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10話 ゲームを起動させるのも一苦労だよ!

 それから、早速オレ達は『ドルクエ』にダイブすることにした。

 手順は簡単。VRゴーグルを装着して、意識を集中するだけ。


 さっきも言ったが、ユグドラはゲームではなくコントローラだ。


 俺たちの意思を反映して、コマンドとしてゲームに命令を出力し、ゲームからの回答を俺たちにフィードバックさせる。

 ゲームの起動やリセットすらも、俺たちの意思で実行可能というわけだ。


「それじゃあ、早速やってみようか!ベン、メインはお前がやれ」

「……ボクが……?どうして……?」


「チエの手紙にあったろ?”ゲームを楽しめ”って。ゲームを楽しむ一番の方法は、自分でプレイする!俺が言うんだから間違いない」

「……ウン」


「安心しろ。肝心なところは俺がサポートしてやっから!」


 自信満々の声でベンを後押ししてやる。

 しかし、この時の俺は声とは裏腹に、全身に冷や汗をびっしりかいていた。


 ……やべえ……どういうわけか、ドルクエの記憶がごっそり抜け落ちてるじゃねえか!

 どうしたオレ?らしくないぞ、オレ!


 ゲームの知識だけは誰にも負けないんじゃなかったのか?

 それが、初めてまともにプレイしたゲームのことをすっかり忘れてるなんておかしいだろ!


「……おじさん、どうかした?」

「イヤ、ナンデモナイデスヨ?」


 必死にごまかそうとする俺の演技力に騙されたのか(あるいは興味がなかったのか)、ベンは脱ぎ掛けていたゴーグルをかぶりなおす。

 と、とにかく目の前のゲームに集中するのだ!


「……じゃあ、始める……」


 真っ暗だったディスプレイにゲームの起動画面が映し出される。

 通常の起動画面であれば、メーカーのロゴが表示されてタイトル画面に移行するのだが、今回はそうはならなかった。


 ビーーーーーー


 無機質な機械音と共に、目の前一面にモザイク模様が表示される。

 刻一刻と姿を変えるモザイク模様。油断すればポケモ〇フラッシュで、意識を飛ばされるところだった。


「……なに?こういうゲームなの?」


 冷静なベンの声色も、若干こわばっているのが分かる。いきなりこんなモンをVRディスプレイで見せられたんじゃ、混乱するのも無理はないわな。

 一方の俺は、この画面を見たことで当時の記憶を徐々に思い出していた。


 ああ、そうだ。これって、こういうゲームだったわ……。


「……これ、故障?すぐ、電源を切る」

「ちょっと待て。あと、5秒だけ待つんだ」


 電源を切ろうとするベンを静止して、俺は心の中で静かに時間を数えた。

 ゴーグルを外し、ゲーム機本体の前に陣取る。


 大事なのは、タイミングだ。ゆっくりと、落ち着いて数えるんだ。


 5…4…3…2…1…よし!


 タイミングを見計らい、ゲーム機本体から素早くカセットを抜き取る。

 そしてすぐさまカセットの端子部分に息を吹きかけ、ホコリを吹き飛ばす。


 間髪入れずに再び本体にカセットを押し込む!

 驚け!この間わずか1秒だ!


 熟練のゲーマーにしかなしえない神業よ!


「あ、動いた……」


 すぐに俺もゴーグルを装着する。画面の向こうには、昔懐かしいゲームタイトルが表示されていた。


「今、()()()()()()()()()よね?……なにしたの?」

「今のは、このゲームを起動するために必要なおまじないさ」


 説明が面倒だったので、そうとだけ説明して納得させた。

 何を隠そう、このゲーム。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。


 バグなのか、仕様なのかは不明としか言いようがない。

 いや、こういう仕様で販売したとしたらさすがに消費者庁に訴えられるだろうけど……。


 やっぱ、バグなのかな?

 でもこのゲーム。プレイしてるとこういう現象が所々に見つかるんだよ。


 なんていうか、バグを想定してゲームを作ってる節があるんだよなあ……。  


「……納得できない……」


 納得しない様子のベンに、仕方なく説明してやることにした。


「この当時のゲーム機は、本体とカセットの両方で情報をやり取りしている。つまり、カセットからゲーム機本体に一時的にデータを保存するようなものだな」


 厳密にいえば、昔も今もその仕様は変わらない。ソフトとハードの両方で一つのゲームという世界を計算しているのだから。


「ドルクエの正式な起動画面を呼び出すためには、さっきのようなバグった表示をさせて、その情報を一度ゲーム機本体に保存させるという手順を踏まなければならない。本体の電源を切れば、当然メモリは消える。つまり、さっきの動作を電源がついたまま実行しなくてはならないってこと」


 どうだ?このゲームが究極の無理ゲーと呼ばれる理由が分かってきたろ?

 起動するだけで一苦労なんだぜ?


 当時、オレとチエの二人がかりで1週間かかったんだからな!?


「さっき、カセットをフーッてしたのも?」


 少しだけ食い下がってくるベンに、俺は胸を張ってこう答えた。


「あれは、古きゲーマーたちの中で流行した復活の儀式さ!特に意味はない!」


 湿った吐息を金属に吹きかけると、錆びの原因になってカセットが壊れちゃうらしいぞ!

 良い子は真似するなよ!


もっと面白い話を書くため、ご協力をお願いします

率直な印象を星の数で教えていただければ幸いです


つまらなければ、遠慮なく星1つつけてやってください


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[良い点] カセットフーフーは受け継がれるべき文化である
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