表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/69

5話 オッサンゲーマー 追放される

お待たせしました(?)

ようやく、追放展開です。前回から、少し過去にさかのぼります


『勇者ツトムよ、よく来たな。明日からのお主の新しい職業を教えてしんぜよう。"遊び人"、つまり無職だ!』


 心底バカにするような突然の解雇通知に呼応するように、モニターに並んでいた無数のウィンドウから一斉に笑い声が聞こえてくる。

 オレには理解できなかったが、他のメンバーにとっては今の一言がさぞ愉快に感じられたらしい。


「……意味が分からないんだが?」


 咄嗟に出たのは、心の中と正反対の言葉だった。

 オレには、カイルが意味することがはっきりと理解できていたからだ。


 カイル……オレが所属するチーム『獅子の牙』の運営者であり、トップクラスのEスポーツプレイヤー。

 チャット越しにしか会話したことがなく、顔も見たことのなかったが、今の俺にはカイルがどんな表情をしているのか手に取るようにわかった。


 みんなに聞こえるように、大げさなため息をついた後、心底憐れむような声で"解雇理由"をつらつらと並べ立てる。


『なあツトム。みんなの前でそんな辛いことを言わされる俺の身にもなってくれ。これじゃ、俺が理不尽で我儘な理由でお前をクビにしたみたいに思われるだろ?』

『……クスクス』


 小馬鹿にするようなその物言い。つられて笑いだすメンバー達。

 正確な年齢は分からないが、全員がオレより一回り近く若いだろう。


 まったく、社会経験のない若造が偉そうに……。

 いや、オレも就職したことないから同じなんだけどさ……。


『俺の口から言うのもなんだから、自分で分からせてやるよ。お前の、ここ半年の戦績を言ってみろ』

「……」


『もしもーし、聞こえませんでしたか?ひょっとして、もう難聴のお歳になってしまったんですかぁ?』

「……10戦、0勝……」


『それが理由だよ。勝てないゲーマーは、この『獅子の牙』には必要ない。先月、念願のトップリーグに昇格した俺達の戦績に、ダントツで泥を塗りたくってくれたのが誰だか、分かるよな?』


「……勝つだけがゲーマーの仕事じゃない。魅せるプレイで観客を呼び、スポンサーを喜ばせるのだって立派なプレイスタイルだ」


『魅せるプレイ?』

「そうだ!誰よりも深くゲームを遊びつくし、誰も気づいていない新しい楽しみ方を提供するのも、プロのゲーマーとしての価値だろ?」


 必死に自分に言い聞かせるような主張も、カイルはまたも深い嘆息で軽く受け流す。


『俺が一番問題にしてるのは、そこなんだよ!お前のその古臭いプレイスタイル!時代遅れもいいところだ』

「……」


 カイルの言葉に、オレは何も言い返せずにいた。

 きつく握った右拳が、机の上で虚しく震える。


『さっき言っただろ?10戦0勝って戦績そのものが問題だってな。半年でたった10個のゲームしかプレイできない奴には、観客を楽しませるプレイなんてできねえんだよ』

「……一つ一つのゲームを大切にしたい観客だっているはずだ……」


 声まで震えだしてしまった。モニタの向こうの連中には伝わっているだろう。

 きっと、余計に喜ばせてしまうだけだろうが……。


『さっきから、どうしてマイノリティの観客相手の話をしてんだ?俺達がターゲットにしてる大多数の観客は、最新のゲームを最速で攻略していく、そんなプレイヤーを求めてんだ!『ユグドラ』が普及してから、年間何本のゲームが世に出回ってると思う!?大事なのは効率と回転数だ。それができなけりゃ、プロのゲーマーとしての価値はねえんだよ』


 ギルド内ではカメラをオンにすることは基本的にない。だから、オレ達はメンバーの顔を一度も見たことがないままに一緒にゲームをプレイしてきた。

 そして、今日ほどその事実に感謝する日はなかっただろう。


 なぜなら、PCモニタの前で悔し涙を流す無様な姿を晒すことがなくて済んだんだから……。


「それでも……オレは、ゲームが好きなんだ。そして、オレが好きになったゲームと、その楽しみ方を……みんなにも一緒に楽しんでほしいんだ」


『そういうのは、勝手に自分で実況板でも立ててやってろ。うちにはそんな非効率なプレイヤーは要らねえ。最古参だから今まで大目に見てきたが、それも今日限りだ』


 気が付けば、会議の参加者はカイル一人になっていた。

 他のメンバーは、思い思いの別れの言葉をチャットに遺して去っていた。


『(_´Д`)ノ~~オツカレーー』

『バイバーイ』

『元気でねー』


 ……これが、数年間一緒に戦ってきたチームメンバーへの別れの言葉かよ……!

 うなだれ、机に涙のしずくを落としているオレに、カイルが最後の言葉を投げつけてきた。


『あばよ、"ミスターDDT"……プッ……アッハハハハハハ!』


 嘲笑を残して途切れる音声。

 モニターの前には、全てを無くした、無残なオッサンゲーマーの姿だけが取り残された。



 おいカイル!ちょっと成績が振るわないくらいで最古参のメンバーを解雇するなんてひどいじゃないか!と思われた方は『お気に入り』登録して、やがて来るであろう、彼のざまあ展開をお待ちください。

 それにしてもツトム!ちょっと馬鹿にされたくらいで涙流すなんて情けないぞ!と思われた方は、叱咤激励の『評価☆』をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ