表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/69

37話 迷いの森 その7

「……ぜえ……ぜえ……」


 もう、何度目になるかわからない戦闘を終えて、ベンがその場に跪く。

 持っている薬草を使ってHPを回復させるが、精神的な疲労からくる衰弱はそのままだ。


「なあ、ちょっとは休憩したらどうだ?」

「……ダメ、無駄に時間を使えば、またモンスターが強くなる。多分、次に強くなられたら、もう勝てない」


 モンスターとの戦闘は、ストレスの連続だ。

 いくら慣れたとは言っても、人間の数倍の大きさの魔物に襲いかかられるんだ。とんでもないプレッシャーのはず。


 いつものこいつなら、とうの昔に『疲れた』とか『もう、詰んだ』とかいって投げだしそうなものだが。

 今日のベンは、人が変わったようにひたむきにゴールを目指していた。


「あれから2回目のモンスター強化があったからな。たしかに、そろそろ限界も近いか……。で、何かわかったことはあるか?」


 オレの問いに、ベンは黙って頷いた。


「……まず、時間経過で入れ替わるとはいっても、2回目の変化では元に戻るだけ。A→B→CだったのがC→B→Aに変化して、またしばらくするとA→B→Cに戻る……。だから、どちらかと言うと、森よりは塔に近い構造なんだと思う」


 オレは、心の中でそっと「ご明察」という言葉をかけてやった。

 ベンの言う通り。実は、このダンジョンの構成は塔のように『階数』でマップを管理している。


 つまり、マップの切れ目が担っている役割は、階段の『上り』『下り』に相当して、時間が経過するとそれらが入れ替わるってことだ。


「……でも、肝心な"最上階"への行き方が分からない……。そもそも、階段の上下が入れ替わるだけなら、行ける場所はそのままのはずだし」


 思考に酸素を使いすぎているのか、ベンの呼吸は一向に戻る気配がない。

 心配そうに声をかけるマダムに、ベンは安心させるように笑みを返す。


 こいつ、いつの間にそんな頼りがいのある仕草を覚えやがった!?

 やっぱり、このダンジョンに入ってからのベンは、少しおかしい。よっぽど、オレが提示したご褒美に心惹かれたのか?


 いや、確かあの時はそんなそぶりも見せなかった気がするんだが……。

 オレの思考を無視して、ベンの独白は続く。


「……きっと、"見せかけの最上階"が設定されてるはずなんだ。そこに行って、時間経過させれば"本当の最上階"への上りルートが出てくるはずなんだけど……!」


 ベンの読みは、どこまでも正しい。

 この森のゴールは、階数にして『13階』が割り振られている。しかし、今のベンがいける範囲は『12階』まで。


 この森の一番厄介なところ。それは、『12階』に下りの階段しか用意されていないところなんだ。だから、どうやっても『12階』から上にはたどり着けない仕様になっている。


 ただし、先ほどベンが言ったように、『12階』まで登って一定時間を経過させられれば話は変わる。

 下りしか用意されていなかった階段の上下が入れ替わり、『13階』への道が開けるといった仕組みだ。


 ただし、問題は……


「……問題は、どこが"見せかけの最上階"なのか、分からないってこと……」


 一部の階段が2段・3段飛ばしで上り下りが設定されているせいで、どこが『12階』なのかがわかり難い。

 まともにやれば、全部のマップで時間経過を待つという総当たりをやらなくちゃあ、いけない。


 しかし、そうは言ってもヒントは隠されている。

 オレは、さり気なくベンにこう尋ねた。


「そういえば、ここに来るまでの間、どんなモンスターと戦ったか覚えてるか?」

「……?」


 疑問符を返すベンに、オレは強引に質問を続ける。


「いいから、言ってみな」

「……怪力ねずみ、あばれウシ、手乗りタイガー、2本角ウサギ、スモールドラゴン、猛毒ヘビ、小悪魔のウマ、催眠ヒツジ、いたずらモンキー、オオハゲトリ、腐れイヌ、ガッツいのしし……」


 後は、それぞれのモンスターの上位種を並べ上げる。


「……で、それがどうしたの?」

「いや、何か気づくことはないかな?って……」


「……別に、何もない。各フロアで1種類ずつしかモンスターが出てこないってことは妙だったけど、それだけ」


 淡々と話すベン。俺の脳裏に、嫌な予感がよぎる。

 

「なあ、ベン。おまえ、ひょっとして『干支』って言葉に聞き覚えはないか?」

「……エト?なにそれ?」


 ああああああ!なんてこった!

 こいつ、海外の暮らしが長いとか言ってたから、日本の干支のことが全く分かってないんだ!

 肝心な常識がすっぽ抜けてると思ってたから、まさかと思ったんだよ!


「……オジサン、さっきからどうしたの?」

「い、いや、なんでもない」


 一人悶絶するオレ。肝心のヒントに全く気づけないんじゃ、いつになってもクリアできねえぞ!?


 もう気づいてると思うけど、この森の"見せかけの最上階"を見破る方法は、モンスターの種類を見ることだ。

 森の各マップには、それぞれ一種類ずつ干支にちなんだモンスターが配置されている。


 子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥。

 この森を突破するには、"ガッツいのしし"が出るマップで一定時間経過させて、階段の上下を入れ替える必要があるんだが……。


「……ぜえ……ぜえ……」


 息を荒げるベン。やはり、こいつの限界も近いのかもしれない。

 しかし、ここでオレがヒントをやるわけにはいかない。そもそも、干支を知らないこいつに、さりげなくヒントを教えてやる方法なんてあるのかよ?


 悶々としているオレの耳に、ベンの呟き声が聞こえてきた。

 そして、その一言を聞いて、オレは再び目を見張ることになった。


「もう、少し……もう少しで、正解が見える……!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ