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16話 少年時代回想 出会い


「ねんがんのゲームを手に入れたぞ!」

「毎度あり」


 それは、小学4年の夏休み初日の出来事だった。


 ゲームショップのおっさんの声を背に、オレは待ちきれずに店の中で箱を開封し始めた。

 少ない小遣いをコツコツためて、ようやくこの日を迎えたぜ……!


 人生で初めて買うゲームは、こいつと決めていた。

 学校でもみんなプレイしている、超人気のRPGだ。

 これで、クラスのみんなの話題に入っていける。


「今日から、オレも冒険者の仲間入りだ……!」


 しかし、その喜びに満ちた時間は、そう長くは続かなかった……。

 開封してみて、すぐに異変に気付く。


「あれ?なんか違くね?」


 クラスでみんなが話してるのと、内容が違って見える。

 いや、似てるんだけど……何かが違う……


「あ!」


 改めてパッケージを見直して、ようやくオレはその違いに気づいた。


「ド()ゴン……クエスト……?」


 だーまーさーれーたー!


 こんな、1文字違いの紛らわしいタイトルにするんじゃねえよ!

 間違って買うバカがいたらどうすんだよ!


 はい、そのバカがここにいましたー!


「おっちゃん、このゲーム、間違って買ったんだけど……」


 涙目で訴えるオレに、おっさんは容赦なくこう言い放つ。


「一度開封しちまったもんはダメだ。うちは中古品は扱わないから、買取もしない」

「そんな……そこを何とか!」


「坊主……たとえ間違ってたとしても、男が一度決めたことを曲げちゃいけねえ。自分で選んだ道を、最後まで突き進む。それが男ってもんだ」

「ほら、こうやれば元通り新品みたいに見えるだろ?」


 丁寧に箱に包みなおして見せるが、それでもおっさんは首を縦に振らない。


「じゃ、じゃあ、初めからこういうパッケージだったってことにして……」

「ダメだ」


「そ、それじゃあこういうのはどう?」


 オレの度重なる提案は、すべて却下。

 気が付けば一時間以上押し問答を繰り返していた。


「坊主も中々しぶといな。その根性があれば、きっとそのゲームをクリアできるだろうさ」

「そ、そんなに難しいの?これ」


「ああ、難しすぎて誰もクリアできないってんで、全然売れなかったゲームなんだと」

「ひょっとして、全然売れなかった在庫が売れたから、買い戻すのが嫌になったんじゃ……?」


 オレの的確なツッコミにも、ゲームやのおっさんは折れることはなかった。

 しかも、なんだよこのゲーム……。


 よく見たら『二人プレイ専用』って書いてるじゃないか。

 ゲームを一緒にプレイできる友達がいないから、こうやって必死に共通の話題作るために人気のゲームを買ったのに……


「そりゃあねえよお……」


 万策尽きて、がっくりと膝をつくオレ。

 そんなオレの耳に、どこかで聞いたことのある声が飛び込んできた。


 どうやら、オレが崩れ落ちている間に別の客がやってきていたらしい。

 その客が何やらおっさんともめているようだ。


「ちょっと、売っちゃったってどういうことよ!?電話で在庫があるのは確認したでしょ?」

「そんなこと言ったって、ダメなもんはダメだ。うちは取り置きはしない主義でな。なんでも早いもん勝ちだよ」


 この強気な声は……。

 顔を上げると、そこにはゲームショップのおっさんに突っかかる同い年の女の子が立っていた。


 間違いない。あいつだ。


 長い黒髪を丁寧に結い上げた、育ちのよさそうな顔立ち。

 いかにもお嬢様と言った服装だったが、さっきからものすごい剣幕でまくしたてるその表情が全てをぶち壊しにしていた。


 黙っていれば泣く子も振り向く美少女だろうに、その性格が災いしてクラスで誰一人寄り付かない孤高の存在。

 

「墨田……チエ……」


 お嬢様育ちだと思っていた彼女が、まさかこんな商店街のゲームショップにいるとは思わなかった。

 呆然と呟いた俺の声は、当然彼女の耳には入っておらず、依然物凄い剣幕でおっさんに詰め寄っている。

 

「私は電話で購入の意思を伝え、あなたはそれを否定しなかった。つまり、電話をした時点で売買契約は成立していたってことでしょ?」

「そんな難しい言葉を使っても、ダメなもんはダメだ」


「そういう態度をとるんなら、今すぐ消費者庁に訴えてやるから!」

 

 何やら物騒な言葉を持ち出してるが、本当にオレと同じ10歳なのか?

 確か、めちゃくちゃ頭が良くて、学校の先生もよく言い負かされてたっけ。


「訴えたきゃ好きにしな。ここは俺の城だ。だから、ここでは俺が決めたルールが絶対だ」

「~~~!」


 男気を炸裂させるおっさんに、墨田もついに言葉に詰まってしまったようだ。

 そんな彼女を見かねてか、ついついおっさんが余計なことを口走る。


「嬢ちゃんの欲しかったゲームな。そこの小僧が買ってったんだ。どうしても欲しいなら、本人に直接言うんだな」


 ギン!


 そんな音が聞こえてきそうなほどの鋭さで、墨田の大きな目がオレの方を向く。

 うわあ、可愛いんだけど……怖え……


 何でオレが恨まれなくちゃいけないんだ?

 おっさんが余計なことを言ったせいだぞ!


「ちょっとあんた。そのゲーム、どうするつもり?」

「どうするって……そりゃあ、家に帰ってプレイするつもりだけど……」


 ていうかコイツ、オレがクラスメイトだって気づいて無くないか?

 そりゃあ、オレはクラスじゃ目立たない方だけどさ。


 逆に考えれば、初対面の相手にこんな言い方するって相当性格きついだろ……。


「いくらでも出すわ。そのゲーム、私に売りなさい」

「はあ?」


 小学生が言う台詞じゃないだろ、それ。

 オレが呆気に取られていると、墨田は財布から札束を取り出して俺の頬をビンタする。


 札束のインクの匂いがスゲエ。

 こんなたくさんの金を見るのは初めてだぜ……!


「って、何すんだよ!」

「いくらでも出すって言ったでしょ?このお金で、そのゲームを私に売りなさい!」


 なんて我儘なヤツ……。

 オレが呆気に取られていると、さすがに申し訳ないと思ったのか、おっさんが助け舟を出してくれた。


「嬢ちゃん、知らないのか?そのゲーム、二人プレイ専用なんだぜ?」

「……?」


 言われてはじめて気づいたようで、まじまじとオレの手元のパッケージに視線を落とす。

 チョット、顔が近い!


 シャンプーの良いにおいがする。肌、めっちゃ奇麗だし、まつげも長い。

 なんだか色んなことがいっぺんに起こって頭が混乱してきた。


「どうすんのよ。私、一緒にプレイする友達なんていないわ……」


 愕然とその場に立ち尽くす墨田。あ、強気の表情もいいけど、こうして困った顔してるのも可愛いな。

 オレが呆然と墨田の顔に見とれていると、彼女の視線がゲームのパッケージから俺の顔に方向転換する。


 だから、距離が近いって!そんなに近くで見つめないでくれ!


「あら、あんた。クラスメイトのツトムじゃない」

「今更気づいたのかよ!それに、いきなり名前を呼び捨て!?」


「別に、私のこともチエで良いわよ?なにせ、これから……」


 その後、チエはさも当然のような顔をして、とんでもないことを言い出したのだった。


「これから、あんたは私の家で一緒に住むんだから」


もっと面白い話を書くため、ご協力をお願いします

率直な印象を星の数で教えていただければ幸いです


つまらなければ、遠慮なく星1つつけてやってください


感想も、思ったことを気軽に書き込んでもらえるとモチベーションになります。

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[良い点] 友達は非売品ってことか…ウッ頭が
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