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62話 悲しき習性

「……ようやくたどり着いた……!」


 満身創痍の状態だけど、ようやく目的の町に着くことができた。

 本当に、ここに来るだけでどれだけ苦労したことか……!


 ボクが感慨にふけっていると、


「おおーっ!ここがセロインの町か。昔来たときは全然わかんなかったけど、どことなくエスニックな雰囲気がするなー」


 もう一人のプレイヤーであるオジサンが、まるで観光客のような態度で物珍し気に周囲を見回している。

 ……まったく、誰のせいでこんなに時間がかかったと思ってるんだ。


 ボルトガの王様が探していた、幻のスパイスを栽培しているという人がいる町。

 方々街を歩き回って、ようやくこの町にたどり着いたんだ。


「……オジサン、先に言っておくけど、町の探索は後にしてよね。今日も時間が遅いんだ。これ以上寄り道されたら、また攻略が滞っちゃうんだから」

「わーったよ。まったく、最近のお前ときたら、二言目には『攻略』だの『先を急ごう』だの言いやがって。もうちょっと、このゲームの無駄に繊細で無意味に難解なマップを堪能しようという気は起こらんのかね」


「……そうやって、山脈マップを何周もさせられたせいで、今日もこんなに遅くまでゲームやる羽目になってるんだけど……!?」

「分かってないなあ。ああいう入り組んだ地形の場合、ただの行き止まりに見えるような場所に思わぬ隠しアイテムや隠し扉があったりするんだよ。それを探すのも、ゲームの醍醐味ってもんだよな?」


「……それで、何か見つけたの?」


 ボクの指摘に、さっきまで滑らかに回っていたおじさんの口がピタリと止む。


「こ、今回はたまたま運が悪かっただけだって……!」

「……隠し扉どころか、薬草の一個も落ちてなかったじゃないか……。オジサン、このゲームをクリアしたことあるんでしょ?何もないって分かってるのに、どうしてあんな無謀な探索を続けるのさ?」


「そ、そそそそ、それはだなあ……。お、お前に探索のイロハと醍醐味を教えてやるためだよ」


 明らかに挙動不審になるオジサン。


「……それなら、もう十分に骨身に染みてるんだけど……?」


 言いながら、強引に操作権を奪って町の中に入っていく。

 こんなどうしようもない人だけど、この体を自由に動かすにはオジサンの協力が不可欠なんだ。


 というよりも、どうやらこの勇者を操作する権利はオジサンが70%、ボクが30%くらいの比率らしい。

 なので、二人の意見が衝突したときはオジサンの方に決定権があるように設定されてるんだ。


 どうしてお母さんはこんな面倒な設定をボクたちのユグドラに施したんだろう?


 そりゃあ、一つの体の操作権を完全に半分に分けてしまったら、ゲーム機への入力が変なことになるからなんだろうけど……。

 だったら、ボクの方に主導権を持たせてくれてもよかったと思うんだよなあ。


「お、見ろ!あっちの宿屋の奥側、何か怪しくないか?」


 ほら、また始まった。オジサンの探索癖。

 これが始まると、全く無意味な場所を延々と調べさせられるから、時間がいくらあっても足りないんだよ。


 でも、ここ最近の経験で、僕なりにこの”発作”への対抗策はとれるようになったんだ。


 体が宿屋に向かって進む中、ボクはかろうじて動かせる目で、町の外観を一瞬でスキャンする。

 ……たぶん、あそこだ。

 

「……ちょっとまって、オジサン。探索なら、あそこが怪しい」


 視線の先には、宿屋ではなく教会の門。

 その脇に、一か所くぼんだ地形が見えていた。


「なんだ、ベン。またお前の『勘』か?しかたねえなあ。それじゃあ、先にそっちに行ってみるか」


 よし、うまくオジサンを誘導できた。

 教会の横で、調べるコマンドを使うと──


─勇者は足元を調べた。なんと、大きなメダル(30φ)を見つけた!─


「うお、本当に見つけやがったよ。最近のお前の勘、ヤバくないか?」

「……実は、学校で身に着けた『スキル』なんだ……」


 言いたくなかったけど、こうもしつこく聞かれちゃ仕方ない。ボクは正直に事情を話した。


「……よく、いじめっ子たちから逃げる時に、隠れやすそうな場所を探す癖がついて……。そのせいで、何か隠してある場所を探し当てるのが得意になったみたいなんだ……」


 ゲームの攻略情報を話す以外じゃ、郷田君たちには相変わらず追いかけられる日々なんだよね。


 っていうか、ゲームの話をしていないと、他の女子たちの『困ったなあ』の言葉に反応してしまって、そのせいで郷田君たちの嫉妬(ヘイト)が貯まるせいなんだけど……。


 そんな日々のせいで、周囲の地形を見るだけで『ここになら隠れられる!』って直感で分かるようになったんだ。

 その直感と、どうやら製作者が物を隠すセンスが一致したみたいなんだよね。


 ……まあ、そんなものかもしれないけど……


「なんだか、お前も難儀な学校生活送ってんだな。オレと違って、もっと器用にやってんのかと思ったよ」

「……同情するくらいなら、ボクに協力してよ。早くスパイスを育ててる農家さんにあって、このイベントを攻略したいんだ」


 そして、その情報が、学校での身の安全と、楽しいゲームの会話の時間をボクに提供してくれるんだ。

 ボクの説得が通じたのか、オジサンが操作権をボクに委ねてくれたのが分かった。


「確か、スパイス農家は町の南側にいるはずだ」

「……そうだろうと思った。風に乗って、そっちからピリピリする匂いが漂ってきてたから」


 香りを辿るように、道具屋の角を右に曲がる。

 するとそこには、ボクの想像を超える、とんでもないスパイス農家の姿があった。


 ──ねえ、このゲームってどうしてこんな“キワドイ”人達しかいないの?──


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