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49話 8逃げ勇者 学校に行く 前編

今回は、珍しくベンの一人称です

8逃げ勇者の無自覚無双がはじまるぅ!!(嘘

「……詰んだ」


 どうすればいいのか分からず、ボクは茫然と校門の前に立ち尽くしていた。


 ええと……最後に学校に行ったのって何時だったっけ?


 上履きがごみ箱に捨てられてた日?

 給食にガラスの破片が混ぜられてた日?

 それとも、机の中にカラスの死体が置かれてた日だっけ?


「……よく覚えてないなあ」

 

 不思議なもんだ。オジサンにもよく言われるけど、ボクの記憶力って結構すごいと思ってたのに、こんな簡単なことも忘れちゃうんだ。


 そういえば、母さんに事情を説明した日のことは覚えてるな。

 「嫌なことは、さっさと忘れるに限る」って言ってたっけ。


 「でも、できることなら学校には行っときなさい」とも言われたような……。


 まったく、オジサンも母さんも、二人して同じことばかり言ってくるんだから。


「……やっぱり、行きたくないかも……」


 なかなか勇気が絞り出せずに門の前でもじもじしてるボクに、誰かが背後から声をかけた。


「あれ、墨田くん?やっぱり、墨田くんだ!」


 見覚えのある顔だな。間違いない、クラスメートだ。

 名前は確か……


「……久しぶり、玉城たまきさん」


 玉城唯(たまき ゆい)さん。ボクのクラスの委員長だった娘だ。

 『だった』ってのは、ボクが通ってたのは一学期で、今学期も委員長かは知らない、ってこと。


 教室の中じゃ、いつも彼女の周りには人だかりができてたし、きっと今期も続投だろうな。


「よかった!学校に来てくれたんだ。もう来ないんじゃないかって、心配してたの。本当に良かったあ!」


 一緒に登校していた4人の中から抜け出して、まるでタックルするかのように抱き着いてきた。


 そうそう、この娘、こんな娘だったっけ。

 昔から、やたらと僕に構ってくるんだよな。

 

 玉城さんに置いてけぼりにされた背の高い男子生徒が、ものすごい目で僕を睨んでるよ……。

 アイツも確か同じクラスだったっけ。


「あれ、墨田くん。ちょっと雰囲気変わった?なんだか、少し落ち着いたっていうか……逞しくなった気がする」

「……そんなことないと思うけど……」


 だって、夏休みの間中、ずっと家の中でゲームしてただけだしね。

 日焼けする肌質じゃないから、外に出てたって分かんないだろうし……。


「……それより玉城さん、そろそろ腕を離そうよ」

「だーめ!委員長として、墨田くんを教室まで送り届ける義務があるのです!」


 そう言って、ボクの腕をグイグイと引っ張っていく。

 周囲の視線が痛い。特に男子生徒の目線が、ビシビシ刺さる。


 この感覚、数か月前を思い出してきた……。

 目立つ外見と、無口なこともあって、転校してすぐにクラスで浮きまくっていたボクに、最初に声をかけてくれたのが玉城さんだった。

 

 それはそれでありがたいことだったんだけど、玉城さんに好意を寄せている男子からすれば、ボクは面白くない存在だったらしい。

 玉城さんの場合、その人数がとても多くて──確か、ぜんぶで57人だっけ──ボクは、結果的に彼らの標的にされることになったんだ。


「……また、同じ目に遭うのかな……?」


 ピッタリと横に張り付いてくる玉城さんに聞こえないように、ボクは小声でそう呟くしかなかった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「おう、下痢ベン。てっきり転向したかと思ったのに、性懲りもなく学校に顔出すとは良い度胸じゃねえか!」

「……やっぱり」


 予想通りの展開に、ボクはまたも小声で独り言をつぶやいた。


 1時間目の授業が終わると、すぐに今朝の男子が僕のところにやってきた。

 背の高い、体格のよい男子生徒。名前は、郷田光(ごうだひかり)くんだっけ……。


 あ、さっきの『下痢ベン』ってのはボクのあだ名。

 一回もお腹を下したことなんてないのに、いつの間にかこんなふうに呼ばれてたんだよ。

 

 郷田くんは机越しに、ボクを睨みつけながら話を続ける。


「しかも、初日から玉城とふたりで通学なんて、うらやま──じゃなくって、生意気なんだよ!」


 ボクをイジメてた男子生徒は、さっきも言った通り全部で57人。

 その中でも、イジメのタイプが2つのジャンルに大別されてた。


 一つは"魔導士タイプ"。最初に言った、靴を隠したりしてボクのMPを削りにくる人達のこと。こっちのタイプが大多数で、確か49人がこの型に当てはまってた。

 そして、もう一つが郷田君が属する"戦士タイプ"。見て分かる通り、直接的にボクのHPに打撃を与えるタイプ。


 今回も、今にも机を蹴り飛ばしてボクを連れ去ろうっていう気が満々に見える。

 仕方ない。机の中身を拾う羽目になる前に、せめて話をして誤解を解かないと……


──ええと、人と話す時はどうするんだっけ?


 体に染みついた動作を、無意識の内に再現する。

 すると……


「……郷田君、何か用?」

「っ!?」


 ()()()()()ボクに、何故か郷田君が驚いたように顔をひきつらせた。


「……だから、何か用なんでしょ?言ってよ」

「おま……っ!ちょっと近すぎるだろ……!」


 焦って距離を開ける郷田君。

 そして、そのセリフで、ようやくボクも我に返る。


 ……ゲームの癖がすっかり染み込んで、いつの間にか()()()()に近づいて喋ってた!!!


「この俺に、こんな至近距離でガンを飛ばしてくるとは……いつの間にそんな根性身につけたんだよ……!」


 何故か好敵手を見るような、少しうれしそうな目で郷田君。


 いや、これは町の人に話しかけるための基本テクニックなんだ、とは説明するわけにもいかないよね……。


「その度胸に免じて、今回は引き下がってやるが、また玉城にちょっかい出したら、俺が許さねえからな」

「……そんなに言うなら、自分で玉城さんを引き留めておけばいいのに」


 思わず零れたボクの本音は、幸いにも郷田君には届いてなかったみたいだ。

 ああ、良かった……


 でも、1時間目が終わってこれじゃあ、今日一日が思いやられるや……





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