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36話 迷いの森 その6

 ベンの2度目の挑戦が始まった。


 森の入り口。開幕早々、三叉路の分岐が目の前に現れる。

 『一筋縄ではいかないぞ。さあ、思う存分迷うがいい』という、開発者の意地の悪い笑みが透けて見えるような設計だ。


「念のため、おさらいしといてやるよ。記憶力の良いお前には不要かもしれんが、サービスだ」


 そう言うと、オレは改めて今わかっている情報を整理してやる。


1.ダンジョンの構造は他と変わらない、エリア間の移動を基本とする仕組み


2.エリア間の移動時、何らかのトリガーで構造がループする


3.時間経過で、モンスターのレベルが上がる


「さて、どうする?」

「さっき言った通り。今度は闇雲に歩く。2のトリガーを明らかにするには、情報が足りない」


 迷いを捨てたベンは、宣言通りにまっすぐに歩を進めた。

 まあ、こいつのことだから、闇雲とは言いつつもきっちり順番は覚えているんだろうけどな。


 そんなベンの心意気を歓迎するかのように、景気よくモンスターたちがお出迎えしてくれる。


─怪力ネズミがあらわれた─


 その時、体にふとした違和感。モンスターと対峙したベンの緊張が、ふと和らいだような気がする。


「どうかしたのか?」

「……安心した。一度全滅すると、敵の強さはリセットされるみたいだ。もし、リセットされなかったら、絶対にクリアできないと思ってたから」


 そりゃあ、いくら何でも鬼畜仕様すぎるだろ!

 そもそも、青天井でモンスターの強さを上げられるほど、このゲームには容量は余ってねえから!


 かるくモンスターを撫でてやって、元の森のマップに戻ってくる。


「……とにかく、先を進もう」


 マップの切れ目に身を躍らせる。

 一瞬の暗転の後に、似たような森林マップが目の前に広がる。


「……おかしい」

「何か言ったか?」


 小声でつぶやくベンに、オレはそう問いかける。


「最初にここに来た時と、ループ構造が変化してる。初めの三叉路を直進した先にあったのは、このマップじゃない」

「……」


 ベンのつぶやきに、オレは無言を貫いた。


 ようやくそこに気づいたか。

 コイツの場合、最短ルートでマップを走破したせいで、()()()()2()()()()ってことをやってこなかったんだ。


 だから、『A→B』のルートが、いついかなる時でも『A→B』だと思い込んでしまっていたのだ。

 今回、初めて『A→C』のループがあることに気づいたわけだが、果たしてコイツのリアクションはどうかな?


「……もしもランダムで移動先が決まってるとしたら、探索の意味がない……」


 そう、普通はそう考える。

 同じ道を何度か通って、その度に違う場所に出るんだとしたら、そう考えるのが筋だ。

 しかし、ベンはすぐさま首を振って、自分の考えを否定する。


「でも、それなら1度目の探索の時に気づくはず。本当にランダム移動なら、全部のマップをあんなに簡単に走破できるはずがない」


 この気づきは、ベンならではのものだろう。

 一回目の挑戦時、あいつはこの森のマップの配置を全部明らかにして見せた。

 いや、正確には『最後の間』に通じるマップ配置だけは謎のままなんだけどな……。


 とにかく、ランダムで移動先が決まるんだとして、ノーミスでマップを制覇するってどんだけ薄い確率だよって話になるわけだ。

 ベンの考えを遮るように、またもエンカウント。

 軽快なBGMと共に画面が暗転する。


─あばれウシが現れた─


「……考えを邪魔しないで……!」


─勇者の攻撃 あばれウシに35のダメージ! あばれウシを倒した─


さすがに、ここまで強化した今のベンでは、初期段階のモンスターじゃ相手にもならんな。


「……やっぱり、何か別の法則でこのダンジョンは動いてるんだ……」


 ぶつくさ言いながら、目の前を見る。行く先には、意味ありげな巨大な石を起点に、今度は左右の分かれ道を右に曲がる。

 行きついた先を見て、またベンが沈黙した。思ってた行き先と違っていたらしい。

 マップには、空っぽの宝箱が転がっている。


「どうした。ギブアップか?」

「……まだ、始まったばかりだよ!」


 珍しく語気を荒げる。少しパニックになりかかってるのかもしれないな。

 そんなベンをおちょくるつもりなのか、3たびモンスターが襲い来る。


─手乗りタイガーが現れた─


 狂暴そのものと言った面構えのトラだが、生憎と手のひらサイズの可愛らしさ。

 ベンはまたしても一掃する。


「……ひょっとして」


 何かを閃いたのか、動きがピタリと止まる。

 すると、おもむろに来た道を引き返し始めた。


 お、ひょっとして何かに気づいたか?

 引き返した先は、元のマップ。意味ありげな巨大な石が、変わらずに鎮座していた。


 ちなみに、俺がプレイした時はこの石に何かヒントがあるんじゃないかと思って、前後左右くまなく調べたりもしたんだよ。でも、128回目の『調べる』コマンドを使ったところでチエに殴られてそれっきりだ。


 再び、振り返って宝箱のマップに戻る。すると、その場に立ち止まるベン。

 目を閉じて、じっと何かを待っているような様子だった。


「……オジサン。確認したことがあるんだけど……」

「なんだ?言ってみ?」


「……モンスターとのエンカウントは、歩くたびに抽選している。つまり、歩かなければエンカウントはしない」

「その通り」


「……そして、時間の経過は歩数とは無関係。じっとしていても、時間は流れていく」

Exactly(そのとおりでございます)


 どうやら、感づいたらしい。

 しばらくの間、無言の時間が続く。


 ああ、なんとも居づらい雰囲気だ。オレ、昔からこういう沈黙が苦手なんだよな。

 世間話でもしたいところだが、ベンは何かに集中しているようで話しかけづらいし。背後のマダムに声をかけようにも、いまは操作権をベンに預けちまってるしなあ。


 しかたない。ゲームキャラの一人しりとりでもするか……。

 むかし、ゲームの発売日当日に店の前で並んだ時を思い出すぜ……。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「マ〇オ……オル〇ガ……ガノン〇ロフ……ファイ〇ーマリオ……」


 なんだよ。マ〇オとファ〇アーマリオは同一人物だって!?

 あれは、キャラの色も違うし、炎を出せたり出せなかったりするから、別人でいいんだよ!


 あ、そうそう。チビ〇ァイアーマリオの出し方って知ってる?

 キノコとった状態で、クッ〇と相打ちになるのが重要なんだけどさ……。


 なんて、脳内でオレが手に汗握るバトルを繰り広げていると(ちなみに、しりとりは400人くらいまで続いていた)、ベンがおもむろに動き出した。


 来た道をまたも引き返し、マップの切れ目に移動する。

 画面が暗転し、その先には先ほどと同じく、意味ありげな石が転がっていた。


「……」


 またも動きを止めるベン。

 よくよく注意してみると、口元で何かブツブツと呟いてやがるな。俺や、マダムにも聞こえないほどの小声だ。


「……10……9……8……」


 何かのカウントダウンらしい。そして、カウントがゼロとなると同時に、ベンは4たび来た道を引き返した。

 画面が暗転する。()()()()()()()、そこにはからの宝箱が転がっているはずだった。


 しかし……


「……やっぱり、()()だったか」


 満足そうにつぶやくベン。移動した先には、空っぽの宝箱はなく、別のマップが広がっていた。


「仕組みが分かったみたいだな?」


 オレの問いに、ベンが頷く。


「……このダンジョンのマップ間の移動は、一定時間が経過すると移動先が変わる。そして、おそらく……」


 森の中を再び歩き出すベン。すると──


─怪力大ネズミがあらわれた─


「……そして、同じタイミングでモンスターの強さも変化する……!」


 ベンは、つまりこう言っているのだ。


 今ダンジョンは、時間と共に構造が変化する"4次元ダンジョン"だってな……!


「……面白い……!」


 ベンの身震いが伝わってきた。

 きっと、挑戦的で不敵な笑みを浮かべているのだろう。

 見なくてもわかる。そして、再度確信する。


 コイツは、やっぱりチエの子供だ。

 複雑で、難しい問題に直面した時ほど、アイツもこうやって嬉しそうに笑みを浮かべてたっけ……。


 なあ、チエ。

 喜んでいいのかわかんねえけど、コイツも、お前と同じだ。


 どっか歪んでるんだけど、そこが最高にイカしてんだわ……


さらにちなみに、キンタ〇リオってキャラクターもいてな……

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