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19話 ゲームの常識、非常識!?

「……詰んだ」


 意気揚々と次の町に到着したベンが、その3日後に漏らしたセリフがそれだった。

 もちろん、オレはこの3日間一切手も口も出してない。というか、呆れてものが言えなかったというのが正直なところだったが。


 ここは北の町。

 初まりの城の北にあるから”北の町”。ひねりも何もない、加えて言えば何の特徴もない町だ。


 売ってる武器は、なぜか城下町よりちょっとだけ強い。お城の兵士たちに買占めでもあっているのだろうか?


 広さは半分以下。人の数もさらに少ない。

 ユグドラの体感時間でも、小一時間あれば探索が完了するレベルだ。

 

 たった一つ、この町に特徴があるとすれば、それは……


「なあ、ベン。一度、現状を整理してみようじゃないか」

「……」


 オレの提案に、黙って頷く。疲弊しているのが手に取るように分かる。

 無理もない。真性引きこもりのこいつが、根性出して3日間あらゆる町人に話しかけまくったんだ。


 ていうか、ここに来るまで一切モンスターと戦わなかったコイツだ。このゲームから戦闘を取ったら、あとは人との会話と探索しか残らねえ。

 城下町でも人に話しかけるのにあれだけ辟易としていたんだから、こうなっちまうのも当然か。


「今時点の、俺たちの目的は?」

「……ここからさらに北にある、関所を越える」


 その言葉を聞いて、オレは少しだけ安心した。別に、町人との会話を片っ端から忘れてしまったわけじゃないらしい。

 そもそも、こいつの記憶力はオレなんかよりも遥かに優れてるんだった。


「関所を越えるには?」

「……門番に通行手形を見せる」


 当たり前でしょ、という気配がありありとにじみ出てくる。

 それは、こっちのセリフでもあるんだがなあ……。とりあえず話を続けよう。


「通行手形を手に入れる方法は?」

「……」


 ここで、ベンはむっつりと黙りこくった。やっぱり、ここで引っかかってたのか……


「なあ、ベン。通行手形を手に入れる方法が分からなくて、3日間も悩んでたんだよな?」

「……ウン」


 改めて確認すると、ベンは素直に頷いた。不意に頭を掻きむしりたくなったが、じっとこらえる。

 どうして、こんな簡単な問題がこいつは解けないんだ?そんな馬鹿じゃないだろ。むしろ、頭の回転はすでに俺よりも速いんじゃないか?


「この町の人達には全員声かけたよな?何か気になったことはないか?」

「……手形は店に売ってない。町長さんにお願いしても発行してくれなかった。何度話しかけても、『ようこそ、北の町へ』としか言わないし。そもそも、誰が手形を持ってるのかもわからない」


 そこまで話を聞いて、俺の頬に一筋の汗が流れた。

 まさか、こいつ……。


「ベン。町長とお店以外でも話を聞いたろ?そこにヒントがあるんじゃないか?」

「……ヒントなんてなかった」


 なぜか断言するベン。

 いやいや、ちゃんとヒントあったでしょうよ!


「町の外れに住んでいたおじいさんは、なんて言ってた?」

 

 耐え切れずに、オレは一気に核心に踏み込む。


「……おじいさんは、持病を治す薬を作るために”ゴブリンのツノ”が欲しいんだけど、モンスターを倒せないから困ってるって言ってた……」


 最後の沈黙に「それが何か?」と言わんばかりの不満を乗せて、ぼそりとつぶやく。

 ここまで来て、ようやく俺は確信した。間違いない。コイツ……!


「ベン、おじいさんを助けてやろうとは思わなかったか?」

「……思わない」


「病気で苦しんでる人を助けるのも、勇者の仕事だろ?」

「……勇者の仕事?魔王に誘拐された姫を助けることでしょ?病気を治したければ、病院か薬局に行けばいいじゃん」


「そうじゃなくて!人助けすれば、何か見返りがあるかもとか、思わないか?」

「……見返りを求めて人を助けることって、善行とは言わないよね」


「そ、そうかもしれないが……困ってる人がいたら助けるのが普通だろ?」

「……おじさんは、その辺ですれ違ったおじいさんの薬をわざわざ買いに行ったことがあるの?」


「質問を質問で返すなあああああああ!」

 

 ああああもう!!!

 このガキはああああああ!


 町の真ん中でオレは思いっきり地団太を踏んで、その場で転げまわった。

 人の目なんか気にするか!どの道こいつらは「話しかけ」なけりゃ一切無反応なんだ!


「……ど、どうしたの!?急に」


 さすがのベンも慌てた様子だ。


「いいか!お前はそもそも”ゲームのお約束”ってのが全く分かってねえ!ここの攻略法はな、町の外でゴブリンを倒して、手に入れたツノをおじいさんに渡すんだよ!そうすりゃおじいさんが手形をくれるの!」


 さすがにこらえきれずに、正解を一気にまくしたてる。こんな当たり前のことを、どうして懇切丁寧に説明せにゃならんのだ……。

 興奮のあまり肩で息をするオレ。しかし、ベンは最後まで冷静だった。


「……なにその無理ゲー……完全にノーヒントじゃん……」


 オレはその場で再び転げまわり、結局その日は服についた埃を払い終わってゲームを終えたのだった。


 コイツには、ゲームの常識を叩き込むところから始めねばならんようだ……。

 




昔のゲームって、こんな感じでしたよね?

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