24話 少年時代回想 乱数
実際のゲームは、こんなに面倒な乱数生成してないみたいです。
製作者の、異端にして天才たる所以とでも思ってください。
「いいかしら、ツトム。今からアンタでも分かるように、乱数について簡単に説明してあげるわ」
「……」
完全に据わった眼をしてチエが腕まくりをする。俺は、その様子をただ黙って見ているだけだった。
「乱数って言うのは、文字の通り乱れた数字のこと、規則性のない数字の並び。ねえツトム。1,2,3ときたら次に何が来るかわかるかしら?」
「そりゃあ、4じゃねえの?」
「その通り。じゃあ、5,14,71,26ときたら?」
「そんなの、分かんねえよ」
「正解よ。法則性がなく、次の数字が予測できない数字を乱数というの。ちょうど、こんな感じにね」
ガラガラガラガラ……
乾いた音を立ててクジ引きの機械が回る。さっきレジでもらった福引の抽選券を見てこれをやるのを思いついたらしい。
何回か機械を回すと、白い球が出てきた。
「今、私たちはフィールドを一歩進んだところよ。何も起こっていないように見えるけど、実はマスを一歩進むごとに乱数生成が行われていて、敵との遭遇の判定をしているの。白の玉はハズレ、つまりエンカウントはしなかったことを意味するわ」
言いながら、チエは続けざまにくじを回し始める。白、白、白、と続けてハズレの玉が出てくる。
しかし、やがて……
「お、赤い球……。3等賞か……」
「これでめでたく敵との遭遇よ。3等賞はさほど珍しくないから、当たり障りのない敵が出てきたってところね」
完全に冷め切った声でつぶやく俺。普通ならアタリが出れば鐘を鳴らして祝福してくれるクジのおっちゃんも、俺の隣でやることもなさそうにチエの説明を聞いていた。
「つまり、ゲームをやってる最中は、しょっちゅうクジ引きをしてるってことだよな?」
「そんなに簡単な話じゃないの。黙って最後まで聞きなさい」
いい加減恥ずかしくなってきたので話を終わらせようとした俺にも、チエは一向に取り合ってくれない。
しかも、次にチエがとった行動がさらに俺の度肝を抜いた。
「おい!いくら何でもそんなことしたらガラガラが壊れるだろうが!」
聞いて驚け!チエは出てきた玉をガラガラの中に戻して見せたんだ。
せっかく引いたのに、全部元に戻ったじゃねえかよ。
「この装置はそんな変な名前じゃないわよ。新井式回転抽選器って、立派な名前があるんだから。中の構造は極めてシンプルよ。玉が数個収まる溝が切られていて、外に出るための”返し”が付いてるだけ。こんなことぐらいじゃ壊れたりはしないわよ」
平然と答えるチエ。ほんと、シチューの具材も知らなかったくせに、変なところの知識だけスゲエんだよな。
「エンカウントの場合、一度敵と遭遇したり、町に入ったりするとこうやってリセットされるの。そうしないと、そのうち一歩歩くたびに敵と戦う羽目になるものね」
言いながら再びガラガラ……じゃなくて、新井式回転抽選器を回す。
すると、今度はいきなり光り輝く黄金の玉が出てきた。
「お!金玉……いてっ!」
「下品なこと言うんじゃないわよ!」
思わずつぶやいた俺に、チエが容赦のない拳骨を落とす。顔を真っ赤にして、何恥ずかしがってんだ、こいつ。
周囲にいる大人たちがジロジロ見てくる目線は全く気にしないのに、こんなギャグひとつで怒るなんて、変な奴だな。
「と、とにかく、今度は特賞ね。滅多に出現しないレアモンスターとの遭遇よ。さしずめ、半グレメタルといったところでしょうね」
「イテテ……まあ、大体言いたいことは分かったよ。定期的に新品に入れ替わるくじを引かされてるってことだよな」
「その通り。出てくる玉が乱数。そしてこの新井式回転抽選器が、乱数生成器。乱数生成の方法はゲームごとに違うから、ドルクエに搭載されているのがどんな仕組みで、どこまでの範囲の乱数を生成しているのかを確認していたの。分かったかしら?」
「ああ、なんとなく……な」
呟く俺。ようやく話がひと段落したのを見計らったのか、隣のおっちゃんが恐る恐るチエに声をかける。
「お嬢ちゃん、そろそろ商品を持って帰ってもらえんか?もう、気が済んだろう?」
「……ハッ!?」
おっちゃんの声に、ようやく我に返ったようでチエの目が元に戻る。
こいつ、どんだけ長時間あっちの世界に行ってたんだよ……。
「こ、これは一体!?」
おいおいおい、記憶でも飛んでたのかよ!?
チエは、初めて見るような目で、自分の背後にある大量の食料品とくじ引きの景品を眺めている。
「ツトム、事情を説明して!」
「オマエはくじ引きを使って俺に乱数の説明をしようとしたんだが、自由にくじ引きの機械を使うために店中の商品を買いあさって、くじ引きの券を買い占めちまったんだよ……」
頭を抱えてチエが絶叫する。
「こんなに大量の食料品、どうすんのよおおおお!」
「知るか!自分で買ったんだろうが、全部食え!」
冷静な俺のツッコミに、チエがすがるような目で訴えてくる。
くう……子犬の様に可愛らしい表情だぜ……!
そんな顔されて、それでも見捨てられるなんて、そんなの男じゃないよな。
頭を掻きむしりながら、仕方なく俺はこう呟いた。
「仕方ない……。俺が良いところを紹介してやるよ」
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