48話 夢の国 後編
「……詰んだ」
突如始まった遊園地を舞台にしたかくれんぼ。
閉園までに遊園地のどこかに隠れたベンを探しだせ!
しかし、開始1時間も経たずにオレはこのセリフを呟く羽目になった。
「いや、だってさ。20年前と同じ展開なんだもん……」
この遊園地は、そもそもそんなに広くない。
大人の足なら、10分もあれば一周できる。
そして、子供が隠れられる場所もそんなに多くはない。
アトラクションは動き続けているわけだから、コーヒーカップの中に隠れたりすることはできない。
植え込みはあるが、うっそうとしてるわけじゃないから、隠れていたら遠目にもわかる。
トイレも見て回ったが、そこにもいない。
もちろん探したのは男子トイレだからな!?昔、チエに「女子トイレにいたんだろ!?」って確認したんだが、ぶん殴られた挙句「ハズレ!」って言われたし……。
「しかも、昔と違って人も少ないから、見通しもいいし……。本当に、どこに行っちまったんだ?」
このようすだと、ベンの奴、本当にあの時のチエと同じ場所を見つけて、そこに隠れたみたいだ。
さすが親子、といったところか。
天才が考えつくことは、凡人のオレには理解できないってことかよ。
もうすぐ閉園時間だ。
さっきから何度も園内放送が鳴っているが、その中に閉園時間が近づいていることを知らせるものも含まれていた。
「まったく、今度も負けるのかよ?親子二代にわたって、しかも同じネタで負けるとか、屈辱すぎる……!」
いや、まだまだ!
きっと、探してない場所がどこかにあるはずだ!
同じ場所でも、見る角度を変えれば違ったものが見えてくる。
ゲームと同じだ。詰んだと思ったら、何度でもしゃぶり尽くす。
「絶対に、諦めん!」
歩き回ってガタが来ている足をひっぱたき、オレは再びダンジョン攻略に乗り出すのだった。
「……やっぱり、詰んだ」
やべえ!本当にもうすぐ閉園時間だ!
今度は、ゴミ箱の中まで探すという徹底ぶりなのに、全然見つからねえよ!
園内放送が何度も鳴っている。
閉園時間が本当にすぐそこに迫っているんだ。
「あの野郎……まさか、オレを置いて一人で先に帰ったんじゃねえだろうな……!」
そうなったら、オレはもうお手上げだ。
そもそも、アイツなしじゃマンションの入り口にも入れやしないんだ。
うかつに近づこうもんなら、入口の門番に
「人間か!?ここはエルフの里。お前のような者たちが足を踏み入れていい場所ではない!すぐに立ち去れ!」
とか言われて強制退場ですよ。
ていうか、あいつの携帯番号とか知らないから、本当にこのまま会えないんじゃないだろうな……。
「まずいな……ひょっとして誘拐とかされたんじゃ……あっ!」
そこまで呟いて、オレはようやくベンがどこに隠れたのかを閃いた。
さっきから鳴っている、園内放送にもう一度耳を傾ける。
そして、オレはその場所に向かって最後のダッシュをかますのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「本当に、すいませんでした」
「いえ、見つかって本当に良かったです」
必死に頭を下げるオレに、年老いた係員さんが温和そうな声でフォローを入れてくれる。
まったく、とんでもない所に隠れやがって……
「ほら、ベン。お前からも謝るんだ」
「……ごめんなさい」
頭を下げるベンに、係員さんは不思議そうに首を傾げる。
「……ベン?君の名前、ケイン君じゃなかったの?」
「すいません。コイツ、こう言う悪い癖があるんです」
係員さんが誤解しないよう、ベンは一応オレになついてる演技をしてくれている。
そこは、ゲームに負けたやつの最低限のマナーだよな!
親を偽って、誘拐を企てるケースもあり得るからな。オレがベンの関係者だということは、しっかり保証させないと。
──ベン、そしておそらくチエが隠れていた場所。
それは、遊園地の管理棟、迷子センター。偽名を名乗っておけば、延々と園内放送で放送されても、そりゃあ気づかんわな……。
ただし、今回は人が少なすぎたのが仇になったな。
こんなに長い間迷子の案内が流れてたら、流石に違和感に気づく。
人の好さそうな係員さんでよかったよ。偽名を名乗る子供なんて、色々と勘繰られて面倒になりかねんからな。
「本当に見つかってよかったです。昔、同じように閉園時間まで親御さんが見つからなかった子がいてねえ。もう20年位前かな。可愛い女の子だったよ」
「「……え?」」
オレとベンの声がハモる。
まさか、それって……
「あの時は、家は知ってるから一人で帰ると言って、あっという間にいなくなっちゃたんだよね。無事に帰れてればいいんだけど」
大丈夫です、安心してください。
その女の子、オレが無事に家まで送り届けました……
「そういえば、帰り際にブツブツ言いながら壁に何か落書きをしていったんだっけ。まだ残ってるかな?」
言いながら、管理センターの壁をぐるりと見まわしていく。
──偽名を名乗った挙句、壁に落書きかよ。マナーがなってないですよ、チエさん……!
「なんか、迎えに来るはずの相手が来ないから、その人に向けて書いたみたいなことを言ってたっけ……。おお、まだ残ってた、懐かしいねえ」
係員さんが教えてくれた場所を見る。
その文字を見て、オレは息が詰まるような感覚に襲われた。
そこには、こう書いてあった──
『ヘタクソ。次来たときは、絶対見つけなさい』
20年越しのメッセージが、そこに刻まれていた。
錆びついた壁に、辛うじて残っていた傷跡。間違いない、チエの字だ。
オレは、頭を抱えて空を見上げた。
クッパ城のマグマの様に、赤い夕焼けが目に沁みる。
「……オジサン、ひょっとして泣いてる?」
珍しく心配そうなベンの頭をワシャワシャとかき回してやる。
まあ、意味もなく大のオッサンが泣きだしたら、誰でも心配するよな。
「なんでもない。ちょっと、昔の約束を思い出しただけさ」
「……変なの……。まあ、いいか。帰ろ」
なあ、チエ……。
今度こそ、絶対にお前を見つけ出してやるからな。
待ってろ……!
そして、おまえのもう一つの依頼。ちゃんと叶えてやるからな。
帰り道。オレは次なるステージへの招待状をベンに送り付けることにした。
「さあ、ボーナスステージはおしまいだ。ベン、次のダンジョンは今まで以上に難しいぞ。覚悟はいいか?」
「……少しは慣れたつもり。どんな無茶なダンジョンでも、やってみせるよ」
強気に笑むベンの顔をみて、オレは意地悪く顔をゆがめて、挑発するようにこう続けた。
「本当だな?お前、いくらムリゲーと言って、いつもみたいに『詰んだ』とかいって諦めんじゃないぞ?」
「……そんなことはしないよ」
若干ムッとしたような顔で、ベンが睨み返してくる。
「ほほう?じゃあ、次のダンジョンも絶対にギブアップしない。約束だな?」
「……いいよ!やってやるよ」
すっかり前のめりになるベン。
フッフッフ。こう言うところは年相応のガキンチョだな。
それじゃあ、次のダンジョンへのチケットを手渡すとしよう。
昨日、部屋を片付けてるときに見つけといたんだよな。
「《8逃げ勇者》ベン!お前が次に挑むダンジョンはここだ!」
懐から取り出した『それ』を、ベンに返してやる。
「……ゲ!」
口を歪め、顔を青ざめさせるベン。
オレが手渡したチケットには、漢字四文字でこう書いてあった。
『生徒手帳』
「夏休みは今日でおしまいだ。明日から、おまえは学校に行ってこい!」
ニヤリと笑って背中を押してやる。
途方に暮れたように、あるいはこいつも泣いているかもしれない。
でも、チエとの約束だ。
お前を、きちんと育ててやるってな。
ゲームだけじゃない。これくらいの子供は、やっぱ学校に行かなきゃな!
「残念だが、このダンジョンに『逃げる』コマンドは通用しない。せいぜい楽しんでくるんだな」
次から、幕間の本編が始まります
前説が長すぎぃ!




