61話 8逃げ勇者のズレたモチベーション
「それで、どの先どうなったんだ!?」
「……ボルトガの王様に会ったんだ……。で、でも、会っていきなり『勇者を名乗っているようだが、儂は認めん』とか言って……めちゃくちゃ怒られた」
翌朝、ボクは昨日のゲームの話を郷田君たちに披露していた。
自分でもわかるくらいに、つたなくてたどたどしい説明。
オジサンと話してるときは平気なんだけど、ボクは基本的に人前で話すのが大の苦手なんだ。
どうしても、人に見られてるのを意識すると顔に血が上っちゃうみたいで、頭が真っ白になるんだよね……。
「そこの王様って、船を何隻も持ってるんだろ?それを譲ってくれれば、もっと遠くまで冒険できるんだよな?」
「……う、うん。そのはずなんだけど……。王様は『儂らが捜している伝説のスパイスを見つけてくれば、勇者として認めてやろう』とか言って、その場はいきなり追い返された」
「じゃあ、そのスパイスを見つけてくれば、きっと船がもらえんだよな?」
「……た、たぶん」
しどろもどろになりながら受け答えする。
こんなみっともないボクの話でも、郷田君たちは目を輝かせて一生懸命聞いてくれていた。
この時、ボクは初めて、自分の話を聞いてもらえることがこんなに嬉しいことなんだって分かった気がした……。
「お前が攻略法を教えてくれたおかげで、昨日、ついに迷いの森をクリアできたんだ。ありがとな、ベン!」
「ひょっとしてガセネタかもなんて、疑って悪かったよ」
満面の笑みを浮かべてちょっと強めに背中を叩く郷田君に、少し済まなそうな顔で詫びてくる丑山君。
昨日まで、鬼のような形相でボクを追いかけていた二人とは別人みたいだ。
なんか、不思議な気持ちだな。
「……でも、さっき話した《すり抜けバグ》は……ぜ、絶対に使わない方が良い。……あれは、本当に危険な技。……昨日、夢に出てきた」
「アッハッハッハ!馬鹿だなあ、そんなアブねえ技使うわけねえだろ!?じっと待ってりゃいいんだからな。おもしれえやつだな、お前!}
ボクの心からのアドバイスは、何故かみんなのツボに入ったらしく、揃って大笑いを始める。
よく分からないが、喜んでもらえたようで何よりだ。
「そういや、ベン。お前って今、レベルいくつくらいなんだ?」
「……58。もうすぐ59に上がると思うけど……」
何気なく呟いたボクの一言で、何故かみんなは目を剥いてその場に固まってしまっていた。
……何か、まずいことを言っただろうか?
「ま、マジかよ!?俺なんて、昨日ようやく20に上がったところなのに……。おまえ、スゲエな……!」
何か眩しいものを見るような目でボクを見つめてくる。
よく分からないが、ゲームのレベルが高いと、現実世界では尊敬の対象になるらしい。
でも、このゲームってレベル上げてもステータスがほとんど上がらないし、特に良いことなかったんだけどなあ。
森をクリアするためにお金を稼ぐ過程で勝手に上がっていっただけだし、オジサンのプレイがあまりに効率悪いせいもあって、余計な戦闘も増える一方だし……。
「……よく分からないけど、『ゲームのレベルが1上がると、現実のレベルが1下がる』って……泣きながら言われたことがあるんだけど、そんなにすごいことなのかな?」
話聞いた時のボクは、その時のオジサンの表情も相まって心底震え上がったものだけど、何故かみんなには笑い話として受け止められたみたいで、さっきにも増して大きな笑い声が巻き起こっていた。
「く、苦しい……もうやめてくれ」なんて言って、笑い転げている。
……オジサンのことを笑われているようで、少し気分が悪いけど、ボクの言葉でこんなに人が笑ってくれるなんて、これも初めての経験だった。
「そんじゃあ、俺も家に帰って続きをプレイするわ。ベン、また明日も話聞かせてくれよな」
「……う、うん!」
郷田君と、こんなふうに明日の約束を交わして下校する日が来るなんて、思わなかった。
生まれて初めて、明日も学校に行きたい、そう思えた。
だから、そのためにも、今日はもっとゲームをプレイしなくちゃ……!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……」
と、思って意気込んで帰ってきたものの……
「スゲエぞ、ベン!あの船のつくりを見てみろよ!木組みのラインが奇麗に整ってて、マジで本物の船そっくりじゃねえか!」
「……」
「それに、よく見てみたら、端っこの船だけ何故か一マス分小さくねえか?ひょっとして、何か仕掛けでもあるのかも。ちょっと周辺を128回ずつ調べて回ろうぜ!」
「……」
「それに、流石港町!潮の香りがプンプンしてくるぞ。ガキの頃は考えもしなかったけど、ボルトガってこんな活気のある街だったんだなあ!どれ、もう一周するか!?」
「……」
帰ってからプレイを再開したものの、そこから先はさっきみたいなオジサンの独壇場だった。
プレを進めようとするボクをよそに、まるで初めてゲームをプレイするみたいに目を輝かせてあちこちをしゃぶり尽くし始めたんだ。
「……オジサン。そろそろ次の町に行こう」
「なにいってんだ?まだ探索が終わってないだろ?時間経過で町民のリアクションが変化するかもしれないじゃないか」
そういって、もうかれこれ3時間以上も町の中をウロウロしてるだけ。
どうしよう、このままじゃ、明日学校にいっても何も話すことがない……!
郷田君たちと約束したのに、肝心のゲームの進展がなければ、一体どうなるのか……。
「……もう、いいでしょ?オジサン、前に一度このゲームクリアしたんだよね?だったら、わざわざ同じところをしゃぶり尽くさなくてもいいでしょ?これじゃまるで、昔のプレイした記憶を忘れたみたいじゃないか」
「ギクギクギクウ……!」
何やら大げさに慌てているオジサン。
操作権を無理やりとり戻して、ボクは急いで町の外に出た。
目指すは東の大陸。
スパイスの栽培が盛んだという東の国に行くんだ。
少しでもゲームを進めて、昨日の話の続きをみんなとするために……!
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それでは、また近々次回話が更新されると思いますが、その時はご愛読よろしくお願いします。本日はどうもありがとうございました!




