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58話 ファミリアの猛威

 久しぶりにドルクエ……ていうか、ゲームの世界に戻ってきたわけだが、この一か月で何かあったのか?


 森の町の教会でセーブしてそのまま一か月ほど放置してたはずだから、ここが森の町だってことは間違いないはずだ。

 しかし……いや、これは……


 オレが町の光景に絶句していると、ベンがカラッカラに乾いた声でオレに問いかけてきた。


「……ねえ、オジサン。ひょっとして、いつの間にか呪いでもかけられたのかな?それとも、ボクの目がおかしいだけ?」

「安心しろ、ベン。お前の目は正常だ……と思う。少なくとも、俺にもお前と同じものが見えているはず……だから……」


 しりすぼみに声が小さくなるのも仕方ないってもんだ。

 それくらいに、オレ達が今目にしている現象は不可解極まりないものだったからな。


「と、とりあえず話しかけてみよう。ほら、そこを歩いてる若手の勇者なら、まだマシじゃないか?」

「……ちょっとキツイ。最近人に話しかけるのには慣れたつもりだったけど、あんな()()()相手に声をかける勇気は、まだない……」


 ベンの言うことももっともだ。オレだって、こんな相手に声をかける勇気は……ない!

 でも、仕方ないだろ!?


 いったい何があったのか知らないが、町を歩いている勇者たちの姿が、皆揃いも揃って()()()()になってるんだから!


 男ならまだいい……っていうか、女勇者まで下着一枚はヤバいだろ!?

 “危ない水着”とかの比じゃないって!教育上、よくないぞ!


「正論を言うんじゃないっ!勇者たるもの、勇気が肝心。さあ行け!しかも、小学生には目の毒だから、目を開けずに進むんだ!」

「……そこまで言うなら、オジサンがやってよ。操作権は渡すから。もう、迷いの森はクリアしたんだし、ボク一人でプレイする必要もないはずだよね?」


 こ、こいつめ……!

 いつの間にか口がうまくなりやがって。


「ふ……この一か月で、ずいぶん成長したようだな。オジサン、嬉しいぞ。だがな、ベン。この一か月で成長したのは、お前だけじゃないってことを教えてやる」


 言いながら、全力で走り出す。


「……オジサン、そっちは村の出口。誰もいないよ?」

「この一か月でなあ!オレにはリアルに人とコミュニケーションをとることなんか、不可能だってはっきり分かったんだよ!」


「……それって、全っ然成長してない……!

「自分を知るってことも、成長の一つだ!変えられないものを見抜ける賢さを手に入れた、オレを褒めてみろ!」


「……二ーバーの祈りのことを言ってるんだろうけど、やっぱりそれは成長じゃなくて、単なる自覚だよね?」


 ああ、うるさいウルサイ五月蝿い!

 無慈悲なツッコミに耳をふさぎながら町を歩いていると、ふいに誰かにぶつかった。


 ブブー


 久しぶりのエラー音が、目の前に誰かいることを教えてくれていた。

 恐る恐る目を開けると、そこには幸運にも見知った顔があった。


「おい、一人で何ぶつくさ言ってんだよ。目も耳も塞いで歩いてたら、さすがに危ない奴だと思われるぞ」


 コイツは、たしかカイエンとかいうAランクプレイヤー。

 よかった、初対面の奴じゃなければ、多少は話せるぞ……


「って、あんたまで半裸ってのはどういうことだよ!?あんたらの方がよっぽど危ない奴じゃねえか!」


 挙句、カイエンの奴はパンツじゃなくてフンドシ一枚でやんの。どういう趣味してんだよ、あんた。

 オレの指摘にも、カイエンは当たり前のような顔をしてフンドシをつまんで見せた。


 やめろって、変なものが見えてBANされても知らんぞ!


「ああ、この格好のことか。あんた、ひょっとしてここに来るのは本当に一か月ぶりか?」


 黙って頷くと、納得したように何度も頷き返してきた。


「事情も知らないんじゃ、無理もない。最近、ネットに攻略情報が一気に拡散してな。そのせいでみんなこの姿になったってわけさ」

「……?」


 ちょっと、何言ってるかわかんないんですけど。


「いわゆる”全逃げ戦法”だ。防具を全部捨てて、逃走用のアイテムを山ほど抱えて、ひたすら逃げまくる。森の仕組みは未だにはっきりとはしてないが、ダンジョンを探索するだけならその方が効率的って、みんなやり始めたんだよ」


 また、随分とキワまったプレイスタイルが浸透しちまったなあ。誰だよ、こんなキワキワのキワモノプレイを拡散させた奴は……。

 頭を抱えるオレの脳裏に、一人のプレイヤーの名前が不意に浮かんだ。


「まさか、奴がこのゲームの攻略を始めたのか……!?」


 カイエンは、オレの言葉に何とも複雑な苦笑いを浮かべた。


「やっぱり、あんたも知ってたか。ご名答……ファミリアが来襲したのさ」

「……はあ」


 オレはたっぷりと息を吸い込み、深々とため息を吐き出した。


「……オジサン、誰?その人?」

「後で説明してやる。今はちょっと黙ってな」


 小声で尋ねてくるベンを抑え込んで、カイエンに向き直る。


「みんながやり始めたってことは、きっとファミリアやつも森を抜けたんだろう?」

「そうでもなけりゃ、誰もこんなプレイしたがるわけなかろうが!」


 まだ慣れてないのか、少し顔を赤らめて声を張る。

 あいつのことだから、独特の勘で森の仕組みに気づいたんだろうが……。


「確か、この次のマップはかなり広大だから、偶然に再会する可能性は低いだろうけど……」

「その口ぶり。やっぱり、アンタも相当『古い』な。ファミリアと知り合いなのか?」


 探りを入れようとするカイエンに適当に手を振ってごまかす。


「昔、ちょっと絡んだことがあるだけだ。できれば、二度と会いたくねえし……」

「……オジサン、早く行こうよ。ボク、早くこの先をプレイしたいんだ」


 謎のやる気アピールをしてくるベン。

 どうしたんだ?ジェシーとマダムを再会させたし、とりあえずチエが無事だったのも分かったんだから、昔みたいに”やる気なしモード”に戻ったと思ったのに。


「立ち話が長くなったな。それじゃ、オレはもう行くよ」

「ちょっと待て。アンタには聞きたいことがあったんだ。今まで森を抜けた奴の話は何度も聞いた。しかし、娘のジェシーを連れて帰ったのはアンタだけだ。いったい、どうやったんだ?」


 強引に話を進めようとするカイエン。

 しかし、ヤル気モードのベンのイライラも限界に来ている。オレも、面識の薄い相手と話し続けるのにも限界がある。


「その様子だと、普通のイベントはクリアして"夢見るサファイヤ"は手に入れたんだろ?だったら、そのまま先に進めばいいじゃないか」

「俺だってそうしたかったさ。だが、アンタがジェシーを連れてる姿を見ちまった以上はそうはいかん。もしも、サファイヤを受け取ることが"ハズレルート"だった場合、取り返しがつかんからな」


 なるほど、さすがAランクプレイヤーだ。RPGのシナリオをよく理解している。

 カイエンは、ジェシー救出のフラグが全クリの必須イベントではないかと疑ってるんだ。


 もしもそうだった場合、イベントを一からやり直す羽目になり、大幅なタイムロスになる。

 その辺を警戒してるんだろうが……このオッサン、見かけによらず用心深いな……


「そんな心配は無用だ。サファイヤがあればこの先で詰むことはないし、ジェシーを見つけたところで、ちょっとだけ心温まる残虐ファイトが見れるだけだ」


 それだけ告げると、オレは踵を返し村の外に向かう。


「でも、どうしても気になるってんなら、そいつは自分の目で確かめるんだな。ゲームってのは、自分で攻略法を探りながら進めるから面白いんだぜ?」




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