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31話 カイルの苦難

微ざまあ展開です。

「クソっ!人を馬鹿にするのもたいがいにしろ!」


 教会に運び込まれたカイルは、全身をべっとりと濡らす粘液をぬぐいながら、悪態をついた。

 もう、何度目になるかわからない教会への強制送還。"最速・最短攻略"を売りにしていたカイルにとって、この上ない屈辱であった。

 怒りで目が眩み、罵詈雑言が口から零れ落ちる。


「〇△〇〇!」


 吐き出された言葉は、意味のない音声に勝手に変換され、教会の中に虚しく響いた。ユグドラの設定で、不適切な発言は外部に漏れないように設定されていたのだ。

 カイルの発言に呼応するように、右脇にいくつかのウィンドウが表れ、メッセージを表示していった。


『カwイwルwさwんwww』

『いつもいつも、見事なやられっぷり、ごちそうさまです!www』

『カイルさんくらいですよ。未だにスライムにボコられてるプレイヤーはwww』


 大量に草が生えたウィンドウを見向きもせずに、カイルは教会を後にした。

 すると、今度は左脇にウィンドウが表示される。先ほどとは違い、そちらの画面には目を向ける。


『カイルさん、お疲れ様です。』

「ああ……。それで、どうかしたか?」

 

 不機嫌を隠しもせずに画面の向こうの相手に話しかける。相手は、同じギルドの広報担当だった。


『今月の成績が上がってきました。残念ながら、戦績は最悪です。Aランクの中でも最下位を独走です……』

「……だろうな。なにせ、メンバー全員でこのクソゲーをプレイしてるんだ。戦績なんて上がるわけがない」


 げんなりとした顔で町の外に向けて歩き始める。

 しかし、続く広報担当の声は、明るくはずんでいた。その理由が予想できていたカイルは、それでも不機嫌なまま重い足を引きずっている。


『でも、すごいですよ。この2週間で、フォロワーが一気に倍にまで膨れ上がりました』

「……だろうな。さっきから俺の()()を称賛する書き込みが後を絶えないからな……」


 ギルドメンバー総出で攻略に挑んでいるこのゲーム。カイルが攻略の要としていた"情報"が全く入手できなかったため、彼は戦略を大きく変えざるを得なかった。

 簡単に言えば、自分達で情報を入手することにしたのだ。


 その結果、カイル達メンバーは全員、すべからく、あまねく、このゲームの洗礼を受けることになってしまったのだ。しかも、他のギルドと違って総当たりでプレイしているため、ゲームに仕掛けられた罠にすべてひっかかるという有り様だ。

 しかし、あまりにも見事なやられっぷりを聞きつけたユーザーたちが、笑いのネタを求めに、こぞってこのギルドにフォロー申請をしたのだ。


『この短期間でここまでフォロワー数が増えたことって、私の経験では初めてです。これって、凄いことですよ!』


 興奮気味に語る広報。

 事実、先週はあれほど威圧的だったスポンサー企業たちの姿勢も、この数字の前には姿勢を軟化させるほどだった。

 企業にとって、最も重要なのは広告効果である。故に、ランクよりもフォロワー数、もっと言えば彼らのプレイを見に来てくれる人の数こそが重要なのだ。


 「君たちのギルドは、いつの間にかイロモノ集団に方向転換したのかね」という台詞さえなければ、カイルの留飲も少しは下がっただろうが……。


「ゲームってのは、要は数字の羅列でできてんだ。このゲームは、その数字をはじき出す仕組みがとんでもなくひねくれてるが、数字の総量自体はカセット一本分、大したことはない。だから、今は非効率でも基礎的なデータ収集が、最終的にはゴールへの近道になるんだ」

『……』


 その結果、散々死にまくった挙句に「教会専属勇者」や「祈リスト」、あるいは「歩く死亡フラグ」などと言う不名誉な肩書を付けられてしまったカイルであるが、それでも彼は自分の戦術を曲げなかった。


「馬鹿どもに笑われるのは我慢がならねえが、それでもこのゲームは絶対にクリアする」

『正直言って、私もこんなやり方でクリアできるとは思えないです。他のプレイヤーも、何人か脱退者が出ています』


「そんなクズども、もともとここには必要ない。俺のやり方が気に入らなければ、さっさと辞めればいい」

『……』


 またも沈黙する広報。

 ギルド創設からカイルのプレイスタイルを見てきた彼女には、今のカイルは全く別人のように見えていた。

 もっとスマートで効率的なプレイをする人だと思っていたのだ。実際、このゲームをプレイするまではそのお手本のような攻略スタイルだった。


 しかし、今のカイルの姿は、泥臭く、滑稽で、間抜けですらある。

 そんな彼の姿に幻滅し、去っていくものは確かに多い。ひどい場合は、フォロワーに回って、カイルを嘲笑する書き込みをする者もいるくらいだ。

 そんなカイルに、とある古参プレイヤーの姿が不意に重なって見えたのだ。


『今のカイルさん、まるでツト……』

「言うんじゃねえ!」


 怒声を上げてウィンドウを閉じる。

 悔しげに地面を殴りつける。虚しいエラー音だけがこだまするが、それでもカイルは地面を殴り続けた。


「クソっ!……クソっ!……クソが!」


 ゲームの設定上、いくら地面を殴っても勇者にダメージはいかない。しかし、拳に痛みを感じ始めて、カイルはようやく殴るのをやめた。


(わかってんだよ!そんなのは!俺が、誰よりも!あんなクソダサいオッサンのプレイスタイルをやるなんてのは、最大級の屈辱だってんだ!)


『あれ以降、ツトムさんがログインした経歴はありません』

「……」


 これ以上叫んで広報を黙らせても、またいたずらに嘲笑をあおるだけだ。

 カイルは黙ったまま町の外に向かって歩き始めた。


『そういえば、カイルさん。攻略情報について、有力なプレイヤーの噂が流れてきました』

「……なんだ?」


『誰も倒せなかった"盗賊親分"を撃破したプレイヤーが現れたそうです。しかも、初見で、いきなり!』

「まさか……攻略者(プレイ済み)が現れたのか?そいつの名前、IDは?」


『それが、非公開のようでして……』

「はあ!?今時、非公開でこのゲームをプレイする奴がいるのかよ!?ID非公開ってことは、クリアしても賞金ももらえない。フォロワーもつかないし、もちろんランクもつかねえ。そんな条件でこのゲームをプレイする意味なんて、ねえだろ!」


 カイルが絶句していると、広報は次の情報を読み上げる。


『そうなんです。だから、他のプレイヤーたちも彼を探して回っているんですけど一向に見つからなくって……』

「そりゃそうだ。ID非公開じゃ検索のしようもないからな」


『ネット上では話題になってるようで、彼の情報自身にも賞金がかかってるみたいです』

「俺がこのゲームにはまってる間に、とんでもないことになってたんだな」


 よく分からない状況に、カイルの毒気もすっかり抜けてしまったようだ。

 呆れたように、広報の声を聞き流している。最後に、広報はこう付け加えた。


『とりあえずってことで、その勇者にはこんなあだ名が付けられて宣伝されているようです。──8逃げ勇者を探せ!──と』

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