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46話 夢の国 前編

またも、回想パートからスタート。

「それじゃあ、そろそろ帰るよ。おばちゃん、ごちそう様!」

「何言ってんだい。今日の食材は、全部アンタたちが持ってきたんだろ?ごちそうになったのはこっちの方さ」


 後片付けを終え、おばちゃんの家を出るオレ達。

 リアカーを引きずって、おばちゃんに別れを告げる。


「みんな、たらふく食って満足そうだったね。でも、もう次からはこんなことしなくていいからね」


 釘をさすように念を押してくる。

 しかし、オレは知らぬふりしてその説教を聞き流す。


 だって、これは俺に向けられた説教じゃないからな。


「……ハイ。ごめんなさい」


 チエが、珍しくうなだれ、反省したように俯いている。

 いいぞ!おばちゃん!こいつがこんなにへこんでるところなんてめったに見られないんだ!もっと言ってやれ!


 心の中でおばちゃんに声援を送っているオレをよそに、おばちゃんはにっこり微笑んでチエの頭を軽くなでてやる。


「次は、手ぶらでおいで。ここにくるのに、お土産なんていらないから」

「……ウン」


 おばちゃんを見上げ、嬉しそうに微笑むチエ。

 今まで見せたことがない、優しくて安心したような笑顔だった。


 こいつがこんな顔で笑うの、初めて見たかも。

 ……あれ?どうして、オレ、こんなに胸がドキドキするんだ?

 ノーダメ縛りで魔界の村のラスボスに挑んでる時でも、こんなにドキドキすることなんてないのに……?


 困惑しているオレの隣で、チエが何かに気づいたように声を上げた。


「どうした?リアカーに何か残ってたか?景品は全部、みんなで食っちまったと思ったけど?」

「これ……!」


 チエがリアカーから、2枚の紙きれを取り出した。

 ん?買い物のレシートか?


「チエちゃん、それ、遊園地のチケットじゃないか」

「ウン。どうやら、くじ引きの一等賞がこれだったみたい」


 どれどれ?

 オレは横からそのチケットを覗き込む。


「なんだよ?期限が明日までじゃないか!あのくじ引きのおっさん、こんなものを一等の商品にするなよなあ……」


 呆れてため息を漏らす。

 しかし、チエは何故か黙ったままそのチケットを見つめていた。


「どうかしたか?さっさと帰ってゲームの続きしようぜ」


 ようやく、迷いの森を抜けられるところなんだ。

 今から帰れば、まだ3時間はプレイできる。


 そわそわするオレに、チエが鋭いガンを飛ばす。

 わ!なんだよ、急に!


 次の瞬間、困ったように眉を寄せて、そっぽを向きながらこう呟いたのだ。


「せ、せっかくのチケットだし、もったいないと思わない?」

「……はあ?」


 あんな豪邸に住んでるくせに、チケットの1枚や2枚がもったいない?

 ゲーム一本買い取るために、オレの頬を札束でひっぱたいたやつの台詞とは思えん。


 ちょっと、コイツの金銭感覚がよく分かんなくなってきたんだけど。


「ツトム、アンタねえ……」


 何故かおばちゃんが呆れた顔で俺の方を見てくる。

 なんだよ!?その、RPGで違ったルートを選択した奴を見る目は!?


 相変わらず明後日の方を向いたまま、チエがぎこちない声で続ける。


「そ、そういえば明日で夏休みも終わりよね?最後の日くらい、ゲーム以外のことをしてみたいとは思わない?」

「思わない。早くゲームの続きがやりてえ……痛てっ!!」


 いきなりおばちゃんにゲンコツを落とされた。しかも、かなり本気の奴だ。

 頭がグワングワンと揺れている。


 なにやら、らしくない仕草でポワポワした言葉を喋っていたチエだったが、とうとうしびれを切らしたように俺の頬を叩いてこういった。


「私、一度も遊園地って行ったことないの!それくらい察しなさいよね、この馬鹿!」

「そんなん知るか!オレだって行ったことねえわ!」


「じゃあ、一緒に行きなさいよ!」

「おお!行ってやろうじゃねえか!」


 何やらよく分からない展開だったが、オレは売り言葉に買い言葉で、夏休み最後の日を遊園地で過ごす約束をする羽目になったのだった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「……それで、オジサン。次の日はどうしたの?」

「ん?決まってるだろ。翌日は朝からチエと二人っきりで、遊園地デートだよ」


 興味津々と言った様子で聞いてくるベンに、オレは得意げにそう答えてやった。

 

 迷いの森をクリアした翌日。


 オレは約束通り、ベンを"楽しい場所"に連れ出してやった。

 入口でチケットを渡し、ベンと一緒に中に入る。


「……ねえ、ひょっとしてその遊園地って……」

「やっぱりわかった?そう、()()だよ、ここ!いやあ、20年前に来て以来だが、変わってないなあ」


 当時の記憶が鮮やかによみがえる。

 入場門の代わりになっていた巨大なマスコットのオブジェは、あちこち塗装が剥げてボロボロになってるけど、遊園地の配置自体はそのまんまだった。


 よく考えれば、女の子と遊園地に行ったのってあれが最初で最後だったなあ……


 感慨にふけっているオレに、またもベンの冷たいツッコミが飛んでくる。


「……こんなさびれた遊園地が、楽しい場所?」

「そ、そうだよ!これでも、昔は若い兄ちゃん姉ちゃんで大賑わいだったんだぞ!?」


 必死に言いつくろうが、20年前の栄光は見る影もなく、今はすっかり客足も遠のいて寂れきっていた。

 よく考えれば、20年前から配置が変わってないってことは、新しいアトラクションが導入できてないってことだもんな……


「……今時、こんなところではしゃぐ子どもなんていないよ」

 

 そう指摘するベンだったが、オレには一つ確信があった。


「なあ、ベン。お前、遊園地って行ったことある?」


 オレの質問に、肩を震わせるベン。

 やはり……。読みが的中したことを確信し、オレは内心ほくそ笑む。


「ベン君。さっきから視線が泳いでるよ?ほら、あのジェットコースターなんか素敵じゃない?乗ってみたことないでしょ?」

「……あんなもの、ゲームでもっと激しい戦いをしてきた僕にとっては大したことないよ」


 強がってみせるが、ダメダメ!

 お前!初めての遊園地ではしゃいでるだろ!20年前のチエとそっくりなリアクションしやがって!


「それじゃあ、早速乗ってみようか!」

「……ウン」


 最後には観念したように素直に頷くベン。

 ウンウン、オジサン、素直な子は好きよ?


 こういう素直なところは、全然チエに似てねえな。あいつは、最後まで「楽しい」とか一言も言わなかったからなあ。


 こうして、ベンのご褒美タイムが幕を開けたのだった。


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