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4話 オッサンゲーマー ネタバラシする

今回、一人称視点に切り替わります。

先程の少年勇者の視点です。


 盗賊のアジトを後にして、人気のない街道をのんびりと歩く。


「結構やるじゃないか。初めてのボス戦にしては上出来だったぞ」

「次は、事前に説明欲しい……」


 周囲には人っ子一人見当たらない。


 フィールドマップで出会うのは、ランダムエンカウントするモンスターか、他の勇者だけ。

 NPCがその辺を出歩くことはないし、他の勇者たちはさっきの洞窟に長蛇の列をなしている。

 だから、オレは周りの目を気にすることなく大声でもう一人の自分に話しかける。


「それに、ベン。お前の最後の一撃、覚えてるか?"会心の一撃"の最低ダメージは33。しかし、あの時お前は34のダメージをたたき出したんだ」

「……それが何か?」


 今は操作権を委ねているため、草原の中を進む小柄な勇者は、年相応に幼い声で素朴な疑問をオレにぶつけてきた。

 相変わらず、ブツ切りにしたような喋り方で愛想の欠片もないが。


「さっき、後ろに並んでた勇者に説明したろ?盗賊親分の防御力はほとんどカンストしている。つまり、通常攻撃では1、会心の一撃でも33がほぼ固定ダメージになっちまうんだ。そこを、レベルも低いお前の一撃が突破したってのは相当の奇跡なんだ」

「……ふうん」


 興味なさそうに後ろ手に手を組み、空を見上げるベン。この野郎、オレが懇切丁寧に説明してやってるってのに……!


「……さっき、どうして勝てたの?……偶然にしては、できすぎ……」

「あれは、《バグ技》の一種だ」

「……バグ技?」


 初めて耳にする言葉だったらしい。ベンは、首を傾げ、まるで異国の言葉でも聞くように頭の上にはてなマークを浮かべていた。

 おう、マジか……。


 これはジェネレーションギャップってやつなのか?最近の若い奴はバグ技という単語すら知らんのか!? 


「ボク、ゲームなんてやったことない」

「そ、そうか……」


 少しだけ胸をなでおろす。

 大丈夫、こいつが非常識なだけ。これだけEスポーツが普及した世の中で、ゲームを触ったことがないこいつの方がおかしいんだ。


 決して、俺が年を取ったわけじゃない!

 いや、実際もう十分にオッサンなんだけどさ……。


 気を取り直して、別の切り口で説明を試みる。

 相手はゲーム初心者の子供だ。一応プロとして、分かりやすく説明する義務がオレにはある!


「じゃあ、2進法は知ってるか?」

「……うん。昔ママに習った」


「さすが、天才プログラマーの息子だ。まあ、一応おさらいとして聞いとけ」


 いいながら、ベンの操作権を一部剥奪。

 その場にしゃがみ込んで地面に簡単な数字を書いていく。


「俺たちが普段使ってる数字は10進法。1から数えて、10になると桁がひとつ繰り上がる。一方で、2進法は2になると桁がひとつ繰り上がる。こんなふうにな」


 地面に数字を書き並べる。


 1→0001

 2→0010

 3→0011

 4→0100

 

「100という数字は、10進法ではそのまま100。ただし、2進法では4を意味する」

「……それくらい知ってる」


 最近の10歳って、こんなに教育レベル高いの?おじさん、ちょっと心配になってきちゃったよ……。


「このゲームでは、全ての数字が2進法で記録されている。例えばオレ達のHPとか、ステータスもそうだ。そして、戦闘中だけに記録される特別な数字も、もちろん2進法で記録されていく」

「……特別な数字?」


 よしよし、食いついてきたな。

 こういうところは年相応の好奇心があるみたいだな。


「ところで、オレ達の前に並んでた勇者が持ってたアイテムを覚えてるか?」

「……ちょっと、話の途中……!」


「いいから言ってみろって」

「……会心の腕輪。"会心の一撃"の確率が上がる」


 その回答に満足すると、俺は説明を続けた。


「あのアイテム、っていうか効果には、さらに上位のぶっ壊れ性能のやつがあってな。ゲーム後半で習得する『ばろぶんて』って魔法の効果の一部に、『ミナギッテキタ!』状態ってのが稀に発生するんだ。その状態になると、全ての攻撃が会心の一撃に切り替わっちまうのさ」

「……それ、さっきのボクと同じ」


「それで、さっきの2進法の続きだけどな」

「……オジサン、少し国語の勉強して。話の流れに、ついていけない」


 地面に書いた100という数字の右に、「逃げる」という文字を書き足す。


「このゲーム、「逃げる」コマンドを選ぶと戦いから逃げられるが、もちろん失敗することもある。救済措置として、4回「逃げる」に失敗すると、5回目は必ず成功するようにプログラムされてるんだ」

「……そうえいば、今までも絶対に4回以内に逃げきれてた……」


「その通り。だから、「逃げる」コマンドを使った回数は4回まで数えられれば十分。2進法で100以上を使うことはほとんどないんだ」


 そこまで説明すると、何かに気づいたようにベンの目が見開く。

 勘の良いやつだ。


「……さっきのボスバトル。ボクは4回以上「逃げる」をした」

「メッセージが出てたろ?『ボスキャラからは逃げられない』仕様なんだよ」


 言いながら、数字を書き足していく。


 1→0001

 2→0010

 3→0011

 4→0100

 5→0101

 6→0110

 7→0111

 8→????


「さあ、そこで一つ問題だ。さっきの戦闘で、お前は8回「逃げる」を選択し、失敗した。すると、プログラムが記録する数字はどうなる?」

「……こうなる……」


 8→1000


「ここで、問題が発生する。「逃げる」カウントは本来3桁までしか使う必要がなかったはず。しかしボス戦でだけ、"想定していない4桁目"に数字が繰り上がってしまう。この4桁目に、何のフラグが仕込まれていたと思う?」

「……フラグ?」


 ああ、もう!一番盛り上がるところで話の腰を折りやがって!

 普通なら、ここで『はっ!?』となって大いに関心するところだろうが!


「フラグってのは、プログラムに命令を出すスイッチみたいなもんだ。ひもを引っ張ったら電球が点く。シャッターを押したら写真を撮る、みたいな、な!」

「……そう……。じゃあ、ひょっとして、その4桁目のスイッチは……」


 若干予定が狂ったが、ベンの驚く顔が見れたので満足した。

 いや、同じ視界を共有してるから見れないんだけどさ……。


「「逃げる」カウンターの4桁目こそ、さっきの『ミナギッテキタ!』状態のフラグだったんだ!これぞ通称《8逃げバグ》。これを見つけた当初は興奮して夜も眠れなかったもんだ」

「……プログラマー、数字の配置がへたくそ」


 興奮するどころか、ベンは呆れたように冷静なツッコミを入れてきた。

 全く、最近の若い奴は……。


「昔のゲームはな、驚くくらい容量が少なかったんだ。このゲームだって、たったの128KBだぞ?この意味なら、お前でもわかるだろ?」

「……写真1枚より少ない……」


「だから、数少ないスペースに貴重なデータを詰め込んでいくしかなかったんだ。それにな……」


 オレは、ベンの身体を立ち上がらせて空を見上げる。

 当時は見下ろすばかりだったゲーム画面を、まさか勇者の視点で見上げることになるとは思ってなかったなあ。


 この世界の空って、こんなに青かったんだ。

 鬼才プログラマーと呼ばれたこのゲームの作者も、いつかこんなふうにゲームをプレイされることまでは想像してなかっただろうな……。


「それに、このゲーム。どうやらこのバグを想定して設計されてる節があるんだよ。よく考えてみろ。序盤のダンジョンであんなガチ無敵のボスキャラ出すなんて、ありえねえだろ?」

「……言われてみれば、確かにおかしい」


「《8逃げバグ》だって、実際は大した使い道はないんだ。そもそも雑魚キャラには使えないし、普通のボスキャラに使ったら無防備で8ターンボコられるわけだからな。典型的なタメキャラである盗賊親分攻略のためにあるようなバグ技なんだよ」

「……おじさん。このゲームにこんなに詳しい理由は何?」


 まったく、イチイチ話の腰を折ってくる奴だ。

 しかも、わざわざ思い出したくもない過去の話までほじくり返してきやがる。


 20年前に見下ろしていた空を見上げながら、俺は今日までの出来事を嫌々ながら思い返してみた。



 2進法とか懐かしい!と思ったそこのあなた、『お気に入り』登録をして今後もどんどん更新されるであろう昔懐かしい数字トリックを使ったバグ技の更新をお待ちください。

 8逃げバグ?それを言うなら逃げ8バグやろ!とツッコミを入れた方は、逃げ恥との混同を恐れた作者への怒りの『評価☆』をお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] …? 多重人格か?
[一言] 自分がハマってた過去ゲーのリメイクとかってテンション上がるよね
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