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32話 8逃げ勇者 捕縛される?

初めてレビューをいただけたので、嬉しくて連続投稿です、

「まったく、タネさえわかっちまえば呆れるほど簡単じゃねえか。人を舐めくさっとるゲームじゃの、こりゃ」


 盗賊親分に2度目の挑戦で勝利したカイエンは、次なるダンジョンのヒントを求めて森の町にやってきていた。

 周囲を見回しても、見知った顔ぶれの勇者たちが同じように町を散策している。


 先ほどのカイエンの言葉通り、攻略法が一度知れ渡ってしまえば"盗賊親分"の撃破は簡単である。

 会心の一撃の最低ダメージが33に設定されている以上、『8逃げバグ』さえ知っていればレベル1ですら勝利することができるのだから。


 そして、あの場に居合わせたのはカイエンだけではない。

 多くのプレイヤーたちが、《8逃げ勇者》の奇怪な行動と、その後に続くさらに不可解な戦績を目の当たりにしていたのだ。

 即座に攻略法が拡散し、勇者たちは次のフィールドに一斉になだれ込むことになったのだ。

 

「しかし、こんなレトロゲームにこれだけのプレイヤーが集中すると、流石に異様な光景になるな……」


 カイエンの視線の先には、無数の勇者たちが町の外に向かって歩いている姿が映っていた。

 それだけならばまだ見慣れた光景だったが、今回はさらに"おまけ"がついていたのだ。


「「「「ああ、勇者様。どうか私の娘をお助けください」」」」


 町の外に向かう勇者は、みんな揃って背後霊のようににマダムをピッタリとくっつけたまま歩いていた。

 揃いも揃って、薄気味悪そうに背後のマダムを見つめている。


「どうやら、あれが次のダンジョンに侵入するための"フラグ"ってわけか。しっかし、薄気味ワリイな」


 そうは言っても、攻略のためにはいつかは自分も同じ姿になる必要があるのだが。今はカイエンはその勇者たちの姿を静観することにした。

 

 盗賊親分の洗礼を受けて、カイエンはこのゲームの攻略スタンスを大きく変えることにしたのだ。


(このゲームは、一筋縄じゃ行かねえ。いや、一筋どころか、二筋三筋以上に捻くれ曲がった難易度設定だ。まともにぶつかっちゃ、絶対に攻略できん)


 カイエンは100万人以上のフォロワーを持つAランクギルド『鋼の盾』のトッププレイヤーである。当然、彼がゲームに捧げた時間と、そこから得た経験の多さは常人の比ではない。

 その豊富な経験から彼が導き出した結論が、『見』いわゆる静観である。


「とにかく、ヒントをかき集めるんだ。幸いと言うべきか、プレイヤーだけは吐いて捨てるほどいる。あいつらの挙動を観察して、クリアのための鍵がどこにあるのか、探すしかない」


 そういう意味では、先行してダンジョンに潜ってくれる彼らは貴重な『実験体』ともいえる。

 シングルプレイでは、ゲーム攻略のヒントは町の住民に聞いて回るか、あるいは自身の足で稼ぐしかない。しかし、これだけ多くのプレイヤーが無数の失敗を重ねてくれているおかげで、そこから得られる情報の方が貴重なのだ。


「同じことを考えているプレイヤーは他にもいるみたいだがな。噂では『獅子の牙』のカイル達は、もっと間抜けな戦術をとったらしいが……生憎と俺はそこまで気長じゃない」


 言いながら町の中を散策していると、見知った顔を見つけた。

 しかも、それはカイエンが誰よりも探し求めていた顔だった。


 100万人を超えるというプレイヤーの中でも、他のすべてに優先するほどに重要な相手。

 小柄な金髪の美少年。華奢な体に、今はやたらとごつい鎧と剣を装備していた。


「見つけたぞ……《8逃げ勇者》……!」


 カイエンの胸が高鳴る。盗賊親分の部屋で、彼の目の前に並んでいた勇者の姿。忘れるはずがない。

 そして、彼こそがこのゲーム攻略の最大の鍵。

 カイエンはそう断定していた。


 他のプレイヤーが何十人束になって、何百回死んで手に入れた情報であっても、彼一人が持つ情報に比べればごみのようなものだ。


「間違いない。あいつは、このゲームをプレイしたことがある。ひょっとしたら、クリアまで行ったやつかもしれない……!」


 足早に駆け寄る。幸い、と言うべきか、周囲のプレイヤーたちはまだ彼の存在に気づいていない様子だった。


「よう、久しぶりだな。あれからしばらく経つってのに、まだこのあたりをうろついてるとは思わなかったぜ」

「……」


 なるべく気さくに声をかけたつもりだったが、《8逃げ勇者》はジロリとこちらをにらんだだけで、あっさりと無視して通り過ぎようとした。


「おっと、久しぶりに会った()()に、そんなつれない態度はないだろ?」 


 勇者の前を塞ぐ。進もうとしていた勇者とぶつかりそうになる直前で、見えない壁にぶつかったように歩みが止まる。

 同時に、いつかダンジョンで散々聞かされた『ブブー』という効果音が鳴り響いた。


「……どいて」

「それは、お前の出方次第だ。お前から教わったことだ。このゲームではPKプレイヤー・キルはできない。他の奴がいるマスを進むことはできない。悪いが、少し俺の話に付き合ってもらうぜ」


「……」


 暗い目つきで睨まれたが、観念したように肩を落とした。どうやら、話を聞いてくれるようだ。


「……用件は何?」

「どうだ、俺と組まないか?」


「……どうして?」


 ぶっきらぼうにそれだけ質問されたが、カイエンはあらかじめ用意していた答えをつらつらと並べ立てる。


「お前、ID非公開にしてるだろ。それじゃあ賞金はもらえない。だから、オレが代わりにクリアして、賞金を山分けしてやるよ」

「……随分都合のいい取引だね」


「お前にしちゃあ、取り分ゼロのところが5千万ドルになるんだ。悪い話じゃねえはずだ。それに、その後は俺のギルドに加入することも認めよう。国内屈指のAランクギルドに、エース待遇で迎え入れてやる。どうだ?」

「賞金は要らない。ギルドとか言うのにも、興味はない。それじゃ、さよなら」


「なっ……!?」


 取り付く島もない《8逃げ勇者》の返答に、カイエンも思わずたじろいでしまった。完全に予想の埒外にある返答だったからだ。

 正直言って、条件交渉をしてくるだろうと思っていたのだ。賞金の分配比率。ギルド加入後の待遇など。


(しかし、そのどちらもバッサリと切り捨てやがった……!)


 金も名誉もいらないとなって、いったいこの少年はどんな理由でこんなムリゲーをプレイしているというのか。

 ますます好奇心が沸いてくるカイエンだったが、食い下がろうとした刹那、会話は別の者に強引に中断させられた。


「ようやく見つけたぞ、《8逃げ勇者》。お前の持ってる情報、洗いざらい吐き出してもらおうか」


 二人の間に割って入ったのは、見知らぬ風貌の勇者だった。

 カイエンは咄嗟に相手のIDを検索する。すると、意外なギルド名がそこに記されていた。


「『獅子の牙』の新参プレイヤーか。少しは礼儀をわきまえろ。その少年と話をしていたのは俺の方だ。勝手に割り込むことは許さん」

「……オッサンとも話すことはもうないんだけど……」


 迷惑そうにつぶやく少年をよそに、新参プレイヤーは下から目あげるような挑発的な態度でカイエンに迫って来る。


「なんだよ?順番とか知ったことかよ。こっちはAランクギルド『獅子の牙』のメンバーなんだよ。テメエみてえなロートルプレイヤーがおいそれと口を聞ける相手じゃねえんだ。わかったらさっさとどこかに消えな」


 カイエンは、大きくため息をついた。


「はぁ……Aランクギルドのプレイヤーのくせに、目の前の相手のID検索もできんとは……『獅子の牙』も、底が知れたな」


「んだとぉ!?」

「イキがっても無駄だ。どれだけ暴れようと、お前は俺に危害を加えることはできん」


 「うるせえ!」吐き捨てると、新参プレイヤーは少年に向き直り、しつこく食い下がっていた。


「テメエみてえなチンケなガキが、俺達にみたいな偉大なギルドに貢献できるんだ。それだけでも光栄に思うんだな」

「うるさい、どっか行け」


 いよいよ不機嫌のボルテージ上がってきたのか、少年の口調も目線も一層険しくなっていた。

 しかし、新参者は意に介さず、高圧的な態度も崩さない。


「あっそ、てめえがそういう態度をとるんなら、こっちにも考えがあるぜ」

「好きにしたら……?そこのおっさんが言うように、どうせボクには手出しはできないよ」


 新参者は、少年の背後に回り込み、その背中にぴたりとくっついているマダムに剣を突き付けた。


「……ヒッ」


 青ざめるマダム。その様子に満足そうに微笑む新参者。


「テメエは知らねえようだがな。このゲームは勇者以外の一部のキャラを攻撃することができんだよ。そのババアみたいに、戦闘には参加しないが勇者に同行するNPCにもきっちりとHPが割り振られてて、それがゼロになれば死ぬんだ」

「……おばさん!」


 マダムを庇うように手を伸ばす少年。しかし、新参者は執拗にその背後を付け回す。


「そのババアがダンジョン攻略のフラグなんだろ?いいのか?このままだと満足にゲームをプレイすることすらできなくなるぜ?」

「……このゲスが」


 怒り心頭のカイエンだったが、残念ながら彼にも手出しはできない。プレイヤーには、NPCを攻撃することはできても、守ることはできない。


「ようやく自分の立場が分かったようだな?わかったら、素直に情報を吐くんだな」


 剣を突き付けながら愉悦の表情を浮かべる新参者。


 すると、カイエンの目の前でまたも不思議な現象が起こった。


 いつかの洞窟の再現のようだった。少年勇者の纏う気配が突然がらりと変わったのだ。

 少しコミュ障気味の少年から、老獪さを感じさせる熟年ゲーマーの眼光に。

 目つきの変わった《8逃げ勇者》は、何やら意味不明な独り言を言い始めた。

 

「今回はサービスだ、ベン。森の攻略とは無関係な案件だし。なにより、先輩として一言説教を垂れてやりたくなったからな」

「何わけわかんねえこと言ってんだ、テメエ!?」


 語気を荒げる新参者に、《8逃げ勇者》は太々しい笑みを浮かべてこう言い返した。


「カイルの馬鹿に言っとけ。いくら人材不足でも、メンバーの人選くらいは真面目にやれ……てな!」

 

こう言うバカがいてくれると、話が書きやすいなあ。

次回は新参者が血祭りにあげられます。

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