42話 階層バグ 仕込み編
「……俺に任せろっていうけど、どうするつもりなのさ」
操作権を譲渡したおかげで、今までの疲労から解放されたらしい。
ベンの口調がさっきよりも軽くなっていた。
ここにきて、オレはもう一つの過ちに気づくことになる。
これまでのゲームと違って、ユグドラはプレイヤーへのフィードバックがかなり強烈だ。
普通の10歳の子供に、こんなに長時間やらせるべきじゃなかったかもしれないな……。
「……ここから森の出口までは最短ルートでもマップを7回移動しなくちゃいけない。その最小歩数は760歩。いままでの経験から見積もって、大体14回はモンスターと遭遇することになるよ。一度目で『逃げる』が成功する確率がおおよそ70パーセントだから……。一度も敵の攻撃を受けずに逃げ切れる確率は約0.678パーセントだよ?」
スラスラと数字を読み上げるベン。
コイツ、そんな複雑な計算をこの一瞬で暗算したのかよ……。しかも、これまでのプレイデータを全部覚えたうえで、統計処理までしてやがる……!
前言を撤回しよう。コイツは、普通の10歳の子供じゃない。
チョットだけドン引きしているオレに、ベンがさらにまくしたてる。
「……全部逃げるのが無理だとして、ひょっとしてモンスターに遭遇しなくする方法でもあるの?」
「いいから、ちょっと黙ってな」
オレは森の最奥の、さらに奥に向かって歩いていく。幸い、このマップはイベントフロアに設定されていて、普通の雑魚モンスターとはエンカウントしない。
先ほど母娘の熱い抱擁(灼熱過ぎてかなり火傷したみたいだが……)が繰り広げられていた、ジェシーが隠れていた隠し部屋にやってきた。
「……オジサン、森の出口はこっちじゃないよ?」
「分かってるって」
さっき、ちらっと説明したが、この隠し部屋のさらに向こう側に、もう一つ別のマップが存在してるんだ。
オレが用事があるのは、そこなんだよ。
奥に進むと、今までのうっそうとした森の背景から一転して、見晴らしの良い開けた場所にやってきた。
そう。ここが、ジェシーが追い出されたっていう、"エルフの里"だ。
里の周辺にはびっしりと柵で覆われていて、よじ登れそうな高さじゃあない。
唯一の出入り口には、門番として二人のエルフが見張りに立っている。その門番たちは、オレの姿を見つけると、大きく切れ長の目を吊り上げて、がなり立ててくる。
「人間か!?ここはエルフの里。お前のような者たちが足を踏み入れていい場所ではない!すぐに立ち去れ!」
まさしく問答無用。イベント効果が発動し、一歩も動くことが叶わずに元のマップに戻されてしまう。
いわゆる、門前払いってやつだ。
「……あれが、ジェシーさんが追い出されたっていう、エルフの里か」
「その通り。貴重な武器・アイテムや、魔法まで買える、超激レアな場所さ。もっとも、条件を満たさないと入ることすらできないんだけどな」
「……どうにかして、里に入ってその武器を買おうってこと?」
ベンの問いを、ニヤリと笑って受け流す。
「まあ、見てなって」
オレは、再び一歩踏み出し、エルフの里に顔を出す。
「人間か!?ここはエルフの里。お前のような者たちが足を踏み入れていい場所ではない!すぐに立ち去れ!」
先ほどと変わらぬ口調、表情で、エルフの門番がオレを追い出した。
「……ねえ、何か意味があるの、これ?ちょっとジェシーさんが嫌な表情になってるよ」
あ、本当だ。ドット絵の時じゃ気づけなかったが、ジェシーの顔が引きつってる。
散々いじめにあってきた、嫌な記憶が蘇ったんだろうなあ……。
「……よく考えたら、ジェシーさん。里から追い出されて、一人で今までどうやって生きてこられたんだろ?」
そういう細かいツッコミはやめて差し上げろ!
それを言ったら、町のみんなはトイレも風呂もない場所で一生を過ごしてるんだからな!?
「ゴホン!また、話が逸れたな……。ジェシーには申し訳ないが、もう少しだけ付き合ってもらうさ」
「……やっぱり、この行動自身に意味があるんだね?」
「その通り!いいか、ベン。このバグ技は、逃げる確率を上げる技でも、モンスターに遭遇しなくなる技でもない。もちろん、雑魚敵を一掃できるくらいに勇者を超強化する技でも、な」
「……じゃあ、どうやってこの森から脱出するのさ」
オレは、背後の通路を、後ろ目に指さしながらこう言い放った。
「書き換えるんだよ。森のゴールを、入り口にな!」
「……何言ってるかわかんない。それに、そのポーズ全然格好良くないから」
一言多いんだよ!
「と、とにかく!本番はこれからだぜ!」
ベンの冷酷なツッコミにもめげることなく、オレは三度エルフの里に向かって歩き出したのだった。
最近、なろう小説の設定にツッコミを入れるブームが来ているらしいですね。
新しい視点を取り入れるのは大事なので、私は歓迎しますよ!
……採用するかは別ですけどね!




