17話 少年時代回想 同棲
「どうしてこうなった!?」
フッカフカのベッドに体を沈めながら、オレは必死に今日起こった出来事を振り返っていた。
いや、冷静に考えればそれほどいろんなことは起きてないんだけどさ……。
「ゲーム屋でパチモンのカセットを買ったと思ったら、学校一の美少女の家に居候することになりました……ってさ」
何言ってるかわかんないだろ?オレだってそう思う。
オレは、手にしたカセットを改めて見下ろす。
このカセットが、全ての元凶だ。それだけは間違いない。
このゲームをプレイするため、チエはあっという間にオレを合法的に誘拐して見せた。
実家には"無料の夏季合宿"に招待したと偽り、着替え一式を持ってこさせる。
幸いにも(幸いか?)、今日から夏休みに入ったばかり。学校に行く必要がないため、他には何の問題もなかった。
あのクソ親父め、いくらなんでもそんな適当な理由で騙されるなよな……
どうせあのロクデナシのことだ。オレに食わせる飯代が浮いたとか言って喜んでるに違いない。
さっきも言ったと思うが、我が家は貧乏なのだ!
「世の中には、こんな大きな家に住んでるやつもいるっていうのに、不公平だよなあ」
マジでゲームの世界に入り込んだんじゃないかって錯覚するくらいに、大きくて奇麗な部屋だった。
俺みたいなやつが出入りしていい場所ではない。
でも、チエの奴は「他に似た部屋はいっぱいあるから、一部屋くらい構わないわ」なんて、そっけなく言いやがった。
さっきまでワシャワシャ鳴いていた蝉の声も、部屋の中には全然聞こえてこない。
冷房が効いてて、めちゃくちゃ快適だ。ここ、本当に同じ日本かよ……。
「すべては、このゲームをプレイするため……なんだよな……」
「その通りよ」
「(゜∀゜)アヒャ!」
思わず変な声出たわ!
独り言のつもりで呟いた声に返事が返ってきたもんだから、そりゃあビビるだろ。
「なんだよ、部屋に入る前には一言言えって!」
「ここは私の家なんだから、誰かに断る必要なんかないでしょ」
でました!ザ・お嬢様発言!金持ち美少女だけに許される、超特権発言ですよ、コレ!
発言の主であるチエは、部屋の入り口に仁王立ちして、ずんずんとこっちに迫って来る。
気が付けば、オレのすぐ目の前まで急接近だ。
「さっきも思ったが。お前、ちょっと距離感おかしいぞ!?」
何かに興奮しているらしく、荒い吐息が感じられるほどの距離。ちょっと、こそばゆい……!
目はギラギラと光っていて、その目線は俺の手元に向いていた。
「ウフフフ、やっと見つけたわ……。さあ、もう待ちきれない。早くプレイしましょ!」
獣のような気迫に気圧されたオレは、いつの間にかベッドに押し倒される形になっていた。
なんか……こういうのって良くない気がするんだけど……
よく分からないが、体がムズムズするのを必死に抑えて、オレはチエに落ち着くように言い聞かせる。
「ちょっと落ち着け!そもそも、なんでそんなにこのゲームにこだわるんだよ?」
「なんで、ですって?」
オレの言葉にカチンときたのか、細くて整った眉毛を跳ね上げる。
あれ、なんか怒らせるようなこと言ったか、オレ?
「あんた、このゲームの価値も知らないで購入したの?」
「いや、ちょっとした手違いで……」
「信じられない!」という言葉が張り付いたような表情で、オレを見下ろす。
やっぱり、オレ、なんか悪いこと言ったみたいだわ。
「このゲームは超天才プログラマー、ナージャ=シベリが手掛けた最高傑作と言われてるのよ?」
「最高傑作?ゲーム屋のおっさんは滅茶苦茶難しいムリゲーだって言ってたけど……」
「そんなのはこのゲームの表層の印象に過ぎないわ。この作品が最も優れているところは、プログラムの構成の美しさにあるのよ」
プログラム?なんのことだ?
それから、チエは何やら興奮した様子で色々と小難しい言葉を並べ立ててオレに解説をしてくれたが、残念ながら俺には何のことだかさっぱりだった。
辛うじて分かったことといえば、
「このゲームは、可能な限り難しい方法で最も簡単なことを表現したところが凄いって、そういうことか?」
「……まあ、間違いではないわ。私も色んなゲームをプレイしてきたけど、このゲームに使われているコードはそれらとは全く違う法則で作られてるらしいのよ」
「で、それが実際どんなものなのか、プレイしてみたいってことか……」
どこで調べたのか知らないが、チエはゲームの仕組みの方に興味があるらしい。
頭が良いってのは聞いていたが、天才ってのは普通の奴とは違ったところが好きになるんだろうな。
オレにとってはどんな言葉で書かれていても、結局は面白いか面白くないかしか分からないんだが、こいつにとってはそうじゃないんだろう。
「オレだって、少ない小遣い叩いて買った初めてのゲームだ。早くプレイしてみたいしな」
「ゲーム機はこっちに用意したわ。早速やりましょ!」
チエに誘われるままにゲーム機にカセットを差し込む。
ああは言ったものの、オレだってゲーマーの端くれだ。ゲームの電源を入れる、この瞬間がたまらなく燃える。
新しい冒険に繰り出す、ワクワクが全身を駆け巡る。
「ああ、この瞬間を待ちわびてたのよ……!」
ニュアンスが違う気もするが、どうやらチエも同じ気持ちらしかった。
同じ興奮を共有できていることが少しだけ嬉しかった。そして、ゲーム機のスイッチを入れる。
カチッ ビ―――――
「「……あれ?」」
俺たち二人の声が、見事にハモった瞬間だった。
まさか……このゲーム……
「「壊れてるの?」」
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