59話 失われた記憶
恒例の、主人公弱体化イベントです
「……それでオジサン。これからどうするの?」
いつも通りのベンの言葉。
だが、今までと違って口調に熱がこもっている。やっぱり、"やる気モード"は継続中らしい。
今オレ達は関所を抜けた、北の平原の入り口に立っている。
関所では、エルフの里の息がかかった門番がいて、エルフに関係ない者をことごとく通せんぼしている。
迷いの森で手に入れた『ゆめみるサファイヤ』を見せることで関所を抜けた訳だが、ここから先は今まで以上に広大なマップが広がっている。
今まではいわばチュートリアルみたいなもんで、ほぼ一直線の攻略ルートだったんだが、これからは一転して自由度が増すことになる。
複数のイベントが同時並行して進行するため、色々な町に出たり入ったりする羽目になるんだ。
そう……だから、これから先こそオレの知識が必要になってくる局面なんだ。
「……」
広大な平原を見渡して、オレはしばらくの間目を閉じる。
「……オジサン?」
その場から微動だにしないオレに、心配そうに声をかけてくるベン。
オレは、聞こえなかったふりをして草原を流れる風の音に身を委ねていた。
「……」
ふう……。ゲームの中とは思えないほど、心地いい景色だぜ……。
さて、これから先のイベントは……と……。
「……ねえ、オジサン。聞こえてるよね?」
「……」
しつこく声をかけてくるベンを、ひたすら無視する。
そうそう……ここから先は……
「……」
ええと、ここから先は……
「……」
……ここから……先は……?
「……」
やっべええええええ!?
記憶が飛んでる!!!
冷汗が滝のように流れる。まさか、このオレが一度クリアしたゲームのことを忘れるなんてことがあるはずが……!
いや、でも……どうしてもこの先の展開が思い出せない!
そんな馬鹿な!?
とはいっても、もう20年も前のゲームだし、オレももうそろそろいい歳になって記憶力も危うくなってるところもあるし、そういうこともあるのかもな。
しっかし、よりにもよってこのゲームの記憶を飛ばすなんてことがあるとは思わなかったぜ……。
「……ねえ、オジサン!」
痺れを切らしたのか、ベンの声が荒くなる。
「お、おお。悪い悪い、ちょっと考え事しててな」
「……ひょっとして、ここから先の攻略情報を忘れた、とかじゃないよね?」
ギクギクギクゥ!こいつ、本当に勘の鋭いガキだな!
「そ、そんなわけないだろ!?ことゲームのことに関して言えば、俺の記憶力は絶対だからな!」
「……じゃあ、早く行こうよ」
「わ、分かってるって。さあ、行き先はこっちだ!」
言いながら、適当に北に向かって歩き出す。
こういう時は、基本に立ち返ってマッピングから始めるに限る。
オレのマッピングのやり方は単純だ。とにかくまっすぐ歩いて、マップの端に突き当たったら、そこから外周を埋めるように探索するんだ。
どのみちマップの全域を埋めるつもりで歩くんだから、その方が結果的に効率がいいんだよな。
お、なんだか新しいゲームをプレイしてるような気分になってきたぞ。ちょっと、ワクワクしている俺ガイル。
それに、プレイしていけばそのうち当時の記憶も思い出すだろ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おお、ようやく町に着いたな」
「……」
入口のNPCに話しかけると、ここはボルドガの町と言うらしい。
そういえば、そんな名前の町があったような気がしてきたぜ。
ほらな?やっぱりオレの記憶力も捨てたもんじゃないだろ?
え?この町に到着するまでどれくらい時間がかかったのかって?
そんなこと、聞くだけ野暮ってもんだ。
「……もう、夜の10時だよ?」
げんなりとした、というか、心底絶望したようなベンの声。
確かに、マッピングに夢中になってマップの端から端まで舐めるように歩き回ったからなあ。
「そろそろ子どもは寝る時間だな。今日は、これくらいにしとくか」
夏休みの間は朝から晩までプレイできたが、今はそうじゃない。
成長期の子供には十分な睡眠が必要なんだ。夏休み期間でも、夜遅くまでゲームなんてしなかったからな。
「……まだ、大丈夫。もう少し、攻略を進めようよ」
「お前、マジか?」
ベンの言葉に、オレは目を剝いた。
本当にどうしちまったんだ?今日のベンは、ちょっとおかしいぞ。
「なあ、ベン。お前何かあったのか?いくら何でも変わり過ぎだろ。一か月前でも、ここまでゲームにのめり込むことなんてなかったのに」
「……」
「まさか、クリア報酬の賞金が欲しくなったとか?」
「……そんなものには興味ない」
だよな。コイツの性格は理解してるつもりだ。金に執着するような奴じゃない。
「じゃあ、どうして急にこんなにやる気出してんだよ?」
「……」
繰り返すオレの問いに、ベンがしばらく沈黙する。
頭の回転も速くて、いつも適切で素早い返事を寄越してきたコイツが、ここまで考えこむのは本当に珍しい。
心底悩んだ挙句、ベンがようやく口を開いた。
「……ボク、オジサンみたいなゲーマーになりたいんだ」
「見え見えの嘘をつくんじゃないっ!!」
ていうか、お前。オレのことおちょくってるだろ!
なんだか怒るのも、問い詰めるのも馬鹿馬鹿しくなってきてオレは肩を落とした。
「はあ……もういいや。なんだか知らんが、そこまで言いたくないんならもう聞かね」
「……ゴメン。でも、このゲームをプレイしたいってのは本当」
ああ、それだけははっきりと分かってるさ。だから、別にそんなに気にしてはいないんだ。
「そんじゃ、もう少しだけ攻略を進めるか。出血サービスだ。本当なら町の構造を把握するためにワンオペローリング作戦を始めるところなんだが、それは明日に取っておいてやる」
「……できれば、その偏執的なしゃぶり尽くしプレイは明日以降も遠慮したいんだけど……。とにかく、ありがとう。それで、どこに向かうの?」
言われる前に、オレの足は目的地に向かって歩き出していた。
夜更かしは本当に子供には良くない。さっさとイベントを踏んでベンを寝せてやらないとな。
それに、町の中の景色を見ていると徐々に記憶が戻ってきた。
俯瞰で見ている昔のドット絵のゲーム画面と、一人称視点で見る超リアルな今のプレイ画面のギャップのせいで、なかなか昔の記憶と結びつかなかったが、それでもどうにかこの町のイベントを思い出せていた。
目指すのは町の奥にある、ひと際大きな建物。
少し進むだけで、視界に広大な敷地が視野に入ってくる。
「この町のイベントの目標は、アレを手に入れることなんだ」
視線の先にある、木造のオブジェクトを指さしながらオレはこう続けた。
「イベント名は"造船王の依頼"。ボルトガの王様の依頼を聞いて、船を手に入れるんだよ」
お互いに隠し事をしながらゲーム攻略を進めていくでこぼこコンビの行く末が気になった方は、"ブックマーク"して今後公開されるであろう、二人の熱い友情タッグイベントをお待ちください。
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