28話 迷いの森 その2
迷いの森と言ったら、いろんなギミックでプレイヤーの心を折りくるダンジョンですね。
さて、本作の森はどんな仕様なのでしょうか。。。
迷いの森に入り込んで、すぐに敵は襲ってきた。
画面が暗転し、聞き慣れた効果音とBGMが周辺に響く。
─怪力ネズミが現れた─
メッセージと共に、目の前にはずんぐりむっくりとした見た目のネズミが3匹並んでいた。
いったい、あの見通しの良い森の中の、どこにこんな奴らが隠れていたのか。
昔のベンなら、そんな当たり前の疑問を漏らすところだろうが、今ではそんなそぶりは微塵もない。
いい加減に慣れたこともあるだろうけど、なによりも目の前の敵に集中しているんだ。
「……初めて見るタイプの敵だね」
「そうだな」
緊張で小声になるベンに、俺はいつもの通りの暢気なテンションで返事する。
さっき言った通り、俺は今回は手出ししない。操作権も、そのフィードバックも、全てをベンに委ねてある。
つまり、自分で選んで、自分のそのダメージを背負うってことだ。
「で、どうする?わかってるだろうが、戦闘はターン制。お前が選ばなきゃ状況は動かねえぞ」
「……決めた」
元々そうするつもりだったのか、ベンは迷わず自分のターンを決定した。
─勇者は身を守っている─
手にした銅の盾を構える。
防御を選択した時点で、左端に並んでいたネズミがタガが外れたように急にこちらに襲いかかってくる。
こっちのターンが終わったため、モンスターが自ターンで攻撃を実行したんだ。
「……来た!」
身構えるベン。握った盾を、自分の身代わりにするかのようにネズミの前に突き出す。
構わずにネズミが拳を振り上げ、盾もろともこっちを吹っ飛ばす勢いで殴りつける。
─怪力ネズミの攻撃 勇者は4のダメージを受けた─
「――った!腕が痺れる」
「気を抜くな、あと2匹いるぞ」
オレの声を聴くまでもなく、ベンは集中を切ってはいなかった。どうにか攻撃をしのぎ切る。
え?アドバイスしないつもりだったんじゃないかって?うっさいわ!こういうのは、もはや反射的に出ちまうもんなの!
「……怪力って名前のくせに、そんなに痛くない」
「ま、お前の防御もうまいんだよ」
お世辞ではなく、事実をオレは告げる。
このレベルでネズミの攻撃を喰らったら、防御してても大体6くらいのダメージを受けるはずだ。
「やっぱ、お前センスあるよ。ゲームの神様に愛されてんだ」
「……それって……この前言ってた"乱数"の話?」
ベンの問いに俺は黙って頷く。
このゲームの世界を支配している法則の一つに"乱数"ってもんがある。仕組みはこの前説明したからいいよな?
戦闘中にも当然その抽選は行われていて、攻撃・防御のダメージ計算に使われてんだ。
敵の攻撃力・勇者の防御力・そして乱数。この3つで被ダメは決まるが、最後の乱数を決定するのはプレイヤーだ。
簡単に言えば、コントローラのボタンを押すタイミング。くじ引きに手を突っ込むのと同じ。
だから、基本的に値は一定のばらつきを持つ。
ところが、世の中には選ばれた者だけが使えるスキル、"乱数調整"ってもんが存在している。言ってしまえば、インチキ(チート)のことだ。
人間体感機って概念も存在するらしいが、今は内緒にしておこう。
とにかく、乱数を調整することは基本的に不可能ってことだ。
「……ボク、必死で盾を構えてただけなんだけど……」
「敵との間合いの取り方、盾の角度、色々とあるんだろうよ」
基本的に、と言ったが、実はこのユグドラこそが唯一の例外でな。
このコントローラは、プレイヤーの動作をゲーム機に入力するという特性の副産物として、限定的にゲーム機の乱数を調整できるようになっている。
複雑すぎる人間の動作を、シンプルなゲーム機の入力端子に流し込む過程で起こったことらしい。
「ま、気にするだけ無駄だ。乱数に干渉できるとは言っても、その法則はプレイヤーには全く見えないんだからな」
そう、腕を上げる角度が1ミリ変わっただけでも結果は大きく変化する。
完全な再現をするなんて不可能なんだよ。
ただし、コイツのように、極稀に自分の都合の良い乱数を引き続けるプレイヤーってのは存在する。
だから、オレはそういうやつらを天才と呼ぶことにしていた。
「で、どうする?2ターン目だぜ」
「……攻撃する。きっと、急がないと"アレ"がやってくるんでしょ?」
ベンの名推理に、オレは黙ったまま、心の中で舌を巻いていた。やっぱ、頭いいわ。コイツ。
「……とにかく、一体に攻撃を集中する。数を早く減らさないと、危ない」
ベンの読みは正しい。
怪力ネズミの特徴は、頻繁に繰り出してくる"痛恨の一撃"だ。
勇者の"会心の一撃"と同じで、防御力無視の大ダメージを与えてくる。
したがって、ベンが言う通り、敵の数を早く減らして攻撃回数を少なくするのがセオリーだ。
そして、この手の敵はセオリーを外さなければ負ける可能性は低い。
いや、結局"痛恨の一撃"を喰らうかどうか、の運ゲーなんだけどさ……。
─怪力ネズミを倒した。勇者は15の経験値、30ドルを手に入れた─
画面が暗転し、再び森の中に戻ってくる。
戦闘に参加できないマダムが、再び背後にぴっとりと密着してくる。
これがなくなる分、戦闘モードの方がちょっとマシな気がしてきたぞ……。
「……おばさん、これから森の中に入るよ」
そう言って、森の探索を始めるベン。
このゲームの、というか、この時代のゲームのダンジョンのつくりは大体どれも一緒だ。
四角く区切られたエリアのなかに、いくつかの分かれ道があって、エリアの端まで進むと次のエリアに移動する。
ゲーム機の容量が少ないため、ダンジョン内のエリアはそれほど広くない。頑張れば端が見通せることだってある。
そして、それはこのドルクエも同じで、しかもユグドラでプレイしても変わることはない。
「……迷いの森なんて言ってるけど、見通しは悪くないし、これならなんとかなるかな」
ベンの声に、若干の余裕が混じっているのをオレは聞き逃さなかった。
戦闘にも慣れ、ゲームにも慣れてきたことで、少し心にゆとりが生まれてきたのだろう。
少しだけ、このゲームを楽しもうという気持ちすら感じ取れる。
だが、甘い!
このゲームはそんなにプレイヤーをもてなすような優しい設計にはビタイチなっちゃいないぞ。
しばらく探索を続ければ、嫌でもこのダンジョンの恐ろしさを思い知ることになるさ。
なにしろ、このダンジョンはその名の通り『迷いの森』なんだからな……!
え?さっきの台詞、勇者じゃなくて魔王側のポジションだって?
いいんだよ!これが、このゲームの正しい楽しみ方なんだからな!
プレミアフラグ叩き出す 己がヒキを高めろ 人間体感機




