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