27話 迷いの森 その1
ようやく本編再会です。
「ああ、勇者様。どうか、私の娘を探してください!エルフの男なんかと駆け落ちして、東の森に消えてしまったのです!」
「……ウン、イイヨ……」
半ば投げやり気味にベンが答える。こいつ、もう少し感情込めてゲームに挑めっての!
とはいえ、一応これでも成長したと褒めてやるべきかな。今までは「どうして?」とか言って、冷たく突き放してばかりだったからな。
ようやく一端の勇者っぽくなってきたかな。
「ありがとうございます!それでは、私もお供します」
「え、ちょっと待って……!」
ベンが抗議の声を上げるがもう遅い。会話が終わると、今まで会話していたマダムがベンの後をついてくる。
「イベント成立だな。今回は、このおばちゃんを迷いの森の最深部、娘の居場所まで連れて行くのがミッションだ」
「……分かったけど……ちょっとこれ……」
困惑気味のベンの声。
いや、確かに今回ばかりはお前の言いたいことに同調するぞ。
「ねえおばちゃん、もうちょっと離れてくれない?」
「おお、勇者様。私は娘のことが心配で、仕方ないのです。どうか、私を娘のところまでお導きください」
引き離そうとするが、マダムは微動だにしない。ベンのすぐ背後、もはや耳元でささやくような距離でひたすら娘を心配する声を上げ続けている。
「……オジサン。これ、ずっとこのままなの?」
「どうやら、そうみたいだな」
このイベントでは、マダムが一時的にNPCとしてパーティに加入する。
とはいっても、別に戦闘には参加しないし、何かあっても助けてくれもしない。ただひたすら、1マス後ろをついてくるだけの存在だ。
しかし、俺達はこのゲームの”1マス”の距離感をすっかり忘れてしまっていた。
パーソナルスペースなんてお構いなしのゼロ距離密着状態である。
「……これ、キツいなんてもんじゃないんだけど……」
「安心しろ、俺も同じ気持ちだ」
「……何の解決にも、慰めにもなってない」
「グダグダ言わず、とっと森へ行け。この状態を解決するには、イベントを終わらせるしかないんだよ!」
かくして、俺達はかつてないほどのやる気を漲らせ、新しいダンジョンへと進むのであった。
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「……そういえば、最近ほかの”勇者”って人を見るけど、あれは何なの?」
迷いの森への道中、ベンがそう尋ねる。背後のマダムが、声に反応して何やらぶつくさ言っているが、いい加減無視することができるようになってきた。
「ああ、この前の盗賊の洞窟にいたやつらだろ?あれは、他のユグドラからこのゲームにダイブしてきた連中だよ」
「……こんなゲームに?あんな大勢?」
ベンの口ぶりから察するに、こいつ、何も知らないままこのゲームプレイしてたんだな。
「ニュース見てないのか?このゲームの早解きに懸賞金がかかってんだよ。なんか、とんでもない額らしい」
「……こんなゲームに?そんな大金?」
納得いかない様子だが、それは俺も同じだ。
ユグドラの発売元であり、チエが勤務しているはずの『ノルン』がぶち上げたイベントらしいが、まったく、意味が分からん。
「……でも、あの洞窟を抜けてからは、周りに誰もいなくなったね」
「お前も見てたろ?あの盗賊親分を正攻法で倒すのはまず無理だからな。他の勇者様は、当分あそこで足止めだよ。もっとも、俺達が親分を倒す姿は何人かに見られてるから、そのうちカラクリに気づくやつも出てくるかもしれないがな」
「……じゃあ、ひょっとしてボク達、今一位なのかな?」
「そうかもな」
あっさり俺がそう答えると、ベンが不満げな声を漏らす。
「……オジサン、大金がもらえるかもしれないのに嬉しそうじゃないね」
はあ~、とオレは大きくため息をつく。
こいつは何もわかっちゃいないな。
「なあ、ベン。お前はこのゲーム、大金が手に入るからプレイしてんのか?」
「……ウウン、違う」
「だろ?俺だってそうだ。金が欲しいだけだったら、もっと他のことを仕事にしてたさ。二人でこのゲームを楽しむ。それが今回の目的だ。それを忘れんな」
「……そうだね」
珍しく殊勝な態度じゃないか。これくらいの子供なら、いくら天才児といっても”大金持ち”というパワーワードには心ひかれちまうのも無理はないか。
いや、オレだってできればお金は一杯ほしいよ?そしたらいろんなゲームがどんどん買えるし、夢の2画面同時プレイとかもできちゃうわけだしさ。
でもそうじゃない。俺は、ゲームが好きだからゲームをやってるんだ。
そして今は、このゲームの楽しさをこいつに教えるためにも、余計な雑念は取っ払う必要がある。
「……それにしても、あんなに大勢がダイブしても、賞金をもらえるのは一人だけなんでしょ?無理だとわかってても参加してる人もいるんじゃない?」
「まあ、そういう奴も中にはいるだろうが、そいつらにはそいつらなりの別の目的があるのさ」
「……別の目的?」
「ああ、”PV稼ぎ”だよ。有名なゲームをプレイしてると、そのプレイ画面を閲覧する一般視聴者も多くなる。Eスポーツプレイヤーにとっては、視聴者数も重要な要素の一つだ。だから、大作ゲームが出たら誰よりも早くプレイするし、過去の名作なんかを掘り起こしてやり込みプレイする奴なんかもいる」
ちなみに、俺のプレイ動画のPV数は平均5000人だった。
カイル達トッププレイヤーが100万人超えたりするのと比べると、雲泥の差だった。そりゃあ、解雇されても文句は言えんかったかもな!
でも、俺のプレイスタイルが好きで、36時間もぶっ通しで視聴してくれる、コアなファンだってついてたんだぜ?
いや、それでも深夜になると数十人まで落ち込むんだけどさ……。
うーん。やっぱり俺って、Eスポーツプレイヤーとしては落第生だわな。
でも、俺はそのスタイルを変えないぞ!?ていうか、いまさらそう簡単に変えられねえって!
「……オジサン、それじゃあ……今のボク達のプレイも誰かに視聴されてるの?」
少し不安そうなベンの声。そういえば、こいつにはユグドラの仕組みについては全然教えてなかったな。
「安心しろ、お前のIDは”不可視”状態にしてある。他のやつには見えないようになってるさ。よく考えろ、一人でプレイしたいのに無関係な観客にわいわい騒がれたらゲームに集中できないだろ?ユグドラには、ちゃんとそういう機能が備わってんだよ」
「……そっか、よかった……」
「おお、勇者様!アレが迷いの森です。どうか、娘が無事でありますように……!」
なんやかんや話し込んでいるうちに、目的地に到着したらしい。
先頭を歩いていた俺達より、すぐ背後を歩いていたマダムの方が先に気づくのもなんだかな……。
「言っておくがベン。ここの攻略は並大抵の難易度じゃないぞ、覚悟しとけ」
「……ウン!」
勇者の体が緊張にこわばるのが伝わってくる。こいつも、それなりに難関ダンジョンに挑む心構えができているらしい。
少しずつだが、このゲームにはまってきている証拠だな。
チエ、安心しろ。お前の息子は、俺が立派なゲームオタクに仕上げてやるからな!
え……そこまでは頼んでない?いやいや、こいつもチエの子なら、その素質は十分ある。
しっかり見てなって!
お約束のゲーム展開ですが、はたして今回はどんなムリゲー要素があるのやら。




