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44話 いしのなかにいる ~そして、邂逅~

章立てで話作ってなかったですが、とりあえずこれで第一章 ―完― でいいかな?

─いしのなかにいる─


「おい。意識はあるか?」

「……ウン。大丈夫」


 表示されたメッセージ音で意識を取り戻したらしい。いったい、どれほどの間気を失っていたのやら……。

 幸い、と言うべきか、()()()()()でも、同じ体を共有しているベンとは簡単に意思疎通ができるようだ。



─いしのなかにいる─



「……ねえ、オジサン。ここは、どこなの?」


 ベンの質問は、いつも簡潔で的を射ている。

 確かに、今俺たちが置かれている状況からかんがみて、最も適切かつ健全な疑問がそれだろうな。


 もっとも、オレにだって全ての問いに答えられるわけじゃない。

 "歩く大技林"なんて呼ばれたこともあったが、もちろん知らない事の方が多い。とりあえず、適当なことを言って時間を稼ぐことにしよう。


「そうだな……。お前の眼には、どう見える?」

「……ゲームの材料を、全部ミキサーにかけた世界……」


 お、言い得て妙だね!さすが、天才児ベン君!計算だけじゃなくて、詩的なセンスも光ってるねえ。

 なんて茶化してる場合じゃないよな。適当な会話をしてるうちに、ようやくオレの心も落ち着いてきた。

 まず、最も重要なことを言わなくちゃいけないんだった。


「いいか。とにかく、最も重要なことをお前に伝える。たった一つ、子供でも分かるとーってもシンプルなお約束だ」


 両手の平を地面に向けて、腰を落としてやる。


()()()()()()()()()()()()。動いたら、どうなるか保証はできん」

「……言われなくても、こんな場所でホイホイと散歩なんてする気になれないよ」



─いしのなかにいる─


 

「……ねえ、オジサン。さっきから頼んでもいないのに、かってにメッセージが喋って鬱陶しいんだけど、これどういうこと?」

「聞いたまんまだろ?オレ達は今、石の中にいるんだろうさ」


 適当に相槌を打ちながら、周囲を見渡してみる。

 確かに、ベンの言うとおりだ。

 

 木の枝。道具屋の看板。お城の階段。謎の石仮面。様々なものがマップを埋め尽くしている。

 そして、恐る恐る自分の身体に目をやると、確かにメッセージが教えてくれる通りの状態になっていた。


「……本当だ。ボク、石に埋まってるよ」

「どうやら、スリップダメージ──毒の沼みたいに、そこに居るだけで受けるダメージのことね──とかはないみたいだから、やっぱり無理して動く必要はなさそうだな」


「……そうだ!ジェシーさんとおばさんは!?」


 血相を変えて後ろを振り向く。しかし、完全に画面がバグっていて後ろに誰がいるかもわからない。

 しかし──


「勇者様。さあ、おうちに帰りましょう」


 すぐ真後ろのマスにある"馬のフン"から、変わらず元気そうなマダムの声が聞こえてくる。

 どうやら、表示の仕方が変わっただけで、NPCもそこにいるらしい。


「……よく分からないけど、ボク達がここに来た理由って……」


 ベンの言葉に、オレはがっくりと肩を落として後に続ける。おふざけはナシだ。

 仕方ない。今回ばかりは、オレが全面的に悪いんだから。


「ああ、ここはいわゆる『マイナス世界』。階層0から『1つ下る』ことで到達する、本来は存在するはずのない『マイナス1階』だよ。このゲームの、あらゆるものの情報が一括で表示されている場所。空間座標が不確かなもんだから、うかつに動けばとんでもない場所に放り出されるか、下手すりゃフリーズして終了だ」


 『マイナス世界』だからと言って、ゴルゴダオブ〇ェクトも、なんちゃらイマジナリーとかもないからな?念のために言っておくっ!


「……フリーズしたら、どうなるの?」

「もちろん、リセットしなくちゃいけない。そうすれば、セーブしたところからやり直しだな」


「……それだけは嫌!」


 こんな状況になってもそこまではっきりと意地を貫けるんだ。大した奴だぜ、おまえも。

 だが、今回ばかりは、本当に相手が悪い。


「……オジサン、その様子だと前にもここに来たことがあるんでしょ?その時、きっとお母さんと一緒にここのことも調べたんじゃないの?出口、分かるんじゃないかな?」

「残念だが、ここばかりはそう簡単にはいかない。直前にいた座標、ステータス、その他もろもろのパラメータを参照して飛ばされるんだ。同じ状況を再現できなければ、ここがどこなのかを推測するのも無意味だよ」


「……それでも!」

「オレだって何とかしてやりてえよ。だから、ちっとは静かにして、おまえも知恵を絞れ」 

 

 とは言ったものの、正直に言って今度こそ詰んだ。

 情報を得るためには何かの行動をしなくてはいけない。そして、この空間で不用意な動きをすることは、とてつもないリスクを背負うってことを意味する。

 

「結局、イチかバチか歩いてみるしかねえか……。おい、前後左右の4択だ。好きなのを選びな」


 オレは覚悟を決め、ベンに選択を促す。

 しかし、ベンはそれでも食い下がる。


「……そんな自棄を起こさないでよ!もっと考えることがあるはずでしょ!!」


 コイツ、今回は本当に諦めが悪いな……。

 さすがのオジサンも、ここまで聞き分けがないと、ちょっと怒っちゃうんだぞ?


「おい、ベン!大声を出すんじゃえ!体を共有してんだから、小声でもしっかり聞こえるんだよ!」

「……オジサンだって、大声出したじゃん」


 オレがベンの名前を叫んだ、その時だった。

 どこからともなく、声が聞こえてきたのだ。


『ベン……ベンなの?』


「「!?」」


 その声を聴いて、俺たち二人は同時に心臓が強く跳ねる感覚に襲われた。

 

 おい……この声……まさか……?


 聞き覚えのある声だった。

 とても暖かく、聞いただけで思わず泣きそうになるくらいに懐かしい。

 

 おいおい、マジかよ……。お前、本当にここにいたのかよ……!

 涙腺が緩みかけたオレをよそに、ベンが声を張り上げて返事をする。


「その声……お母さんなの!?」

『やっぱり、ベンなのね。よかった。やっぱり来てくれたんだ』


「チエ……チエなのか?」


 恐る恐る、オレも声をかける。

 チエがどこにいるのか、こんなぐちゃぐちゃなマップじゃとても分からない。声の出所もわからない。

 20年ぶりの再会が、まさかこんな形になるとは思わなかった。


 チエの奴、オレのこと覚えてるよな?

 まあ、ベンに手紙を残したくらいだから覚えてるんだろうけどさ。

 

 アイツ、久しぶりに会ったオレに、なんて言うんだろう?

 奇妙な緊張で体を固まらせているオレに、チエは──


『ブッ!その声、まさかツトム!?あんた……すっかりオッサンになったのね』

「うっせえわ!お前だって三十路のオバサンだろうが!」


 想像の斜め上を行く返事に、無意識にオレの身体は反応してツッコみ返していた。


 ああ……そうだ。この感覚だよ……。打てば響く、このやり取り。

 間違いない。オレ、チエと会話してるんだ。


「お母さん、今どこにいるの!?」

『ゴメンね、ベン。それはまだ、教えられないの。でも、母さんは、このゲームのどこかにいるわ。だから、必ず会いに来て』


「ウン!……ウン!」


 涙をこらえて、必死に頷く。よかったな、とりあえずチエは生きてたんだ。


「任せておけ、チエ。オレがいるんだ。たとえお前がどこにいたって、このゲームを徹底的にしゃぶり尽くして、絶対に見つけてやる」

『ウン……分かってる。アンタの腕前と知識と経験……そして諦めの悪さと勇気。全部使って、やり込み抜いて頂戴。私、待ってるから』


 待ってろよ。必ず会いに行くからな!


『アンタ達に干渉することはできないけど、せめてここからの帰り道だけは教えてあげる』


 チエが道を示してくれた。

 これで、どうやら元の場所に帰れそうだ……。

 

 オレ達が一歩を踏み出すと、途端にチエの声が小さくなった。

 おそらく、オレ達がいる座標とチエのいる座標が極端に遠くなったせいだろう。


「お母さん!」「チエ!」


 叫ぶが、もうほとんどチエの声は届かない。

 雑音に交じって、最後のチエの言葉が辛うじてオレの耳に届いた。


『ツトム……ベンのこと……よろしく頼んだわよ……』


 声が消えると同時に、オレ達は元の世界に戻ってきていた。

 森の入り口、マップの外だった。


「なんだよ、遺言じゃあるまいし……。だが、まあ。お前の頼みじゃ、断るわけにはいかないよな。……友達、だもんな……」


 ベンに聞こえないように、小声でそっと決意を固める。

 見てろよ!?自慢じゃねえが、オレは一度着手したゲームは、どんだけ時間がかかっても絶対にクリアしてきたんだからな!



 爽やかな風が吹く草原の中、オレ達は決意を新たに冒険の道を進むのだった。



案外、マイナス宇宙ってこういう場所なのかもしれませんね。

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