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43話 階層バグ 実践編

いよいよ、このダンジョンもクライマックスです!



「何度きても無駄だ。ここにお前たちが入ることは叶わない。いい加減に諦めて帰るがいい」

「まだまだぁ!」






「その熱意だけは認めてやろう。だが、ならぬものはならん。里の掟、我らの一存で破るわけにはいかんのだ。さあ、家に帰るがいい」

「まだまだまだぁ!」






「いい加減にしろ!無理なものは無理だ!我らも暇ではない。お前の相手ばかりはしていられん!」

「ようやく肩が温まってきたぜえ!」






「なあ……そろそろこっちも疲れてきたんですけど……」

「とんでもない。まだ折り返し地点だぜ?」






「お願い……帰って……」

「お仕事、ご苦労様です!」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「さあ、仕込みは完了!こっからが本番だ!」


 げんなりとした顔の門番に追い返され、元の場所に戻ってきたオレは、バグ技の仕込みが完了したことを報告してやる。

 しかし、何故か誰も返事をしない。


 どうかしたのか?


「ベン、どうした?元気がないぞ?さては、自分が操作できないもんだから、退屈して寝てたな?」

「……そうじゃない。ねえ、オジサン……。みんなの顔見てよ?何か気づいたところはない?」


 言われるままに背後を振り向くと、もはやトラウマになりつつある場所に何度も通わされたジェシーが、顔を青くして立っていた。

 さっきまで元気に娘を張り倒していたマダムも、何とも言えないあやふやな表情をしている。


 それを見て、オレは自分の過ちにまたも気づかされた。


「スゲエ!NPCのリアクションって、一定条件では固定されてると思ってたんだが、違うんだ!一定回数同じことを繰り返すと、それに応じたリアクションを返してくれんだな!さすがチエの作ったユグドラだ。芸が細かいぜ!」


「……そういう意味で言ったんじゃないんだけど」


 ツッコむ元気も失せたのか、ベンの声にはまたも張りがなくなっていた。


「……それで、仕込みが終わったってどういうこと?そろそろ門番が根を上げて通してくれるようになるとか?」

「いいや、この段階じゃ何度やっても通してはくれない。少なくとも、昔256回ほど挑戦してみたが駄目だった」


「……あっそ……。それじゃ、何のためにこんなことやったのさ?」

「そうだな、せっかくだからここのダンジョンの仕組みについて、少しウンチクを垂れてやろうか」


 オレは足元にビルのような高層建築物の絵をかいてやる。


「前にも言ったが、このダンジョンは森とは名付けられているが、その実態は塔のような階層構造を持っている。どうしてだか分かるか?」

「……多分だけど、容量を節約するためかな?歩いてて気づいたけど、ここのマップって、全部のフロアが同じ広さだったから。多分同じ下地に木を植え替えて別のマップみたいに見せてるんじゃない?」


 「ご名答!」と言って、ビルに階数を書き加えてやる。


「マップの移動時、そこが『上り』か『下り』かを判定して、それに応じた足し算引き算をやってるんだ。1階から『1つ上る』と2階に進む、と言ったような感じだな。だから、常にゲームの中には、"プレイヤーが今、何階にいるか"つまり『階層』って情報が保存されてるんだよ」


 プログラムは、その『階層』に関する数字を見て、「今は3階にいて『1つ下る』の道を通ったな?それじゃあ、次は2階のマップを用意しよう」となるわけだ。

 このダンジョンの場合、『3つ下る』なんて通路も存在するせいで、ぱっと見で塔の構造になってるって気づけないんだよな。


「……それって、普通のことじゃない?単純に、階段を昇ったら昇った分、上のフロアに移動するってだけでしょ?」

「そう。別にこれ自体は何の不都合もない。極めて当たり前のプログラムだ。ただし、一個だけ"例外"がある』


 オレは、さっき追い返されたエルフの里へと通じる道を指さした。


「実は、この道も階段と同じ処理がされていて、『1つ上る』が設定されている。でも、戻るときは強制移動のせいで『1つ下る』が発生しないんだ。しかも、この二つのマップだけはダンジョンじゃなくて普通の町、つまりモンスターとエンカウントしない場所に設定されてるから『階層』情報がなくても移動に問題はない。だから、さっきみたいにひたすら往復を繰り返していくと、内部でひそかに『階数』の情報がどんどん加算されていくんだ」


 そこまでを一気に喋り終える。

 ひょっとしたら、賢いベンのことだ。この先のカラクリに気づいてるかもしれない。


 だがしかし!ネタバラシはオレがやる!先に説明されてなるものか!

 オレは駆け足で解説を続けた。


「ところで、初めに《8逃げバグ》を使った時の仕組み、覚えてるよな?」

「……ウン。『逃げる』コマンドの使用回数をオーバーフローさせて、存在しない4桁目の情報を書き換えるってやつでしょ?」


「その通り。そして、『階層』にも同じように"覚えておける上限"が存在する。もし、それを超えたらどうなると思う?」

「……桁が繰り上がって、ゼロになる……そうか!」


 ウンウン、少年よ。いいリアクションだ!おじさん、狙ったとおりのリアクションを返してくれる人、大好きよ?


「分かったか?オレは今、エルフの里への移動階数をオーバーフローさせて『階層』をリセットしたんだ。この状態で、『1つ下る』を選んだら、行き先がどこになるかはわかるよな?」


 得意げに説明を続け、来た道を戻っていく。

 この通路を越えれば、森の『0階』、つまり森の入り口のマップに到達する。

 後は、さっさとダンジョンを抜けて、マダムたちを家に連れて帰れば、このイベントも無事クリアだ。


「……オジサン。こんなバグ技、どうやって見つけたの?」


 ベンが、感心したような口調でオレに問いかける。

 何もかも分かってるって感じのすまし顔のこいつが、ここまで素直になるのは珍しいな。

 グフフ、ようやくオレの知識の偉大さに気づいたってことか!いいぞ、もっと褒めてくれ!(フルフル)


「さっき、256回ほど門番に追い返された話をしたろ?あの後、森に戻った時に移動先が違うって気づいたんだよ。もっとも、先に気づいたのはチエの方だったけどな」

「……そっか、お母さんもここをプレイしたんだよね」


「ああ、そうだ。それに気づいたチエは、早速"検証"を開始した。何回『上る』を繰り返せばカウンターがリセットされるのか、念入りに何度もやらされたよ」


 だから、実際は256回どころじゃなくて、もっとたくさん門番に追い返されたわけなんだがな……。一度火がついたチエは、オレ以上に見境がないからなあ。

 お、そろそろ『13階マップ』の切れ端が見えたか。これで、この森ともいよいよおさらばだな……。


「結局わかったのは、『階層』の上限が"64"だってこと。このゲームで一番背の高いダンジョン『天空の塔』が36階建てだったから、そのせいだろうって、チエが言ってたな」

「……」


 オレの説明に、何故かベンが沈黙する。

 ん?今の部分に何か変なところあったか?まあいい、気にせず説明を続けよう。どのみち、バグの解説もこのダンジョンも、もう少しで終わりだしな。


「だから、さっきオレは"51回"門番に追い返された。13階に51を足せばちょうど"64"になる。どうだ、面白いだろ?」


 バグの説明が終わるとほぼ同時に、マップの切れ目に到着した。

 さあ、ここをクリアしたらベンにご褒美をくれてやるとするか!


 オレが最後の一歩を踏み出した、その時だった。


「……足りない」

「は?なんだって?」


 ベンがぼそりと呟いた。


「……それだと、1()()()()()()。"64"はオーバーフローして、『階層』は()()()()()。」

「あ……!」


 一瞬で全身から血の気が引くのが分かった。

 しかし、時すでに遅し。オレが踏み出した一歩は、もうキャンセルできない。


 『1つ下る』が設定された通路に、オレ達は吸い込まれていく。

 最後に、ベンがどこまでも冷静な声で、オレにこう問うた。


「……ねえ、オジサン。『0階』から1つ下ると()()()()()()()()()?そしたら、ボク達はどこに行くの?」


そんな、ここにきて、こんな失策……っ!

ありえない……っ!


ぐにゃあ~~~~


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