53話 新勇者 無理ゲー攻略に乗り出す
まさか、本当に一か月更新が滞るとは思わなかったでしょう?
私も同じです
その日、eスポーツ業界にまたも激震が走った。
長い間沈黙を守ってきた"彼"が、ドルクエ攻略に乗り出したとの噂が流れたのだ。
業界では"彼"を知らなければモグリだ、と断言する者もいる。
ただし、それは『子羊の脳を食べたことのない人間に、美食家を名乗る資格はない』と言い切るほどの暴論でもあるのだが。
業界での"彼"の位置づけは、言ってしまえばBランクギルドの1プレイヤーに過ぎない。
戦績だけ挙げてみれば、"彼"に影すら踏ませないレベルのプレイヤーは、まだ大勢いる。
だが、"彼"の最大の魅力は、その戦績では到底表現しきれない。
かといって、フォロワー数においてもトップレベルと呼べるものではない。100万人を超えればAランク、と呼ばれるeスポーツ業界において、せいぜい30万人程度である。
しかし、業界で"彼"の名を知らぬ者はほとんどいない。
それは、"彼"の、あまりにも異質すぎるプレイスタイルに由来する。
“彼”のスタイルは、一部の熱狂的なファンを虜にして止まない。
それを象徴するように、彼のフォロワーの、1日の平均視聴時間は約12時間。
まるでなにかの中毒であるかのように、ひたすらに”彼”のプレイを見続けてしまうのだ。
それは、”彼”自身も同じようで、一度プレイを始めると何かにとりつかれたようにゲームに没頭してしまう。
"彼"の名は『ファミリア』
気の抜けてしまいそうな名前であるが、その名を聞くものは、皆等しくニンニク背油ラーメンを食べた後のような表情を浮かべる。
「お~!ようやく次の町にたどり着いたぞ~」
名前にたがわず、声まで腑抜けきったような暢気なものである。
"盗賊親分"を撃破して、森の町にたどり着いたファミリアは、狭いダンジョン内で凝り固まった体をほぐすように、大きく背伸びをして見せた。
その姿に、すぐに周囲の勇者と、それについているビュワー達がざわめきだす。
「おい、あれ見ろよ……」
「間違いない。ファミリアだ……!」
「他人の空似じゃないのか?」
「バカ、よく見ろ。あんな格好でプレイする奴が、他にいるかよ?」
周囲を囲まれ、遠巻きに監視されていても一向に気にしない様子で、町をぐるりと見て回る。
ふいに視線が他の勇者とぶつかったりもするが、それが女性プレイヤーだったので質が悪い。
キャー!と声を上げ、頬を赤らめてその場から走り去ってしまった。
「う~ん。噂では、この町の脇にある"迷いの森"ってところで、みんな苦戦してるみたいなんだよね~。クリアした人もそれなりにいるみたいだけど、みんな口をそろえて『なんでたどり着いたのか分からない』って言うばかり。まあ、こういうのは自分で行って確かめないとね~」
実況プレイ主にありがちな独り言をつぶやきながら、町の外に向かって歩き出す。
まるでモーセのように、取り巻き達が道を譲る。
「しかし、今度はとんでもないスタイルでプレイし始めやがったな」
「こんなことやってるから、いつまでたってもフォロワーも増えねえし、ランクも上がんねえんだよ」
ぼそぼそと呟く取り巻きの勇者たち。
ファミリアは、暢気に垂れ下がった眼をそちらに向ける。
「聞こえてるよ~。いいじゃないか、僕はこのスタイルが好きなんだし。なんだかんだで、このゲームにはこれが一番合ってるんだよね~」
触らぬ神に、と言わんばかりに取り巻き達はそそくさと退散していった。
「さ~て、いっちょやりますか~」
言いながら、朝日に透かすように右の掌を上げる。
そして、左の掌を腰に当ててパンツのゴムをパチンとはじく。
一切防具を装備しない、パンツ一枚の姿で、ファミリアは楽し気に微笑むのだった。
ファミリア=セイクリッド──"鬼の縛りプレイ"で名を馳せる、キワモノ中のキワモノプレイヤーである。




