50話 8逃げ勇者 学校に行く 中編
「……今度は制服隠しか……」
3時限目の体育の授業が終わって、教室に戻ってくると制服がどこかに消えていた。
これで、通算50回目の遺失物イジメだ。まあ、何度受けても慣れたりはしないけど……。
「どうしたの、墨田くん?」
「……別に、何でもない」
隣の教室で着替えを終わらせた女子たちが、教室に入ってくる。
心配そうな顔で玉城さんが僕の机にやってきてくれる。
まあ、他の生徒はみんな着替え終わって、ボクだけ体操着のままなんだから、気になるよね……
「ひょっとして、また隠されたの!?」
大きな目を少し釣り上げて教室の中を見渡す玉城さん。
聡明な彼女は、もちろんボクがクラスでイジメにあっていることは承知している。
好意を持っている彼女に嫌われたくないのは"戦士タイプ"も"魔導士タイプ"も同じらしく、なるべくこっそりと仕掛けてくるんだけど、こうも露骨だとばれることもある。
「一緒に探してあげる!まずは体育館に行ってみよう!」
真剣な表情でそう提案する玉城さん。
そう、彼女は本当に良い娘なんだ。
でも、玉城さんのこの態度が、かえってみんなの嫉妬をボクに集めてるのも事実なんだよね。それを玉城さんが自覚してないのも、また問題をややこしくしてる要因なんだ。
こういう場合は、大抵は昼休みが終わるタイミングや、放課後なんかに水びだしになった制服が机に置かれてることが多い。
だから、無理に探す必要はないと言えばないんだけど……
「……いいよ、ボクなんかのために玉城さんが構う必要はないって」
「そんなこと言わないで!私、墨田くんが放っておけないの!」
ああ、なんてストレートで純粋なんだろう……。
完全な闇属性のボクには、玉城さんのまっすぐな心が眩しいや。
そこまで気にかけてくれたんなら、たまには自分で探しに行ってみるのも悪くないか……
「……じゃあ、ちょっと探してみようか」
「……ウン!」
頬を緩めて玉城さんがボクの隣で、一生懸命に探し物を始めてくれた。
──ええと、探し物をする時はどうするんだっけ?
体に染みついた動作を、無意識の内に再現する。
「……」
ボクは机の周囲を隈なく見て回る。1マスずつ、丁寧に足元を探索する。
そして、ボクはその痕跡を見つけた。
痕跡をたどり、教室を横切る。いつの間にか、ボクの席の対角線上にある横井君の席の前にいた。
「なんだよ、下痢ベン。オレに何の用だよ?間抜けなやつだな、また制服を無くしたのか?僕は一緒に探してやったりはしないからな!?」
「……」
目線をぶつけてくる横井君。でも、探索中に他人の視線を気にしていては"勇者"は務まらない。
いつの間にか、脳内にメッセージが浮かんでいた。
─ベンは、横井君の机の中を調べた。なんと、"盗まれた制服"を見つけた!─
「お、おい!なにすんだよ!?」
「……はっ!?」
気が付けば、横井君の机の中を勝手に漁って、ひっくり返して、自分の制服を手に握りしめていた。
しまった!またやらかした!まるで、ゲームのバグが僕に入り込んだみたいだ……!
ゲームでの町の探索する時なんか、目の前に家主がいても平気でタンスの中を掻きまわしてたから、つい……!
「こいつ……勝手に人の机をひっくり返すなんて、どうしてくれるんだよ?」
「それは、こっちの台詞でしょ!?」
ボクの胸ぐらをつかみかけた横井君を、玉城さんが押しとどめる。
その目は、さっきよりも鋭角に吊り上がり、まっすぐに横井君を見据えていた。
「どうして、墨田くんの制服が、あなたの机の中に入ってるのよ!?」
「し、知らないよ、そんなこと……!誰かが勝手に入れたんだろ?」
何も知らない、と言う態度をとる横井君。
でも、探索で鍛えたボクの眼はごまかせない。
「……さっきの体育の時間、横井君は途中でトイレで抜け出したよね。そして、ボクの机から横井君の席まで真直ぐに足跡が伸びている。この二つの事実は、君が盗賊であることを示している」
言いながら、最初のダンジョンイベントのことを思い出してきた。
盗賊の洞窟で、何度もアイテムを盗まれては取りに戻らされたあのイベント……。
そう、いつの間にか、ボクは盗賊が大嫌いになっていたんだ。
「横井君、墨田くんに謝りなさい!」
「う……うわあああああああん」
玉城さんに詰め寄られ、涙を流しながら横井君は教室を逃げ出していった。
「……そうそう。盗賊はすぐ戦闘から逃げ出すんだ……!本当にイライラする奴だった」
小声でつぶやいて、制服を握りしめる。
とにかく、装備が手元に戻って何よりだ……。
「あれだけきつく言っておけば、もうやらないでしょ。先生には内緒にしておいてあげましょ。墨田くんも、それでいい?」
「……ウン」
本当に、玉城さんは人ができている。
みんなに好かれるはずだよ。
「それにしても、墨田くん。よくこんな薄い足跡に気づけたね。私なんか、全然気づかなかったよ」
「……探索の基本は、足元を調べること。一度だけじゃなく、何度も調べるのを徹底して叩き込まれたからね……」
オジサンがゲームを通してボクに教えてくれたことだ。
まさか、こんなところで役に立つとは思わなかった。
……ちょっとだけ、オジサンに感謝してあげようかな……
そう思っていた矢先、チャイムが鳴る。
そうだ、もうすぐ次の授業だ。急いで装備を変えないと……!
またしても、脳内でメッセージが再生される。
─勇者は"盗まれた制服"を装備した─
「きゃああっ!墨田くん、いきなりどうしたの!!」
「……はっ!?」
玉城さんの悲鳴で、またも我に返る。
しまった!またやらかした!
しかも、今度は特大のバグだ!!
気が付けば、体操着を脱いで半裸になっているボク。
いや、手に入れた装備はすぐに身につけるっていう癖がついてたのと、ゲームの世界には更衣室なんかないから、いつも街中で着替えてたんで、つい……
「意外と墨田くんって筋肉あるんだ……ちょっと触ってみてもいい……って、私なに言ってるの!?」
混乱魔法"メガパニ"でもかけられたように玉城さんは不思議な踊りを踊っていた。
両手で目を覆いながらも、指の隙間からこっちをしっかり見てるし……
「……って、急いで着替えなきゃ!」
クラス中の女子から悲鳴が上がる中、
ボクは心の中で、さっきオジサンに送った感謝の気持ちを全力でリセットするのだった。
こう言うのも、"ゲーム脳"って言うんですかね?




