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23話 少年時代回想 残夏

時系列がポンポン飛んでわかりにくいですが、過去回想です

「なあ、チエ……。やっぱり家に戻ろうぜ。俺、もう冷房のない場所じゃ生きていけねえよお」

「何だらしないこと言ってんのよ。それに、晩御飯の買い出しに行くって言いだしたのはあんたじゃないの」


 だだっ広い庭を玄関に向かって歩いていくチエ。真っ暗な庭に、煌煌と明かりが灯っている。まるで霧がかかってみるみたいに薄ボンヤリした明かりの中に、チエの赤いワンピースがひらりと揺れる。

 ゲームにしか興味のない俺でも胸が鳴った。奇麗に編み込んだ黒髪と、清楚な顔立ちによく似合っていた。


 いや、そのワンピースをアイロンがけしてやったのは俺なんだけどさ。

 チエのやつ、自分じゃできねえって言う癖にこれが着たいって、言うこと聞かないんだもんよ。お手伝いさんにやらせればいいのに、何故か俺にやらせようとするんだよな。


 どうやら、お手伝いさんにあまり厄介になりたくないように見えるんだが、その辺はよくわからん。


「早くしないと、近所のスーパーが閉まっちゃうわよ。急ぎなさい!」

「へいへい……」


 俺がチエの家に居候して、もうすぐ一か月が経とうとしていた。

 その間、炊事洗濯掃除と、家事全般を俺に押し付けてきやがったからたまったもんじゃない。


 まあ、クソ親父と二人で育ってきた俺の手にかかれば、そんなのちょちょいのチョイだけどな!

 唯一、ご飯の買い出しだけは二人で行くしかなかった。何しろ、俺はお金をほとんど持ってないし、チエに買いに行かせたらレトルト食品か、調理法が全く分からない高級食材しか買ってこないんだから仕方ない。


「しかし、スーパーが閉まる時間まで気にするようになるとは、チエもだんだんと所帯じみてきたもんだよな」


 感慨深げに頷く俺。最初なんて、本当に大変だったんだぞ?

 墨田チエという女は、まったくもって生活能力が欠けてたんだ。俺が来るまで、いったいどうやって生きてこれたのか不思議で仕方ない。


 その反動、というか、一度集中したものに対してはすさまじい勢いで習得していった。

 要は、その気になれば何でもできるけど、その気にならなかったから何もしてこなかったってことだな。


「今日は、ビーフシチューに挑戦するんだからね。きちんとしたお肉を買うためにはスーパーじゃなくて商店街の端っこにある精肉店まで行かなきゃなんないわよ?」

「へいへい、一度ハマったら徹底的にやるんだよな」


 頭の後ろで腕を組んで、たらたらと後に続く。

 特にチエが熱中したのは料理だった。理由はよくわからんが、俺が初めて振舞ったカレーライスにとても感動したらしい。作り方を教えろと、そりゃあもうすさまじい勢いだった。


 包丁の使い方が分からんから手取り足取り教えろとか言って、本当に背後から抱きかかえるようにして両手を握らされた時はどうしようかと思ったぜ。

 とにかく、やることを決めたらそれ以外に目がいかなくなる典型だな。


「そういえば、もうすぐ夏休みも終わるな。なんだかあっという間だったぜ」

「なんだかんだ言って、家にこもってゲームばかりやってたしね。その割には、全然進んでないみたいだけど……」


 どこからともなく聞こえてくる虫の音を背にして、チエと商店街までの道を歩く。

 ああ、夜風が気持ちいい……。


 じろりと睨みつけてくるチエの目線を無視しながら、汗をかかないギリギリの速度を維持する。俺がわざと無視しているのを見抜いたらしく、かまわずにそのまま話を続けるチエ。


「大体、あんたのプレイは効率が悪すぎんのよ。どうして、わざわざ一度通った場所を何度も行き来するわけ?」

「どうしてって、そりゃあせっかくのゲームなんだからあちこち見て回りたいじゃんか。それに、同じ場所は通ってないぜ?一度通った、”隣の道”を歩いてんだよ」


「何言ってんの。私たちはフィールドを俯瞰で見てるのよ?画面の中に何があるかなって一目瞭然じゃない」

「分かってねえなあ」


 チッチッチ、と指を振って見せる。


「どこに何が隠れてるのか、行ってみないと分かんないじゃねえか。それに、俺はゲームの主人公になり切ってんだよ。勇者が歩いてるときに見える景色を想像してみろ。隅々まで探検してみたくなるはずさ」

「……あんた、よくそこまでゲームに没頭できるわね……」


 お前に言われたくねえよ!という言葉をぎりぎりで飲み込んだ。

 確かに、ゲームに関して言えば、俺もチエに負けないほどに集中するタイプだ。

 いいや、料理の腕だってまだまだ負けちゃいねえけどな!


「そういうチエだって、なかなか変わったプレイスタイルじゃんか」

「そうかしら?」


 スーパーに到着。ああ、冷房って偉大だ……。

 シチューの具材をかごに放り込みながら、チエが不思議そうに小首をかしげる。

 こいつのこういう仕草、憎めないんだよなあ。


「なんだか、リズムをとるみたいにボタンを押したりするじゃんか。それに、お前だって俺みたいに同じところに何度も出たり入ったりしてるしよ。あれは、ゲームを攻略するためのプレイには見えねえわな」

「そんなことないわ。アレにはれっきとした理由があるのよ」


 レジに並んで会計を待つ間、チエはいつもの調子で解説を始める。


「あれは、乱数の生成条件を調査してるの」

「らん……すう……?」


 急に知らない言葉が飛び出してきた。頭を抱えて、思考が一瞬停止する。

 ため息をつきながら、チエが説明を続けてくれた。


「敵に攻撃すると、ダメージが入るでしょ。あれは、自分の攻撃力と敵の防御力を参照して決定されるの。例えば、勇者の攻撃力が20。ゴブリンの防御力が15だとして、『20-15=5』みたいにね。でも、実際にやってみると毎回敵に与えるダメージは違うでしょ?アレはどうしてだと思う?」


「……敵の防御力が毎回変化するから!」


 俺の会心の返答に、チエは珍しく困ったような表情を浮かべた。

 コイツ、本気で悩むときには眉間にメチャクチャ皺が寄るんだよな。


「惜しい、わね。ほとんど正解といってもいいわ。正解は、ダメージの計算式に毎回ランダムに数値を割り振って掛け算してるの。『(20-15)×A』みたいな感じよ。このAという値こそが、乱数と呼ばれるものの正体なの」

「なるほど、よくわからん」


 会計を済ませてお釣りをもらうチエ。俺の返答に多少イラついたのか、こめかみがヒクついている。

 すると、不意にお釣りをもらった手に目線をやる。そこには、一枚の福引券が添えられていた。


「わかったわよ。じゃあ、あんたにも分かりやすいように実践して見せようじゃないの」


 そういうと、何故か再び買い物かごを抱えて店内に戻っていくチエ。

 その時、俺は何やら猛烈に嫌な予感に襲われた。


 どうしてかって?


 それは、あいつの目を見たからだ。

 さっきのチエの目。あれは、俺を誘拐……じゃなくって、軟禁……じゃなくって……無理やり家に連れ込んだ時と同じ目をしてやがったんだ。

 見境をなくしたとき、あいつはああいう目をするんだよ。



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