40話 迷いの森 真相
「ジェシー……本当にジェシーなのかい……?」
マダムが、信じられないものを見る目でフラフラとジェシーのもとに歩み寄っていく。
まあ、無理もないだろう。つい先ほど、死んだと思っていた娘がいきなり目の前に現れたんだからな。
ジェシー当人は、何とも気まずそうな表情でその場に立っていた。何も言わず、無言を貫いている。
このリアクションも、まあ無理もないかな。偽の遺体を使って、母親にドッキリを仕掛けた挙句、それを覗いているところをバッチリ突き止められちまったんだからな。
それより、オレは素直に賞賛の言葉をベンにかけてやった。
「正直言って、おまえがこのルートを開拓するとは思ってもいなかったんだぜ?実際、あの時点でサファイヤをもらっても、クリアしたことにするつもりだったんだ。それが、まさかジェシーを見つけちまうとは……大したもんだよ」
「……それより、オジサン。これって、結局どういうことなの?」
まだ、状況が完全に飲み込めた訳ではないらしい。ベンは、困惑したようにマダムの背中を見つめていた。
ベンよ、おまえの気持ちはよく分かる。なぜなら、オレが初めてここの存在に気づいた時、おまえと同じようなことをぼやいてたからな。
なんで、ジェシーはこんな質の悪いドッキリを仕掛けようと思ったのか。
「見てな、ベン。答えはすぐに分かるぜ」
「ジェシー……ああ、ジェシー……!」
感極まったように、左手でジェシーの頬を撫でるマダム。
──と、次の瞬間。
「この、クソバカ娘がああああああああああああ!」
頬に触れた左手で、ガッチリと頭をロックし、逃げ場を無くしたところに強烈な右フックを打ち込むマダム。
「きゃああああああああ!」
衝撃の逃げ場を無くし、吹っ飛ぶこともできずに膝を折るジェシー。
「こんな!質の悪い!いたずらをして!私を驚かせて!いったいどんな恨みがあるってんだい!」
一言叫ぶごとに、火薬が破裂するような音を立てて鮮やかなビンタを炸裂させるマダム。
マダムと同じく、ジェシーはプレイヤー同行型のNPCなわけで、この前説明したようにHPが割り振られてるはずなんだが……。
一体どんなパラメータになってんだろ……?
「あう!こうやって!毎日DVを振るわれてるからに!きまってるでしょ!?」
ビンタを喰らいながらも、律儀に返事するジェシー。
……ジェシー。あんたも、なかなかのタフガイだぜ……。
「……オジサン、まだ、よく状況が理解できないんだけど……」
あまりに光景に圧倒されて、というかドン引きして、ベンが助けを求めるようにこちらに問いかけてくる。
ベンよ、おまえの気持ちはよく分かる。なぜなら、今この瞬間のオレも、同じようにドン引きしてるからだ!
いや、オリジナルの場合、小さなドット絵のキャラが左右にぶつかり合うだけのコミカルなシーンだったからさ。まさか、実際にはこんな凄惨な残虐ファイトが繰り広げられてるなんて思ってもいなかったんだよ……。
「と、とにかく。もう少し落ち着いたら本人たちに聞こう……な?」
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「本っっっっっっっっっっ当に、申し訳ありませんでした。とんだお騒がせで……ほら、あんたも謝りなさい!」
「ご、ごめんなひゃい……」
ほっぺをリンゴのように腫らしたジェシーの頭を掴み、強引に謝らせるマダム。
恥ずかしさやら怒りやらで顔を赤くしたマダムから、おおよその事情を聴くことができた。
説明を聞き終えて、ベンが深々とため息をつく。
「……つまり、駆け落ちは未遂で終わったってこと?」
「そうみたいだな」
普段からマダムの酷いDVを受けて育ってきたジェシーは、森のエルフと恋に落ちたのをきっかけに駆け落ちを決意した。
二人でエルフの集落がある迷いの森の奥まで行ったはいいが、排他的なエルフ達から"手厚い歓迎"を受けて、すっかりメンタルがやられてしまったらしい。
「靴に画びょうを入れられたり、捨てた燃える日のゴミ袋に入れた覚えのない瓶をねじ込まれて突き返されたり……挙句には家の壁に『バカ娘』と落書きされたりして……とても辛い毎日だったんです……!」
「……エルフのいじめって、なんだか親近感あるかも……」
「なんだ、ベン。お前も学校で似たようなことされてたのか?」
「……うん。お母さんに相談したら、『だったら家で勉強を見てやるから行かなくていい』って言われて、それ以来、家からは一歩も外に出てなかったんだ」
「いや、チエもそこまで引きこもれって意味で言ったんじゃないとは思うが……」
ちょっと話が脱線したが、ご近所のイジメに耐え切れず、ついには夫のエルフがギブアップしたらしい。
婚約の証に渡したはずのサファイヤを手切れ金代わりに握らされ、集落の外に放り出されたんだとさ。
ちなみに、この隠し扉の向こうにはエルフの集落があるんだが、今はいくことができない。
フラグが立ってないと村の入り口として機能しないように設定されてんだ。
「それで……私、他に行く当てもないし、今更家にも帰れないし。こうなったら、最後にお母さんにとっておきの嫌がらせをして憂さを晴らしてやろうと、こうやって偽の遺体──いたずらモンキーの亡骸──に手紙を添えて、待ってたんです!」
「胸を張って言うことかあああああ!」
マダムの渾身のアッパーが炸裂し、ジェシーは華麗に宙を舞う。
うーん、この場合、ジェシーにも同情の余地があると思うんだがなあ……。
この物語は、基本的にはギャグのノリです。
暗い話も、大抵はこんなテンションのオチが待っていると思ってください。
長かった迷いの森編も、もうすぐ終わりです。
でも、もうちょっとだけ続くんじゃ




